上司や社長、経営者に実耳測定を導入してもらうポイントはこれだ!#041
本誌039号では「シンプル、簡単、誰でもできる実耳フィッティングの実践手順!」と題して、実耳測定のメリットと実耳フィッティングの実践手順をご紹介させていただきました。
しかし現状では日本で実耳測定装置を持っている組織は、認定補聴器専門店や補聴器適合判定医が常勤する医療機関でも1%以下でしょう。知識を詰め込んでも、実耳測定の装置が無ければ実践する機会がありません。
今回は『どうしてもREMがやりたい!』というあなたのために、趣向を変えて、補聴器販売店の経営者の頭の中が、およそどんな感じになっているか解説しながら、実耳測定装置の導入を上司や社長に提案する時のポイントをご紹介したいと思います。
補聴器外来を行っているクリニックのオーナードクターにとっては、自分で設備を投資しても良いのですが、出入りの補聴器店に実耳測定装置を買ってもらって持ち込んでもらえるなら無料ですから助かります。
今日のポイントを押さえておくと、補聴器店に「実耳装置を導入して、補聴器外来の日に持って来て欲しい」と頼みやすくなりますよ。
どんな経営者でも顧客満足度UPや明瞭度改善だけじゃ、お金は”使えない”
日々、現場で補聴器をフィッティングする技能者にとって、実耳測定を導入するには上司や社長に装置を買ってもらう必要がありますよね。
人間関係が上手くいっていたとしても、お金の話となると「職場の上司に実耳測定の導入を提案したけど受け容れてもらえなかった」とか、オーナー経営者の方からも「うちの規模では、資金を捻出できない」とか、そういった声を聞くことがあります。
補聴器外来を行っているクリニックオーナーからも「実耳測定はまだいいかなと思っている」なんて声も聞きました。
読者の方にも同じような体験があるかも知れません。
でも、ちょっと視点を変えてみて下さい。
仮に、もしも、実耳測定装置が無料だったら、それでも導入をためらう補聴器店やクリニックオーナーがいると思いますか?
常識的に考えたら、だれも反対しないですよね?
これは言い換えると「実耳測定装置を購入したら、その投資した金額の分と同額かそれ以上のお金が、あとから確実に戻ってくる」と信じられれば、補聴器店の個人事業主だって、中小企業の経営者だって、クリニックオーナーだって、そこに投資するわけです。
補聴器店に勤務している人から上司や社長を見た場合、彼らが実耳測定に前向きでないなら、それは「お金を使わない・使いたくない」のではなくて「利益の根拠が不十分だから、お金を使えない」ということなのです。
利益というのは、収益から経費を引いた結果です。
実耳測定の導入を提案する時には、収益の向上にどれくらい貢献するのか、もしくは経費の削減にどれくらい貢献するのか。この2つをPRすると実耳測定装置を買ってもらいやすくなります。
設備投資には利益拡大への確かな期待が必要
先日の記事では、実耳測定によって問題解決率の向上、明瞭度の向上という顧客にとっての分かりやすいメリットをご紹介しました。
この二つは、当然良いことなのですが、収益の向上に必ずつながるでしょうか?残念ながら答えはNOです。
基本的に人は「問題があるから、その解決に対価を払う」のであって、ビジネスにおける最悪のケースとして「問題が無くなったら、お金を払わない」のです。たとえば町の電気屋さんは、壊れない家電製品が増えるにつれて、姿を消していきました。
私たち補聴器技能者の場合、フィッティングというサービス行為で対価をいただけるなら良いのですが、実際には補聴器の代金と調整料はごちゃ混ぜです。
僕個人の体験としても、他店で購入された補聴器を持ち込まれた際、上手く調整しすぎて次の補聴器に買い替えてもらえない!なんてことは少なくありません。(全然、儲からない!ほぼタダ働き!!)
