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粕谷栄市『瑞兆』思潮社

初めて読む詩人の、短い短い物語のような散文詩が集められた詩集。どれも日本や中国の昔話のようだが、夢と現実の境い目がわからないような、ぼんやりと切ない話ばかり。生きるってなんてはかないことなんだろう。充実した一生を送ろうと肩に力をこめて過ごしても空しいばかり。

たとえば「狸屋」という詩は、男が生きるためのお金を得ようと狸屋になる。狸を売るのだが、客がなんのために狸を買うのかもわからず、ただ少しのお金を稼いで生活する。しかしそれは彼の夢のなかの出来事かもしれない。ひょっとしたら狸が見ている夢なのかもしれない。

年末の疲れた時期に読むにはぴったりの詩集だった。この人の詩をもっと読みたい。


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