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続、たんぽぽの唄

翌々日のこと
日曜日になって降り始めた雨が上がる。
小鳥たちがさえずり、春の風がなびく。

えー誰っ、お前。
誰って、まあ隣人です。
確かに隣には居るけど、まさかね。
昨日は居なかったよな。
はい、新入りです。よろしくお願いします。
いやいや、こちらこそだけど。
変わり者は俺だけじゃなかったってことか。
ここがどんなとこだか分かってるよね。
はー、状況的にはかなりリスキーなとこみたいですね。
先輩の様子見たら分かります。
いい感じにバラけてますもん。
何じゃそのいい感じって。
はー、どこか戦いの後みたいな、花びらの擦れ加減が粋ですよ。
そ、そうか。
でも、もう一雨、一踏み来るとアウトな感じですね。
はっきり言うな。
はあ、すいません。
でも一人じゃなくて心強いです、先輩。
そうな。でも二人じゃなぁ。
いやいや、先輩は知らないかも知れませんが、下の方で頑張ってるのが居るんですよ。
先輩のように高見を目指そうとしてる奴らが居るんですよ。
必至で太陽に近づこうとして、凌ぎを削ってますよ。
太陽は遠過ぎるだろう。
いや気持ちの問題すっ。
今は先輩と俺のたった2人、いや2輪ですが、
そのうち下の奴らがわーと出て来て、ここのグレイチングの四角い穴が皆、
俺たちたんぽぽで埋まったら、先輩どうです。凄くないですか。
いやそれは確かにそこまで行けたら凄いわ。
でしょう。俺達のこと余所じゃダンディライオンって言うらしいす。
ライオンの牙って意味らしいす。
ライオンがこのあたり一面に横たわる風景って、メルヘンですよね。
きっとLINEとかFACEBOOKとかにアップされて、
もう大騒ぎですよ。ダンディライオンを守る会なんてのが結成されて、
全国ネットですよ。珍百景とかにエントリーされるんすかね。
お前、話が走るね。ちょっと落ち着こうか。
確かに夢は大切だよ。でも俺たちの目的って、種を残し続けることだからね。
目立っちゃダメなの。それに元々、種としては強い部類に入るみたいだから。
ド派手なダンディライオンより、市井のたんぽぽくらいがいいのよ。
でも、若いってのはいいなぁ。無軌道で破天荒で、青春っていうのかな。
いや先輩、俺たち一日しか違わないですから。
まあ、俺達は着地して芽が出て、綿毛になって飛び立つまで1カ月だよ。
だからこの瞬間の連続の中で繰り広げられる命のバトン受け渡しに、
種の存続の妙があるわけよ。
先輩、いい話っすね。俺、感動で涙出そうす。
さあ、もう陽が暮れる。少し休もう。
明日、目が覚めたら、もしかしたらお前が言うような風景が広がっていたら、
今度は俺が泣くよ。おやすみダンディライオン。
おわり

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