というわけでオーナー経営者や役員など、お金の決裁権を持っている人に実耳測定をPRする場合には「問題解決率の向上、明瞭度の向上」だけでは不十分なのです。
【収益の要素を分解してみよう】
実耳フィッティングで良い仕事をして、クライアントにもっと喜んでもらいたいなら、上司・経営者を説得するポイントを探してみましょう。
上司のことが好きじゃなかったとしても仕方ありません。仕事には好きなことも、好きじゃないことも混ざっているものです。
読者の皆さんはビジネスの話題があまり好きじゃないかも知れないので、僕の方で補聴器販売店の収益の構造を分解してみました。
日々の業務と絡めて解説しますので、少しだけお付き合いください。
補聴器販売店で補聴器が売れるのは、ご新規のお客様が相手か、既存のお客様が相手か。そのどちらかだけです。
新規のお客様による売上高は、新規受付客数と購買決定率と平均客単価の3つの掛け算です。既存のお客様による売上高は、有効名簿客数×平均買い替え期間×平均客単価という3つの掛け算です。
6つの要素のうち、実耳フィッティングは、どの要素をどれくらい改善してくれるでしょうか。それが収益の向上につながりますし、上司説得のPRポイントになります。
まずは、それぞれの要素を、日々の仕事に置き換えて見てみましょう。
一般的な補聴器販売店の視点で言うと、ドクターへご挨拶にうかがうのは新規受付客数のプラスを期待している部分です。ここがプラスに影響しない場合、ドクターへの報告などは必要最小限しか業務時間を捻出できません。MRと違って放っておいて薬が売れるわけではないため、他の業務で稼がないといけないのです。
この辺りは補聴器業界の構造的な問題で、情報が上手く流れない要因だと思うのですが、また別の機会に。
補聴器技能者や言語聴覚士が接客・接遇・調整で頑張った結果がどの要素に現れるかというと、購買決定率、平均客単価、有効名簿客数の3つです。
技能者が良い接客、良い調整をすれば、クライアントは補聴器を買ってくれる可能性が高まります。また補聴器の性能の違いを活かした調整や説明をすれば、平均客単価も上がるでしょう。
有効名簿客数というのは、あなたから以前に補聴器を買ったクライアントのうち、今でも継続的に来店してくれたり、相談相手にあなたを選んでくれる人たちの事です。
最後に来店してから1年以上も経過しているなら、もうそのクライアントは他のお店を選んでしまっている可能性があります。そうしたら有効名簿からは一人マイナスで、将来の収益が低下してしまいます。
こんな具合で、収益を要素に分解すると、日々の業務とのつながりがお分かりいただけるかと思います。
実耳測定装置の導入を上司や経営者に提案するときには6つの要素のどれを改善できるのかを具体的にPRするのが効果的です。
実耳測定を導入した場合の収益向上は?
さて実耳測定装置を導入し、実耳でフィッティングしたら、収益にはどう影響するでしょう。
これにはすでに海外の先行研究がありまして、その中で一番分かりやすいものをグラフにしてみました。
これは実耳ではないファーストフィットと実耳フィッティングを比べて、購買意欲がどれほど変わるかというアンケートの結果です。クライアントの購買意欲が大幅に上がっています。
しかも10%や20%じゃないんですよ。すでに補聴器を経験しているクライアントだと160%、補聴器未経験だと200%以上という大きな変化です。つまり購買決定率が大きく向上することが期待できます。
実耳フィッティングによる問題解決と明瞭度の向上は、しっかり購買意欲につながっているようです。良いフィッティングは、収益的にもしっかり報われることが分かって一安心。
しかも、これまでの連載を読んでいただいている方はご存知の通り、実耳フィッティングは職人的な経験や技能のうち、いくつかを必要なくしてくれます。収益の向上が新人技能者にも期待できるのです。
どんなクライアントに有効なのか、具体的なケースを考えてみましょう。仮に今はまだ音場閾値による調整を行っていたとします。
そうすると耳せんがイヤチップにしろ、イヤモールドにしろ、シェルにしろ、利得を上げても上げても音場閾値が上がらないケースや、音場閾値は十分な数値なのに装用明瞭度が上がらないケースが出てきます。
どちらにしてもクライアントは満足せず、補聴器を購入してくれる可能性も低いでしょう。
こうした事例を過去1年間くらいのカルテから探してみて下さい。
補聴器を買ってくれなかったクライアントのうち、音場閾値による調整で上手くいかなかったケース、装用明瞭度が向上しなかったケースを数えてみるのです。
お店の規模にもよりますが、満足させられなかったクライアントの人数は、それなりの比率になるはずです。
この人数が、ほとんどそのまま補聴器を買ってくれたら、どれほど収益につながるでしょうか。これが上司へPRするときの最大のポイントになります。
そのまま使える!収益向上をPRする上司への提案書
先日、Twitterで、補聴器業界における上司への提案についてアンケートを取らせていただきました。
弊社も含め、補聴器販売店の大半は中小企業か個人事業主ですから、気軽に話しやすいようでした。その反面、ちゃんとした書式による改善提案はほとんど無さそうでしたから、提案書のサンプルを作ってみました。
ここまでご紹介した内容を提案書という形にしています。ダウンロードして中を読んでみて下さい。下記のPDFファイルについては、著作権を放棄しますので、数値の部分や社名・店名をご自由に書き換えて使ってみてください。
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