第七話 雨の箱庭
私はこれから泣くために、あそこに行くのだ。
傘を持つ手をじっと見つめながら、思いを馳せる。
ここに来るまで、いったいどれほどの時間が必要だったのだろう。
私を許せない私を許すのだ。
…いや、違う。
あの人を傷つけに行くのだ。
私があの人を選んだのは、同じ傷を持っているからだ。
あの人が持っている傷をえぐりに行くのだ。
私の湖に沈む大きな岩を砕くために。
…導かれるように、信号が青に変わる。
何を手放し、何を手に入れるのだろう。
大きな痛みを伴うことは想像に難くない。
私の言葉は鋭い刃と化すだろう。
ああ、そうだ。
私は私であることを手放したいのだ。
感じのいい人であることを。
お利口であることに、もうほとほと飽きたのだ。
ずいぶん遅れてきた思春期なのかしらね。
誰かの期待に応えて応えて、自分がすり減っていく。
こんなことがしたいんじゃない。
だからこそ。
道を切り開きに行くのだ。
どうか。
『 私に変えられないことは、
そのまま受け入れる平静さと
変えられることは、
すぐにそれを行う勇気と、
そしてそれらを見分けるための知恵を 』
チャイムを鳴らす。
この扉の向こうに、まだ見ぬ世界がある。
雨はまだ止まない。
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