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うたおう、あなたのうたを

しょっぱなからなにこいつ自慢?って思われるかしらんけど、わたしの声は結構ひとにうらやましがられる。

なんでか知らんけどすんごい声が通るので、小学校入った時からずっと先生に注意されてた。ちょっと誰かが話しかけてきて応えただけやのに「ヒトミさん、おしゃべりしない!!」ってチョーク投げられたこと、何回も、ある。

理不尽やん。わたしがしゃべりかけたんとちゃうのに。


音楽の時間、教科書に載ってる日本の唱歌を自然に出る声で唄ってたら、男子にめっちゃからかわれた。

「おまえの声、CDのおばはんみたいやー!」

確かにお手本で唄ってるのは、妙齢のソプラノ歌手。わたしは無意識にその歌手の唄い方を真似ていた。

それから人前ではあんまり唄わないようにしてきたけど、音楽会の合唱ではいつもソプラノグループに入れられて、小さめに唄ってるつもりやのに結局毎回からかわれた。

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高校生の時、空前のカラオケブーム、っちゅうやつがきた。

猫も杓子もカラオケ、カラオケ。

カラオケボックスがアホみたいに増えて、友達と2人フリータイムで8時間とか、めちゃめちゃ入り浸ってた。


テスト前って学校早よ終わるやんか。

ちょっと特殊なクラスやったから、きっとみんな家帰って勉強しとんやろうけど、わたしはいっつも友達とカラオケに直行。

その頃のわたしの十八番は、ZARDに朋ちゃん、今井美樹。

なにを唄っても、なんか本人に似てるーって好評やった。

キーさえ合えばなんでも唄えるけど、個性のある自分の唄い方っていうのがどんだけがんばってみても、できんかった。


器用貧乏。

自分の人生を振り返ってみると、この言葉が一番しっくりくる。


その頃一番仲の良かった親友の十八番は、中森明菜に工藤静香、山口百恵。

その子と行くと、絶対に曲がかぶるってことがないから、すごい楽しかった。

これが、唄うキーが一緒くらいの友達と行くと、それ入れようと思っとったのに!って曲を先に入れられて、終盤にやっぱ唄いたい!って同じ曲を重ねてまた入れたりして、なんか微妙な空気になるねんよな。


そいでね、わたしその親友がめっちゃうらやましかった。

中森明菜みたいなハスキーな渋い声に憧れてて、ずっと自分もそんな風に唄いたかった。実際、唄ってみたこともある。

でも、無理やねん。キー上げて唄っても、そうじゃないねん!ってなるんよ。


そのひとの声質に合った曲、ってもんがある。

わたしが唄いやすい曲は、透明感があって高いトーンの、うすーい雰囲気のひとの声。

でも、できるもんなら、渋くて凄味があって、ぶっといパワフルな声に生まれたかった。

そういうと大抵の友達に、「あんたの声めっちゃええやん!憧れとう子いっぱいおるで」って言われたけど、全然嬉しくなかった。

わたしの欲しいのんは、それじゃない。

それじゃないねん。

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唄いまくって練習して、のどつぶしたこと、何回もある。

酒焼けして唄ったらハスキーになれるんやってー、ってそれ長渕剛か!

何度も痛みを経験してわかったことがある。


パワフルな声になりたくて、のどつぶしてもうたら元も子もない。

わたしの良さは透き通る声、なんやで。


ひとにはそれぞれの、魅力がある。

誰かの魅力に憧れるのはいいことやけど、自分の良さに気づかんとつぶしてしまうのんは、ただのアホや。

そういう痛いひと、になってもしゃあない。

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ひとは自分にないものに憧れる。

知ってても、それを求めてしまう哀しい性。


あまりに自分にないものに憧れすぎて、最初からそれを持っている存在を憎むひともいる。

それになろうと努力して、必死に無理して、近づけたように見えて、けどやっぱり努力だけでは追いつけない資質に気づかされて、絶望することもある。

あなたが持っているそれは、誰かにとって一生手に入れることのできない宝物なのかもしれない。

あなたにとってはなんでもないがらくたに見えても。

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そんなわたしに、こどもが生まれた。

彼女はなぜだかほんの小さい頃から、ハスキーボイスだった。

どこに行っても「渋い声やね」って言われてしまう彼女は、心底自分の声を憎んでいた。

まるでわざと声を枯らすかように、毎日大声で彼女にとって理不尽ななにかに対して、文字通り声を張り上げていた。

毎朝ガラッガラの声で登園する女児。

そんなやつ、なかなかおらんで。


小学校に入り、合唱の授業で毎年アルトに入れられてしまっていた彼女は、今年ソプラノに入れて喜んでいる。どうやら上手な裏声の出し方が分かってきたようだ。

少し成長したいま、彼女は自分の声を受け入れて、毎日ipadに向かってカラオケアプリでご機嫌に唄っている。

大好きな、あいみょんに声が似てるーって言われて嬉しかったんやて。

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わたしにとってのどから手が出るほど欲しかったハスキーな声は、あのひとにとってはコンプレックスだった。

わたしにとって別に嬉しくもなんともなかった、当然のように与えられたソプラノパートは、あのひとにとっては永遠の憧れだったらしい。


人生は、ままならんもんやな。


唄おうよ、あなたのうたを。

あなたにしか出せない声で。


小さい声でも、大きい声でも、必ず誰かに届く。

あなたが唄うのをやめない限り。


わたしはあなたのうたを、ききたい。


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一日だけできる経験がもしあるなら、こんな声でうたってみたいな。

スタンダップ、モンスター。頂上へ。


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