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幸福論

この生きづらい世の中に
私は子を産み落としました

血を吐くかのように乗り越えた苦しい日々を
自らの子どもに味わわせることを
良しとしたのです

子どもは私に
生まれてきた意味を
あまりにも簡単に与えてくれました
拍子抜けするくらいに、簡単にです
生きる意味なんてないのよ、とジリジリ灼けるように抱えていた絶望を
子どもは笑顔ひとつで軽々しく否定してきます

それを幸福と呼ぶのには、ためらいがあります

世の中そんなに甘くないと
いつか思春期を迎えた子どもに
またもや軽々しく否定されそうな気がします

エゴのために産んだのかと
生まれてきたくなんかなかったと
聞き覚えのある陳腐な言葉で
私の人生を否定するなんて簡単なことです

人間は幸福になるために生まれてきた
幸福であることはそんなに大切なことなのか
どちらも一理ある言葉です
うまく解けない数式を
次世代に丸投げしているのです

子を産み落としたことで
女としての義務を果たしたと
ろくでもないプライドを構築し
うまくいかない毎日を苛々と過ごす今こそが
人様には幸福と映るのでしょう

今がいちばん可愛い時期ねと言われるたびに
幸福の形のいびつさに愕然とするのです


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