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Tinder飲みログ@野毛「炉端や」他/目をみて話せる人がいいですと言う人の、顔が見れなかった。

「◯◯さん、私に全く興味ないでしょ」

3軒目で言われる。興味がない人に何かを聞くほど口が重いことはない。

Tin男と桜木町で待ち合わせするのはもう何回目かわからない。「あ、あの人かな」のどきどき。だけど今回は初めて「まさかあの人か。。。」で回れ右したくなった。まぁ年相応といえばそうなんだけれど。まず背が低い。そして中肉中背。一言で言えばスタイルが悪い。できれば違ってほしいので自分から声はかけない。が、メッセージで送られてきた服装や立ってる場所からするに、あの人以外いない…

目を合わせないように携帯をみていたら声をかけられた。もう、逃げられん、、なるべく顔を見ないように野毛地下道を潜る。「名前は◯っていいます。顔はこんなんです」とマスクを外してぐっと顔を近づけられて反射的にのけぞる。いや、私は見せないけどね。そしてこれが今回ちゃんと顔を見た最後。いや、そんなひどい顔ではないのだけど。むしろ50にしてはいい感じなのか。「年齢に見られないんです」というのは上に見られるのか下に見られるのか、面倒なので「そうなんですね」と流した。あぁ、始まる前からだめだ…

事前に魚のリクエストを受けていて、魚なら絶対の店があるのだけれど先々週別のTin男と行ったばかりだった(しかも最低だった)ので、新規開拓をしてみた。しかし注文を決める時点で、すでにリズムが合わない。「おまかせ」なのに、何かを頼もうとすると「ごめんなさい、それは好んで食べない」とか言われると「じゃあ自分で決めてくれよ」と思ってしまう。

プロフィールに「説明の難しい職業」とあったので、本文の内容から察するになにかクリエイティブ系の仕事かと思ったら、ただの会社員だった。説明を受けたが、会社員という時点で私の興味はなし。「ね、理解できないでしょ?」と言われたので「会社員って書けばいいんじゃないですか」と返す。つまらないやつに限って勿体ぶる。

「たばこ大丈夫ですか?」と言われて「どーぞ」と灰皿を差し出す。まさかのカバンから取り出したのは、巻きたばこ。久しぶりにみました、そのセット。このアイコスの時代に。サブカルかぶれですか。しかもその年で。つい「そのタバコ吸う人、めんどくさいってイメージです」と言ってしまう。「いや、おいしいからこれにしてるだけなんですけどね」だいたいそのタバコ吸う方は何か言い訳をする。なんでもいいが、食事しながらタバコ吸う人は、食事のスピードが遅くなるので合わせるのがシンドイ。

「私、自分から話すタイプじゃないので」。奇遇ですね、私もです。話すタイプとか話さないタイプとかじゃなく、頑張るんだよ。それは。会話を盛り上げるために。私のやる気も完全にオフになり、透明のアクリル板で仕切られたとなりのギャルカップルの話に耳を立てる。連れの会話がつまらない時は、他の客の会話の盗み聞きを楽しんでやり過ごすに限る。どうやらこのふたりもマッチングアプリデートっぽい。ほら、男性頑張って彼女の気を引こうと話題ふってるじゃん。よそよそしさが初々しい。

刺身(これは素晴らしかった)と鯨ベーコンをつまんで、何か物足りないが、追加で何かを頼んだらその間を埋める会話が面倒でもうなにも頼みたくない。Tin男がお手洗いに行った隙にカバンからチョコレートを取り出して糖分チャージする。

「2軒目はどんなお店に行きたいですか」とりあえずこの店を出ようと聞くと「ジャズが聞きたい」と。はいはい、巻きタバコにジャズね。せっかくの機会なのでそれも新規開拓しますか。調べるのも面倒なので、お店の人に教ヒアリングする。こういうのもさ、自分でやろうよ。だからさ、受け身のサラリーマンは苦手なんだよ。

レコードが壁一面に詰まった店は1軒目の店からすぐのところにあった。腹の出たおじさんたちが、TVの筋肉バトルを見ながら笑ってる。マリオみたいなつなぎをきたマスターはとても味のある方だったので、マスターとお話を楽しむ。

「電車大丈夫ですか?」都内から来たTin男に確認する。もう10分くらいで出ないとと乗り換え案内を見ながら帰り支度を始める。そもそも梯子酒を楽しむ野毛で20時スタート終電帰りというスケジュールはきつい。「じゃあこれを置いていきます」と千円札を何枚か取り出しカウンターにおく。「あ、そういうパターンね」駅まで見送ろうかと思っていたけど、私はまだここで飲んでていいのかと思ったらほっとしてくる。むしろ、よっしゃー飲み直すか!と気合をがみなぎってきた。

しかしなぜか…「いいや!今日は。明日休みだし」と千円札をしまうTin男。いや私、朝まで付き合わないですよ。。「責任持って帰るので大丈夫です」と。いや、そう言われても…置いて帰れないし。とりあえず「まだ飲むなら家の近くがいいんですけれど」とタクシーに乗って移動。お目当てだった店がすでにしまっていたので、近所で一番好きなバーに連れて行く。

相変わらずここのマスターはほんとに所作と物腰がすばらしいなぁ。だれを連れてきても「いいところだね」と気に入ってもらえるバーが近所にあるのは嬉しい。しかしTin男とはもう本当に話すこともなくなり、じーっと壁に並ぶボトルを見つめていたら冒頭の一言。「私に興味ないですよね。この沈黙をどうしたらいいかと」。いや、それはあなたが私に興味ないからでは?と思う。「気にしなくていいですよ、と言ってもらえたら嬉しいんですけど」理想の答えを用意して質問される時点でうざい。

壁を凝視しながら彼のことばっか考えていた。まだこの店には連れてきていない。「あぁ会いたい。この店に一緒に来て、たくさん話をしたい」1時半だったがLINEしてしまう。

一度お手洗いに行ったはずなのに「お手洗いはどこでしたっけ?」と聞くTin男。マスターもちょっとびっくり。そうは見えないが、酔っていらっしゃるらしい。また千円札を取り出すと「じゃあ私はタクシーで帰ります」と立ち上がる。おぉ、そんな清いパターン。そこは素晴らしい。

しかし手も握らず、どこにも触らず、こんなTin男は初めてだった。まぁ1軒目も2軒目も3軒目も並んで座っていたのに、すごい距離を空けたのは私だけど。

彼が帰ってから、マスターとお店に残ったもうひとりのお客さんとローカルトークでもりあがる。私がこんなしゃべる人だとTin男は想像していないでしょう。しかし、マスターかっこいいなぁ。何歳なんだろう、結婚しているのだろうか、もう少しこの店通おうかなぁ。しかし毎回違う男性を連れてきてどう思われているのか。。

家に帰るとTin男からメッセージが届いていた。「なんとも言い難い特別な時間で、私はとても満足しています」嫌味ともとれるけど本心なんだろう。そもそも彼に興味を持ったのは、メッセージのやりとりがものすごく丁寧だったから。ただし、それは自己満足ですべてを美化するこの巻きタバコさんの癖なんだと気づく。人を傷つけることはないだろうけど、どこまでもいつまでも話は噛み合わなそうだ。そして、ごめんなさい。やっぱりあなたの顔は見れない。かつ、もう話したいことはない。

プロフィールを見直したら「目をみて話せる人がいいです」という一文があった。すみません、顔すらみれなかったです。

今日も埋められなかった。彼と会えない時間を。余計に会いたくなっただけだった。