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ビタミンレモンの呪い

今回は、元彼のこと。

彼は、同じ研究室の院生だった。
私は、配属されたばかりの三年生。

居酒屋での歓迎会の二次会、隣に座っていた。
出身が同じ県という話になった。
あの先生知ってる?という話で盛り上がった。
二次会ということもあり、酔っていた。
肩を組まれた。
みんなに冷やかされた。
こういうのが久々で、照れた。

帰り道、私の家の方向と、彼の家の方向がたまたま一緒で、途中まで一緒に帰った。極めて健全な、普通の会話をした、気がする。
そのあとラインが来た。からんだのウザかったよね?ごめんね( ;∀;)みたいな。顔文字使うんだ。なんか意外って思った。

この人、私のこと好きなのかな?ほろ酔いとソワソワが私を勘違いさせた。 

別な日、私はある発表会の準備をひとりでしていた。
そこへ、ライン。なにしてるの?

彼は、大学ではプレイボーイで有名だった。
私の一つ上の、誰もが嫉妬するほど可愛い先輩を、入学早々ゲットしたくせに、行為中寝て彼女を怒らせたとか、浮気して別の学年のこれまた可愛い先輩とヤったとか、私の同級生と体だけの関係とか、ほんとに悪い噂しかなかった。

なのに、そんなことは忘れていた。むしろ、可愛い子たちの仲間入りしたみたいで嬉しくもあった。我ながら、馬鹿だ。

ラインに返信した。ひとりで大学で作業してます。

しばらくして、彼は、シーセンビタミンレモンを二つ持ってやって来た。はい、さしいれ。と言って、MacBookを私の机のそばで開いて、自分の作業を始めた。そんなことが、何回かあった。

小さい瓶に入った、人工的なレモンの味は、悪い噂の彼が近づいているという危機的状況なのに、それを麻痺させた。それから私はビタミンレモンをみると、彼を思い出してしまう呪いにかかった。恋だったのかもしれない。

いつものように作業していると、ライン。今度は、俺のとこ来てよ。
えっ。マジ…。でもいつも差し入れしてもらってるし…お礼だからと言い聞かせて、自販機でジュースを買って院生の研究室に行った。
彼はひとりで、研究室のパソコンでネットを見ていた。あっ来てくれた。嬉しい!とすごく喜んでくれた。
そのあとナチュラルに、ご飯行こうと言われた。で、ご飯に行った。
これも何回か繰り返した。

沼にはまったんだな。抜けるのもめんどくさくて、流されるように、欲望のままに、結局手を握って、キスして、家に行った。

その彼と、一年半ほど続いた。私にしては、長かった。そのうち一年は、彼が先に就職したため、遠距離だった。
長期休みには、彼の東京のアパートに行って、奢ってもらって、彼が仕事の日は専業主婦かのようにご飯を作って待っていたこともあった。

彼は家庭環境が複雑など、波乱万丈な人生を送ってきた人で、話がとても面白かった。そして頭が良かった。

彼の話は聞いていてずっと飽きなかった。

恋が終わったのは、別れるよりもっと早かったと思う。原因は、色々ある。面白い話が、社会人になって、サラリーマンになって、ただの愚痴になった。私が内定をもらった会社の方が給料が高いとか泣き言を言われた。それで冷めたのもある。
でも私は、わがままで、子供のようで、彼をたくさん傷つけた。

別れたあとも、ラインをたまにした。最近どう?とか。
そのうちそれも無くなった。

この話には続きがある。
私の中で、彼はプレイボーイではなく、一途で女を沼にはめるのが上手いのに付き合うと下手くそな男という感じだった。少なくともそういう噂は忘れていた。

私が社会人になってはじめての年末、急に、大学の集まりで飲もうということになった。最初私もノリノリで、ラインのノートにスタンプを押した。

しかし、そのノートに、元彼もスタンプを押したのだ。
わたしはそれを見た瞬間、とっさに自分の参加を取り消そうとしたが、あまりにも不自然なので、やめた。
来たる当日、やってきた10名の中に、女子は3人。3人とも、元彼と噂のあったメンバーだった。
彼とは離れて座った。ねぇ、別れたの?という周りからの質問に怯えながら、彼と目を合わせないようにした。
それでもふと彼をみると、隣に座った女子の手を…にぎにぎしていた…。

私は、再び彼に冷め切って、一次会のお金を払って去ったのであった…。


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