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我が家の226事件か

 その日は朝から慌ただしかった。少々の家具と介護ベッドがなくなり、玄関にあった昇降機も居なくなり、寝室として使っていた部屋が空っぽになった。ひゅんひゅんと飼い犬がいつもと違う泣き方をする。まあ、予定されていたことではあるが、その日からかみさんが、いやかみさんだけが大分市民から別府市民になった。一人暮らしがしてみたい。って、お前55才だろ。卒婚します。って、恰好よく宣言するな。はいはい、私らはあなたのために、あなたは私らのためにですね。あなたが望むことなら、喜んで送り出しましょう。子供らも、いいな。そうか、いいのか。では、行ってらっしゃい。そして、大きくなって帰って来なさい。身体の大きさじゃないから。分かってますか、はいはい。これって、我が家の226事件かも。
 うーん、かみさんのこの突然とも思える選択って、何なんだろう。要介護2、障害程度区分4、進行性難病のくせに明るく元気に立ち向かう振りをするかみさん。家族介護における虐待の事実は、うーん、言葉ではないとは言えないなぁ。あれして、これしてに対して、素直に身体は反応しないんだよね。「えーっ、今ですか」「はい、今でしょ」「ったく、空気読めよな」みたいなやり取りの数々、降り積もったかなぁ。今年は雪もたくさんだったし。関係ないけど。私も子供たちも、これはちょっと反省しよう。でも、そこそこ楽しそうに生活してたと思うけどな。じゃあ、何。難病の患者会の会長、自称ピアカウンセラーとしてのスキルアップのためか。自立を目指すクライアントからの相談を受けるにあたって、カウンセラー自身が「一人で自立できるもの」みたいな経験が必要と思ったのだろうか。だとすると、とんでもなくハングリーな奴やないか。
 翌朝6時、長男が出勤する気配に一度、目が覚めたような。次はいつもの7時に携帯の目覚ましで目が覚めたような。異変が起きたのは10時過ぎ、足元で飼い犬のひゅんひゅんという鳴き声と寝返りの気配。その後なのか、前なのか定かではないけど、悪夢が襲って来た。もう何年も会っていない友人の奥さんから電話があって、「〇○ですけど、あのぉ、1万円のこと覚えてる。まだ返してもらってないけど。」って、びっくり、飛び起きたら全身から油汗、肩で呼吸してた。いやー参った。かつてはビルから落ちる夢、拳銃で撃たれる夢、追いかけられる夢と数々見たけど、こんな脈絡のないシンプルな夢は初めて、怖かった。改めて、部屋を見回すと。20数年一緒に居たかみさんが居ない。俺って寂しがってる。まさか。寂しがってません。じゃあ、何その訳のわからない夢のトリガーが他にあるかい。うーん、それから探すよ。なんて自問自答をしてみる。振り返ると、飼い犬がひゅんとひと鳴き。10年の一度の遅刻じゃ、泣きたいのは俺の方だわ。
 さあ、子供たち、男三匹とワンちゃん一人、力を合わせてやって行こうな。「なあ、オトウ、オカアは何処に行こうとしてるのかな」「うむ、それはオトウにも分からん」母、55歳からの単身赴任、応援するしかないでしょ。「で、今夜の夕食は各自でとること。いいな。」「えっ、いきなりかよ。やべぇんじゃね。」「うんにゃ、そったらこたねぇ。大丈夫だぁ。」つづく
20140309

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