見出し画像

オルフェオ

この間ふと思い出した。
10年近く前に知り合ったお爺さん、オルフェオ。
その日、夫は休みで私は仕事がある日だった。
夫は暇つぶしに海沿いのベンチで日光浴中、隣に座ったお爺さんとどちらからともなく世間話を始めた。
何やら気が合ったようで1、2週間に一度くらい同じ場所で会うようになったとか。
彼は有名なインテリアデザイナーだったらしく住む街の歴史にも詳しく、芸術にとても造詣が深い。
次からは家にコーヒーを飲みにおいでよと言われたらしく、行ってきた日は大興奮で帰ってきた。
何やらとんでもないお金持ちらしく凄く素敵なお家だったとか。
インテリアデザイナーらしく、自分で設計したすべてオーダーメイドの内装はそれはそれは良く考えられており、趣味が良く、何より超有名芸術家の作品があちこちにあったらしい。
地域的にはとんでもないお金持ちは沢山いる土地だからそういう話は珍しくも何ともない。
もちろん住む世界から違いすぎるから近づく機会もないんだけれど、極たまに接点があると大抵はとてもお金は掛かっているけれど趣味悪いなーと思ってしまう事が多い。

夫からオルフェオの話を聞いていると、どうやら彼は芸術家との付き合いが多かったらしくピカソからも仕事の依頼を受けていたらしい。
ピカソは生前から自身の芸術作品が高く評価されていた芸術家で、割とそれを振り翳していたらしい。
レストランで食事をすれば伝票にサインをして、これは後に価値が出るからと言って支払いをしないなんてことはザラで、オルフェオに依頼したアトリエの内装工事なんかも支払わなかったらしい。
ピカソのアトリエの内装を手掛けたならそれだけで宣伝になるでしょ?ってことらしい。
ブリジッドバルドーのサントロペにある家の内装も手掛けたらしいのだが、これまた同じような理由で支払ってもらえなかったらしい。
かなり横暴だな。

私はオルフェオには一度しか会っていない。
クリスマス直前に一度お宅にお邪魔させてもらった。
超絶お金持ちなのに家族と仲があまり良くなくいつも一人だったから、夫が見かねてクリスマスのイヴイヴイヴくらいに食事を共にした。

噂のお宅訪問にワクワクしながらお邪魔すると、そこらに錚々たる芸術家の作品が。
ピカソ、ブラック、ジャコメッティ、スラージュなどなど…
飾ってあるもののあったけれど、割と無造作に壁沿いに置かれてあったりして、おいそれと壁にもたれたりできないなと緊張した。
ベランダにはパリのコンコルド広場にある噴水の銅像の原型の彫刻が置いてあったりして(普通に雨晒しの状態で)その無造作感にびっくりした。
もうちょっと価値を感じさせる飾り方してもいいのに…。

話してみると普通の優しいお爺さんで、気取らず気さくな人だった。

その後しばらくして残念ながらかなりご高齢だったから、オルフェオの息子の勧めで別の街の老人ホームに入ることになったようで連絡を取らなくなってしまった。

まさか自分の人生でピカソに会ったことがある人に会えるなんて思っても見なかった。
人生における出会いって本当に不思議だ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?