MagicTheGathering リミテッド通史

▲1993年~1999年 リミテッド未開拓時代

黎明期のマジックにおいてリミテッドはどの環境も総じてまともに遊べるようなデザインになっていない。いわばまだ人間未満。ウホウホの時代である。この時代がどれくらい野蛮だったかと言うと基本セットには長らくコモンにX火力が謎に2種類もあったし、コモンにある防御円を貼ると1枚で相手のデッキ全体の5~7割がゴミになった。はっきり言ってこんなゲームをやりたがるやつは人ではない。

こういったリミテッド環境が未整備な期間は、プロツアーという制度が始まり公式戦のフォーマットとしてシールドやドラフトが採用されてからもかなり長く続き、リミテッドにおける革命前夜とも言えるウルザブロックですらサーガのカードリストには黒のコモンにダバニが2種と黒死病が揃っていて、正に黒にあらずんばデッキにあらずという構成になっている。この時代、リミテッドはまじめにやり込んでひとつずつ知識や技術を積み重ねて上手くなっていくというよりは、最低限のことわりを分かっているかどうかで合格/不合格が二分されるだけのクソゲーだった。

▲1999年10月 リミテッドの夜明け:メルカディンマスクス発売

 開発があるときふと思った「もしかして、色ごとのカードの強さってバランスを取った方がいいんじゃないかな?」
リミテッドの夜明け、ウホウホが知性に目覚めた瞬間である。
マスクスブロックはまだ未整備な部分(強すぎるコモンのヒーラー等)はあるもののそれまでと比べて圧倒的に整備された色毎のパワーバランスによりそれまでの環境と明確に線引きができるレベルで完成度を1段階上げた。

この頃、海外から日本にマネドラという文化が輸入されDCIトーナメントセンターで毎日猿のようにドラフトを繰り返す集団が自然発生的に形成された。関東ではマネドラ部と呼ばれるこの集団を中心に4人~6人で行うチーム形式のドラフトがリミテッドの遊び方として静かに浸透していった。猿が人になったことで逆にマネドラ猿が大量発生したのである。

▲2000年10月 革命:インベイジョン発売 

最初の多色環境であるインベイジョンブロック(レジェンドが最初だろという意見は却下する)、特にインベ×3は今でもリミテッドの最高傑作として挙げる老害が多い。
比較的ゆっくりとしたゲームスピード、アグロ戦略に比べて技術介入度の高いアドバンテージの取り合いを軸にしたゲーム展開、ドロー付軽量カードの大量採用による土地圧縮の技術、各色に幅広く用意されたマナサポートによって実現した多色化によるドラフト時の選択肢の幅の広さ等、インベイジョンはこれまでのリミテッドの歴史上類を見ないどころか、オーパーツ的なレベルの完成度の高さだった。さらにチーム戦においてはコモンの組み合わせによるソフトロックや強力なシナジーが無数にあるためカットやトスの重要性が高く、それに起因する卓読みと卓操作のリターンの高さもやりこみの幅を広げる要素になった。

この傑作セットの登場を受けて、マスクスの時はまだ局所的な異常者がコスっていただけのマネドラという遊び方も、各地方で同時多発的に、もしくは東京から輸入されるかたちで急速に浸透していった。

