白
マキちゃんは恋愛脳な上に顔が良いから、本人が望む限り彼氏いる状態が途絶えなかった。それでも高校時代は、彼氏より私や萩原といる時間が長かったはずだから、大抵のことは気にならなかった。だから、気付くのが遅れたんだとも思う。一度私が堪えたことと言えば、マキちゃんらしくない程に彼氏に入れ込んで三人の約束をドタキャンした時は、つい萩原に彼氏彼女ってそんなに良いの?と聞いてしまったことがあった。萩原は歯切れの悪い受け答えで、そういうのはマキに聞きなよ、と最後に言った。
マキちゃんの恋愛脳のおかげでマキちゃんへの恋心に気付いたきっかけは私の連絡先漏洩事件だ。でもそれが自分にとって良い方向にいけたのは、相手の男の子がマキちゃんといる私を好いたのだと、打ち明けてくれたからだった。その男の子は、「それをおかしいと思わないし、言いふらすつもりもない、ただ好きな人が他の人を好きだっただけ、それが確認できて良かった。」と言ってくれた。
さて、場所は変わって居酒屋に来た。萩原も私たち二人の顔色を窺いながら個室に入ってきた。その様子で、あぁこの人にも私の気持ちがバレてしまっていたのだな、と感じた。マキちゃんはお酒は好きだけどあまり飲めないらしく二杯空ける頃には顔が真っ赤になって陽気になって萩原から水を渡されていた。 水を一気に飲み干して、私が「マキちゃん大丈夫?」と尋ねた。
「大丈夫だよ。ね、それよりさ、私たち三人で仕事したいね。絶対楽しいよ。」
と机に頬杖をつきながらニヤニヤして言った。
私は萩原の目を合わせて、お互い吹き出して笑った。
「じゃあさ、古民家買ってカフェにしようよ」
「気が合うねえ。マキはウェイターとレジ打ちと客引きね」
「え!店長は私じゃないの?声、通るよ?」
とアルコールでなよなよになったマキちゃんが言った。
「店長は萩原だよ、マキちゃん。マキちゃんの声は通るけど、やっぱり萩原は縁の下の力持ちって感じがするから」
「てか店長に声関係ないな。もちろんユリはフード全般だな」
楽しいね、って誰が言ったか分からないくらい三人で笑って、話し合いは白熱して、どんなメニューにするか、立地は、コンセプトは、価格帯は、なんてどんどん夢の話を膨らませた。
マキちゃんが潰れて寝てしまったのを見計らったように、萩原が
「また三人で会えてよかった」
と言った。
「私、きっと何よりも三人でいる時間が好きだと思う。」
と二人の顔を見て答えた。
「それなら、良かった」
「私も、二人に連絡して良かった、二十秒息止めてられて良かった」
と、訳の分からないことをマキちゃんが言うので萩原と二人で笑った。
古民家を購入して、修繕をし、設備を整え、何年越しになっただろうか、今日が開店日。
私たちの目的地が出発地点になる日。
「賄いは期待しててね」
と二人に言ってキッチンに入った。
「お店の中ちょっと寂しかったかな?」
と言う背中を
「売上出たら買おうぜ」
と叩いたのが聞こえた。
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