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小松左京『霧が晴れた時』KADOKAWA

初めて読む小松左京。これは自選恐怖小説集。いやぁ、あんまり面白くてびっくりした。

わたしの場合、小松左京という名前は『日本沈没』と直結している。当時は映画が話題だったけれど、特に読みたいとも思わなかった。なんとなく筒井康隆の前の世代の人という、ちょっと古いイメージもあったかもしれない。でも初めて読んだ小松左京はすごかった。収められた短編がはずれなく全部面白いし、SFとかホラーというジャンルを超えている傑作揃いだ。夜トイレに行けないような怖さではなくて、人間とか歴史とか、何より日本について考えてしまう。じわじわと怖さがしみこんでくる。

群を抜いて素晴らしいのは有名な「くだんのはは」だが、それ以外にも、すべての人に自分のドッペルゲンガーが現れてしまう「影が重なる時」、ある日突然に夫が妻を食べたくなり、妻も自分を差し出してしまう「秘密(タブ)」、井戸を掘ろうと思って庭を掘ってもらうと古代の人骨が、ついでその「前」ではなく「後」の時代の人骨が次々出てくる「骨」など。

わたしが好きなのは巨大な団地の話。ある棟の5階に住んでいた男の子が4階に行く途中で消えてしまう。その子の泣き声は聞こえるのだがどこにいるのかわからない……という「蟻の園」。(出だしは村上春樹の『東京奇譚集』にある短編に似ているがもっと複雑なのだ。)

ほんとに面白かったので、図書館で借りたけれど自分で買おうかな。すっかり内容を忘れた頃にまた読んでみたい。



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