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Pick-me-up
ふわふわと漂う意識が、
パチンと弾ける音で呼び戻された。
ここはどこだろう。
ああ、そうか、森に帰ってきたんだった。
思えば長い道のりだった。
見えているのに辿り着けない蜃気楼のように、
指の間からすり抜ける砂のように、
私に還る旅は困難を極めた。
ここは暖かくていい香りがする。
温めたミルクとシナモンの香りだ。
うとうとしながら寝返りをうつと、
柔らかな光がまぶたを刺した。
ふと、不安がよぎる。
目を開けていいのだろうか。
この朝を信じていいのだろうか。
怖い。
足元が崩れそうだ。
私の手は私のものだろうか。
私の足は、私に逆らったりしないだろうか。
私の心は、私を、傷つけようと、
クスクスと笑い声がした。
思わず目を開けると、そこに「目」があった。
「おはよう」
「…オハヨウゴザイマス」
「よく眠れた?難しい顔をしてるけど」
「たぶん、大丈夫です」
ああそうじゃない、言いたいのはそんなことじゃ
「はい、どうぞ」
白いカフェオレボウルに、ふわふわとした白い綿菓子のようなものと、カラフルな粒が乗っている。
''Pick-me-up?"
''Yes,sure.''
世界が再構築される。
ここが、私がずっと行きたかった場所。
私がずっと帰りたかった場所。
私のパンテオン。私の城。
そしてまた私は旅立つだろう。
それでも、
私が私であり続けるかぎり、
いくつものパンテオンが私を迎え、
私の傷を癒すだろう。
綿々とくりかえされたその先に、何が待っているのだろうか。
何も待っていないのだろうか。
くりかえすことに意味があるのだろうか。
そんなものはないのだろうか。
行きたいところがある。
何故?
帰りたいところがある。
何故?
問いはくるくると螺旋を描き、虚空に消える。
「冷める前に、お飲みなさいな。」
とろりとした甘い液体が、喉を滑り落ちる。
小さな火が胸の奥に灯る。
「目」は満足そうな笑みを浮かべ、そのまま立ち消えた。
否、私に吸い込まれたのだろうか、
ある景色が脳裏に浮かんだ。
丘、だ。
私を呼んでいる。
全く、息をつく暇もない。
わかったから、後でね。
子どもをあやすように、歌うように言い聞かせる。
まだ朝なのだ。
何を急ぐことがあろうか。
粒がパチパチと口の中で弾ける。
つまんで、光にかざしてみる。
キラキラと輝く粒は、小さな虹を作る。
暖かな部屋。ふかふかの布団。
微睡みのなか、次の旅の夢を見る。
あと少し。もう少し。
真綿のような時間を私にプレゼントしよう。
私たちは、頑張っている。
おつかれさま。
私の頑張りが、あなたにひとときの安らぎを与え、あなたの安らぎは、誰かの心の襞をゆらゆらと揺する。
その揺らぎは、あなたと私の元に風となり届く。
妖精がちょっと悪戯を仕掛けるかもしれない。
ねずみ花火や、ケサランパサランを、ね。
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