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第三話 夜の箱庭 sideB

フェルメールの世界に入り込んだようだ、というのが第一印象だった。

ふと一体の人形に目が吸い寄せられた。
少し寂しげで、でもどこか愛嬌のある顔が白いフードからのぞいている。

主人は愛おしそうに人形たちを眺めながら、自分の人形を選ぶように促した。

あぁ、間違いなくこれだ。

棚から取り出すと手のひらに吸い付くような感触があった。

主人は満足気に微笑むと、ふと思い出しように「お守り」の話を始めた。
ここに来ることを決めた時、準備するように言われたものだ。

「お守り」と言われ、最初は寺か神社で買ってくるのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。
「それでも構わないけれど、何か違うものをもう持っているでしょう?」
最初はピンと来なかった。
もう持っている?お守り?
何のことだろう、と考えていると、頭の片隅にチラチラと何かが浮かんできた。

『私のことよ』

それは、父から貰った懐中時計だった。
父が言うには「いいモノ」とのことだが、懐中時計を持ち歩くなんて気取った奴だと思われたくなくて、長らく引き出しにしまわれていたものだ。

懐中時計を差し出すと、主人は目を細め、くるくると杖を回し、そっと「お守り」に触れた。

カチン、と音が聞こえた気がした。
世界がすこしズレたような感覚がする。
でも不思議と怖い感じはしない。

人形の声が聞こえる。
「ワタシハココカラセカイヲミル」

箱庭の奥、真ん中に人形を置く。
私が見たい世界を創り出すのだ。


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