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アガサ・クリスティ『五匹の子豚』『葬儀を終えて』早川書房

暑がりの人間にとっては辛い季節の到来だ。おまけに春からずっと公私ともに低調である。大きな不運に見舞われたわけではないのだが、ちょこちょことどうでもいいような不運が順番にやってくる。落ち込む、落ち込む。こんなときには面白い推理小説を読んで、しばし現実を忘れたい…..。

それで選んだのはクリスティの2冊。どちらも「知る人ぞ知る」的なクリスティの傑作らしい。『そして誰もいなくなった』とか『オリエント急行殺人事件』とか、ああいう超有名なものではなく、筋金入りのクリスティ・ファンが認めるシブイ傑作らしいのだ。さっそく読んでみよう。

と言っても、推理小説はネタばれ厳禁。感想を書くのが難しい。わたしとしては断然『葬儀を終えて』がよかった。なんといっても、ポアロにやや老いの陰りが見えるところがよい。自信満々に名乗ったのに、登場人物たちは「誰それ?」的な反応を示したりするのも面白い。犯人は誰かを推理するときもかなり悩んでいるようなのだ。

面白かったのは、偶然この2冊に「画家」が登場するところである。『五匹の子豚』で殺されるのは有名画家だし、『葬儀を終えて』で殺されるのは素人画家である。ともに、彼らの絵をそれぞれ「基礎がでたらめ」「絵を見る目がまるでない」などと批判する人間が登場しているのも面白い。クリスティにとって画家は小説家の代わりなのかな。

さて、あと積読しているのはポアロ最後の事件『カーテン』で、そのあとは『クリスティ自伝』が待っている。そう、それで一応クリスティとサヨナラするつもりなのだ。でもその前に、昔読んで忘れてしまったものも読んでみたい気がするのだが……。

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