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緑の君

人は入れない不思議の森の片隅に
緑の君が住んでいます。

たぷたぷとした泉のほとりに
赤い屋根と白い煙突。

彼女の家には、小人達が集まります。

彼女の振る舞う甘いお菓子に魅せられて
木の実や赤い花を見つけては
褒めて褒めてとやってきます。

あまりに沢山の花を抱えてきた小人を、たしなめることもあります。
彼はしょげながらも、どこか嬉しそうにしています。

なにせ緑の君はとても美しく
困った顔もたまらないのです。


日が暮れると、彼女の髪からは小さな雫がこぼれ落ちます。

小人達は、なぜか見ないふりをして、早々に帰路につきます。


彼女は窓際で、ゆっくり髪を梳かします。

はらはらとこぼれる雫のいくつかは、小さな結晶になり、月の光にきらきらと煌めきます。


ごとん、と音がし、思わず手を止めると、
そこには水滴をまとわせた緑の石がありました。


珍しいこともあるのね。

水滴を拭うと、ほわんと温かみを感じます。


あらあら、どうしましょう。

…それは小さな卵でした。


とりあえず、温めたらいいかしらね。

お湯はまずいわね。ゆで卵にしちゃいそう。


美しい顔を曇らせ、ウロウロと歩くことしばし。


えい、と胸元にその卵を忍ばせました。


…うまく孵るかしらね。

そもそも孵るのかしら?


緑の君は、少し楽しくなってきました。

宝石のような緑の卵を見つめながら、
話しかけます。


あなたはだあれ?

小さなドラゴン?

それとも小鳥?

まさか蛇ってことはないわよね。


夜が更けていきます。

月が手を伸ばし、赤い屋根をそうっと撫でていきました。

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