友達に誘われて来ました

熊井は、高校の同級生で、小太りで、天然パーマで、同じ27歳とは思えないほど老けてる、髭をたくわえた男である。

いい年こいて同じくフリーターであるにも関わらず、妙に落ち着き悟った雰囲気があり、そこが好きだ。

そんな熊井と、先日会った。

待ち合わせ場所の喫煙所に、ジーパンを履き色の褪せた紫のパーカーを着た熊井は、先に来て座ってタバコを吸っていた。

熊井は「おう、お疲れ」と言った。

僕は「お前がその感じで座ってると風俗の待合室みたい」と言った。

熊井は「田中です」と言った。

僕は「風俗か。確かに風俗予約した時、ありふれた名前の仮名使うけど。今日何時まで行けんの?」と言った。

熊井は「120分は行けるで」と言った。

僕は「風俗か。確かに120分コースとかあるけど。2時間って言え」と言った。

熊井は「友達に誘われて来ました」と言った。

僕は「風俗か。確かに1人で風俗に来た欲求不満過ぎる男と思われたくなくて、友達に誘われてきましたとか言う時あるけど」と言った。

僕らは喫煙所でタバコを吸って、僕の部屋に移動した。

部屋に着くと、熊井は、僕のベッドのヘリに座った。

僕は「だからお前がその感じで座ってると風俗の待ち合い室にしか見えへん」と言った。

熊井は「爪切り貸してもらえますか?」と言った。

僕は「風俗か。確かに風俗の待合室で爪切るけど。ちょっとおもろいから写真とらせて」と言った。

熊井は、口元を右手で隠して、こちらを向いた。

僕は「風俗か。確かに風俗嬢のお店のブログの写真、口元右手で隠した写真ばっかやけど。いいから手洗ってこい、コロナかかるから」と言った。

熊井は「マウスウォッシュある?」と言った。

僕は「風俗か。確かにマウスウォッシュでうがいさせられるけど」と言った。

熊井はうがいを終え、ベッドのヘリに座り、僕は床に座った。

熊井は「僕、こういうお店初めてで、しかも童貞なんで、なんか緊張します」と言った。

僕は「風俗か。確かに風俗嬢に優しくしてもらいたくて、風俗初めてとか童貞とか嘘つく時あるけど」と言った。

熊井は「これ、差し入れの栄養ドリンクなんですけど、疲れてると思って、良かったら」と言った。

僕は「風俗か。確かに風俗嬢に好かれたすぎて、差し入れで栄養ドリンクとか持ってく時あるけど。やめとけ、あれ全部いらんからとか言ってボーイにあげてるから」と言った。

熊井は「あの、早くベッド行きませんか?」と言った。

僕は「風俗か。確かにシャワーの時間が長いと、風俗嬢にコイツプレー時間なるべく短くしてサボろうとしてるなって思って焦る時あるけど」と言った。

僕らは高校時代の同級生が今どこで何をしてるのかについて、知ってることを話したり、くだらない憶測を話したりした。

ひとしきり話すと熊井はベッドに寝転がった。

僕は「お前がベッドに横たわってると、風俗やねん」と言った。

熊井は「部屋なるべく明るくしてもらえませんか?」と言った。

僕は「風俗か。確かにプレー中の風俗嬢の顔はっきり見たくて、明るくするように要求する時あるけど」と言った。

熊井は「俺、ちょっと眠くなってきました。シャワーやめときます」と言った。

僕は「風俗か。確かに風俗で一回戦終わった後、強烈な眠気と何に大金払ってんねんっていう後悔に襲われてあらゆるやる気失う時あるけど」と言った。

時間になり、熊井が帰ろうと立ち上がった。

熊井は「今日はありがとうございました。日記また見ときますね」と言った。

僕は「風俗か。確かに風俗嬢に好かれたすぎて別れ際に日記見るアピールする時あるけど。やめとけ、あれ全部ボーイが適当に書いてるから」と言った。

熊井はその大きな背中を丸めて帰っていった。

なぜか熊井の帰る姿とその周りの景色が、セピア色に見えた。

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