▲2001年 ソートの発見

インベイジョン環境の後期から一部の異常者が超能力に目覚めはじめた。ドラフト中に回ってきたパックを見て上が取ったカードが何か分かるようになったのだ。ソートと言う概念の発見である。
ソートとは印刷順の事で、これを覚えることでドラフトで上家がピックしたカードが残されたカードから高確率で分かるようになるので卓内分布の把握が容易になる。全てのソートを把握するのは一定の習熟が必要だが、強力なカードが密集した部分をピンポイントで覚えるだけでもその効果は絶大だった。
いつの頃からか新エキスパンションが出るたびに発売日にBOXを開封して連続したコモンを机に並べてパターンが一巡するようになる「ソート表」を作り、その中から返しが美味しい組み合わせや下家をハメやすい特定の組み合わせを研究するのが環境攻略の第一歩になった。「ソートを把握しているか」これがこの時代、上級者と超上級者を分けるある種の境界線だったのだ。ソートについての知識は8人ドラフトよりも少人数のチームドラフトにおいてより重要だったため、特にマネドラ猿たちがこの研究に没頭した。一部の異常者はレアソードまで覚えて相手の初手のラスを読んでまだ見ぬラスを最低限の被害で打たせるようプレイングで誘導していたりすることもあった。
初期に特権的な知識だったソートだが時がたつと共にゆるやかに(上級者の間での)一般化が進み、発見から10年以上の間、長らくリミテッドの上級テクニックとして用いられ続ける事になった。

▲2002年~ MagicOnlineの登場

初のPC版MtG。ドラフトという遊び方の最大のネックである8人プレイヤーをそろえるというハードルを解決してくれる神のようなツール。
日本語に対応していない点と、実物でないデータに対して実物と変わりないパック代を払うことに対する抵抗感もあいまって、その革新性に比べて普及は緩やかだったが、廃人にとってはどちらもあまり関係なく夜な夜なドラフトのスキルと英語の罵倒のボキャブラリーを蓄積するのに大いに貢献した。

▲2001年~ 進むリミテッドの環境整備

一度知性に目覚めたウィザーズ開発陣は優秀だった。想像を超えて優秀だったと言っていい。リミテッドという遊び方の根本的な面白さの強度による所もあるが、リミテッド環境は長期にわたって総じて良く調整されていた。
この20年以上の間には多くのトライアンドエラーがあって、その中で初期に定番だった能力が長年の調整の末削除されたり大幅の見直しをされたりすることも多々あった。
1セットごとに環境の特徴を紹介しても無駄に長くなるので、代表的なリミテッド環境の調整のポイントについてここに横断的にまとめてみる。

・システム生物の弱体化
リミテッドというゲームの理解が深まるにつれて「どう調整してもこの類の能力はバランス壊すな」というものが発見されていった。
その代表格がティム、ヒーラー、タッパーの御三家である。調整の過程で時にこれらの能力は装備品になり、1枚では完結しないようにしてみたりもしたがそれでも適正な幅を超えて強かったようで最終的にコモン枠からは駆逐されることになる。
これらの能力は単純なカードの強さと相まってヒーラーやタッパーなど戦況を膠着させる方向のカードは開発が提供しようとするゲーム体験と真逆なので仕方がないことだろう。

・マナブーストに対する課税
システム生物の規制がゲームの長時間化を回避する方向のものだったのに対して、その真逆であるゲームの高速化に対する規制がマナブーストの弱体化である。
最強の緑の生物が1マナ1/1なのは開発的にイケてなかったらしく2015年の基本セット「マジック・オリジン」を境にマナ生物は2マナになった。それと同様に除去で対応できないランパンやダイヤモンドなども1マナ重く調整され現在は3マナが相場となった。

・除去の配分の見直し
リミテッドのセオリーとして「ボム(1枚で勝てるカード)>除去>生物>その他」というおおまかな評価基準があるが、基本的にコモンにボムが無いので(僕たちは「芽吹き」の事を忘れない)コモン最強は除去ということになるのだが、緑と青には長らく除去が存在せず、白緑や青緑の組み合わせがどの環境でも息をしてない時代が長かった。ここにテコ入れの必要を感じた開発は青に脱水系を。次いで緑には格闘系の除去を定番化させ、全色に除去を割り振る形が2010年ごろから定番化していった。

