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母の味

母はあまり料理が得意な人ではなかった。

肉と燻製のものが食べられない人だった。お酒も飲まなかった。

ベジタリアンなわけではなく、偏食だった、のだと、思う。

そんな母の料理でも、いくつか美味しいものがあった。

天ぷら、サンドイッチ、あんかけ焼きそば、クリームシチュー。
クリームシチューは、母が味見ができないので、私がよく味見をした。

私が特に好きだったのは、オクラを鰹節と醤油であえたものだった。
夏になるとよく作ってくれて、モリモリと食べたものだった。

家を出てしばらくして、店先でオクラを見かけ、久しぶりに食べたくなって購入した。
レシピサイトをみて、板ずりして、軽く茹でて刻み、鰹節と醤油であえた。

これじゃない。食べられるけど、もっと美味しかった。

茹ですぎかと思い、次はサッと茹でるだけにしたものの、やはり違う。

何度作っても思い出の味にならず、モヤモヤしたまましばらく過ごし、何かの用で母に電話した時に、ようやっとたずねた。

オクラと醤油と鰹節のやつ、あれ軽く茹でてあえるんでいいのよね?

オクラ? 生よ。

生ーーー!

なるほど、あの歯触りは生だったからか。

作ってみた。
美味しかった。

つい最近、久しぶりに作ってみた。
子どもに「オクラ食べる?」と軽い気持ちで聞いたら、目をキラキラさせて「オクラ?食べる食べる、いっぱい食べる!」と半分持っていかれた。
もう1人の子に聞いたら、「オクラ?あー、食べる」と持っていかれ、一応気を使われたのか、手元には最初の四分の1が残った。

少ねえな。

でも、相変わらず美味しかった。

この生のオクラの美味しさを母の味として子どもたちだけに伝えるのは少々もったいないので、ここに記します。

人にすすめたくなる食べ方です。
お食べになったら屹度気に入られます。

鰹節と醤油の量ですか?
適当です。美味しいと思う量でお願いします。


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