レンアイ漫画家 第7話 レビュー 「愛です」の破壊力で心が融解していく清一郎。鈴木亮平と吉岡里帆にしかできない圧倒的な表現力。

(ドラマにはまりすぎて長文になっております。ご了承ください)

レンアイ漫画家 公式サイト https://www.fujitv.co.jp/renaimangaka/

引きこもりの孤高の漫画家、刈部清一郎がなぜ虚構の中で恋愛漫画を書くようになったのか、そのきっかけとなるトラウマがこの第7話でいよいよ明かされた。

そのトラウマとは、初恋の相手・美波の存在。
美波も過去に清一郎を好きになり、二人は付き合うところまでいったようだが、実は美波が本当に好きだったのは弟の純で、純は奥手な兄を心配して美波を清一郎に引き合わせたというのだ。

しかし、美波は純の子を妊娠してしまう。純と美波に謝罪されてその事実を明かされ、もともと繊細すぎる心を持つ清一郎は深く傷ついた。そして、恋愛なんてしないと決める。そのかわり、得意な漫画を仕事にして、虚構の中で恋愛を描きはじめる。

美波のほうは純に近づくために清一郎を利用したということなのか、結果、レンを妊娠して純を手に入れられたが、結婚生活は長く続かず、別の男と恋をしてフランスへ行った(そして戻ってきた)ということらしい。

自由奔放で勝手な母親の美波だが、レンを見ると良い育てられかたをしていると感じる。たびたび回想で出てくる純はみんなの人気者で、優しく誰からも愛されていた。女にはめっぽう弱い人物だったが、人としては良い人物だったのだろう。レンの子育ても彼がしてきて、おかげでレンはまっすぐ礼儀正しい子に育ったといえる。

清一郎は純にはかなわないし、憎めない。
純が大切にしていた絵に、清一郎が描いた純とレンの親子のものがある。橋の上で楽しそうに笑い合う親子。その絵の暖かいタッチのように、清一郎は、ふたりを心の底で応援していたのだろう。

美波の突然の出現と、母親を渇望するレンの気持ちに触れ、酒に酔いつぶれキャラの変わった清一郎が「あいつ、憎めないだろ」と優しい顔で言う。

誰もが純を好きになる。清一郎の奥深くにある純への羨望。「純は美波を奪った」と言うあいこに「美波が本当は純を好きだっただけで、自分はずっと蚊帳の外だった」と寂しい思いを打ち明ける。清一郎は純を憎んでいるわけではない。第一話で、亡くなった純の棺を開け嗚咽して泣いていたように、清一郎は心から純を大事な弟で大切な存在と思っていた。

そんな心優しく孤独な清一郎を、あいこが抱き締める。
「刈部さんはずるいですよ。人には疑似恋愛させといて、自分は描くだけなんて」とあいこが言うシーンは、見てるこちらも胸が苦しくて息がとまりそうになる。

「刈部さんは・・・したくないんですか」

「何を」

「だから・・・・恋愛です」

勇気を振り絞って声にするあいこの表情は、緊張と恥ずかしさが入り交じる。彼女の早い鼓動がまるで聞こえるよう。演技とは思えないほどリアルだ。

「(恋愛なんか)したくないねえ」
とつぶやく清一郎を、背中からあいこは強く抱き締める。顔を赤らめて涙を浮かべながら、大きな清一郎の体ごと包み込むように、ぎゅーっと何度も。あいこの愛と思いやりが溢れる美しい場面だった。

「何だ・・・これは」と驚く清一郎に「愛です!」と答えるあいこ。
あいこは、清一郎への愛が我慢できずに溢れだすのを止められないといった様子だ。
愛を与える、という行為はなんて尊いんだろう。

そして清一郎はというと、おののきながらも、あいこの暖かさに身を委ね、思いより先に心が融解していく。その清一郎の表情もまたリアル。
清一郎が言葉にはしていないが、抱き締められる表情から、「(えっ、愛・・・?)」と心の中で呟いているのが聞こえてくるようだ。

清一郎があいこに抱きしめられて感じた感情は、自分が虚構の中で描いてきた「愛」ではない。「愛」という名のもとに初めて沸き起こる感情だった。鈴木亮平さんが演じる、清一郎の戸惑いと幸せ、未知なものの前でおののく、という静の演技は、頑なで無垢な鬼瓦をいとおしく思わせる。その繊細な演技の素晴らしさに、何度も繰り返し録画を見てしまう。

一見、ポップでコミカルなラブコメ作品になぜ、鈴木亮平さんと吉岡里帆さんがキャスティングされたのかがこれで納得した。愛を知らない男が愛を知っていく様子や、溢れる愛を与えるという難しい表現を、こんなに丁寧に嘘がなく演じられるのは、まさしく深い愛と確かな演技力、表現力を持ち合わせた俳優でないと成り立たないからだ。

酔っていることも忘れてわれに返り、あいこの手をおろす清一郎の動作も注目したい。まるで大切なものに触れるかのようにとても優しい。そういえば、美波が清一郎を後ろから抱きしめたときも、手を下ろすしぐさはとても優しかった。いつも「は?」と強い口調で人を突き放す清一郎の本来持つ優しさがにじみ出るしぐさだ。

「レンアイ漫画家」は、毎回最後に清一郎の行動を「あれはどういうことだったのか?」的にフィードバックし、ラストでキュンを高めて終わるという実にいい作り方をしている。

「寝る」と、あいこの顔をあえて見ずそそくさと部屋に戻る清一郎だったが、部屋に戻って抱きしめられた余韻であいこへの愛情を確認するのかと思いきや、

「愛・・・とは?」

とあわてて辞書で調べ始める。その清一郎の行動は、感動のあとにとてもコミカルだったが、そこもなんだか胸を打たれた。

大人が辞書をひくという姿はなんだか新鮮だ。第一話で、純の息子のレンが、清一郎に言われた「対等」という言葉を辞書で調べて理解するというシーンがあったが、気になることを辞書で調べるのは刈部家の血なのだろうか。清一郎とレンの行動が同じであることにほっこりしつつも、「愛とは?」ととっさに辞書を開き、くいいるように辞書のページをめくる清一郎は、まるで子供のように純粋だ。

もちろん、国民的人気を誇る恋愛漫画家なのだから、「愛」という言葉を知らないはずはないであろう。しかし、たった今あいこにもらった「愛です」と自分の感情は、自分の知る「愛」とはまったく違う。まだ人を心から愛して愛されたことがないという意味では、清一郎はまだ子供のまま。

「もう疑似恋愛はしたくないんです。本当の恋愛がしたいんです…刈部さんと。」
あいこの告白に清一郎がなんと答えるのか。これからふたりはどうなるのか。第5話のサカイが憑依した優しい笑顔が清一郎から引き出されるのか。今後の展開が楽しみだ。



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