▲2012年頃(詳細不明) ランダムソートの導入

ソートと言うものの仕組みは(エキスパンションごとに多少の変遷はあるものの)基本はABCの3種類が存在し、Aソートから連続した3枚、Bソートから連続した4枚、Cソートから連続した4枚という風に抽出されてコモン11枚がパックに封入されるのだが、ある時を境に各ソートから抽出されるカードの枚数がランダムになった。この変更によりソートからピックを読む手法の有効性は著しく低下した。
一部の(ソートなんて気にするような異常な)人間から、これはランダムソートと呼ばれ、開発からの「ソートなんて読むな。もっと無邪気に遊べよ」というメッセージとして受け取られた。
ランダムソートの導入がいつだったか詳しい記録は残っていないが、データで残っている最後のソート表がイニストラード(2011年9月発売)なので2012年頃だったと推測される。

▲2015年10月 ドラフト環境の変更:最大3種から最大2種へ

タルキール覇王譚ブロックを最後に1ブロック3エクスパンション制が廃止された。
これまでは1種のラージエキスパンションと2種のスモールエキスパンションでブロックが構成され、最大で3種のパックを使ってドラフトを行っていたが、戦乱のゼンディカー・ブロックからは追加されるスモールエキスパンションが1種のみになり最大でも2種のパックでドラフトをおこなうようになった。今までにはいドラスティックな変更ではあったが、リミテッド的には使うパックが絞られた方がブレが少なくデッキの完成度をあげられるのでもともと3エクスパンションが揃った環境は評判が悪く、この変更は概ね好意的に受け止められた。

▲2018年4月 ドラフト環境の変更:最大2種から最大1種へ

ドミナリア環境からドラフトは常に単一エキスパンションで行われるように変更された。
ドラフトが3パックを使用して遊ぶという構造上、2種のパックで行う場合どちらかの存在が希薄にならざるを得ないのでこの変更も大きな反発はなく受け入れられた。

▲2020年4月 MTGアリーナ対人ドラフト実装 新時代の幕開け

2019年9月に正式リリースされ大成功を収めたMTGアリーナだったが、当初実装されたドラフトは対戦こそ対人ではあるもののピックに関してはbotを相手にするクイックドラフトのみだった。
このドラフトにおいて重要になるのはCPUのピックのアルゴリズムを逆手に取るだけの単純作業でしかなかったが、約半年のタイムラグで待望の対人ドラフトが実装されると、その手軽さと人口の多さによって大多数のプレイヤーにとってドラフトの技術というのはMTGアリーナのドラフトの技術を指すことになり、これによりリミテッド界に過去最大のパラダイムシフトが起きることになった。以下に代表的なポイントをまとめる。

・カットの無意味化
従来のドラフトは対戦相手が同卓内で決まるためカットの意味がある程度あったが、アリーナにおいては対戦相手は同卓の人間に限らないのでカットする意味が全くない。
このため割り切って初手から2手目で決めた2色で一切ブレずに色替え等の選択肢を一切拒否して最後まで決め打うドラフト戦略の有効度が上がった。

・BO1によるサイドボードカードの無意味化
アリーナによって今まで存在しなかったBO1(1本先取)の遊び方が主流になった。
BO1では必然的にサイドボートの概念が存在せずメインデッキ23~24枚をドラフトするだけなので、汎用性は低いが特定の相手に対して効くタイプのカードを状況に合わせて取捨選択するといった行為が発生せず、ピック中の技術介入が大幅に下がった。

・BO1によるネタバレ後の読み合いの消滅
BO1では相手のデッキに入っているカードが不確定なため、ラスを警戒して展開を調整したり、一枚で状況を逆転させるボムに対して除去を温存したりといったプレイングのインセンティブが実質的にない。またカウンターなどの構えるカードをめぐるでプレイングにおいても同様に割り切ったプレイングが要求される。

以上、MTG30年の節目にあまり語られてこなかったMTGのリミテッドにまつわる歴史(日本国内のシーン限定)をまとめてみました。スラング多め、事実確認ざっくりですが何かの助けや、一時のひまつぶしにしていただけたら幸いです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。

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