REMフィッティング初心者がひっかかるポイント♯032

読者の皆さん、そろそろREMフィッティングのスタートを切ることが出来た人が何人もいらっしゃるのではないかと思います。読者の方や技能者の友人から話を聞くと、昔からREMをやっていた極一部の方をのぞいて、意外なところで引っかかるポイントがチラホラあるようです。

今回は2022年1月の補聴器ハンドブック勉強会に向けて、REMフィッティングに取り組み始めた時にひっかかるポイントを、いくつかご紹介しておきたいと思います。

REM機器の販売代理店に実践者が少ない

補聴器マガジンを購読していただき、もしくは補聴器ハンドブック勉強会に参加して、勇んでREM機器を導入した方もいらっしゃるかと思います。実際にREM機器を導入しようと思うと、日本で購入できる器種は3種類です。

シバントス(旧シーメンス)が販売しているUnity3、オーティコンの関連会社であるダイアテックが販売しているアフィニティ-コンパクト、GNリサウンドが販売しているAurical。マニアックなものを探せば他にもありますが、現実的にはこの3社3モデルになります。

僕が初めてREM機器に触れたのは7、8年ほど前のことで、Unity3の開発元であるAuditdata社の開発したPrimusというモデルでした。中身はUnity3とほとんど同じものでしたが、日本語版もまだ開発されておらず英語版を実験的に導入しました。
実際にPrimusを購入してREMによる調整をスタートしようとしましたが、最初は機器の使い方以前に初期設定で引っ掛かり、校正で引っ掛かり、用語の理解で引っ掛かりました。輸入してくれた総代理店の担当者もREMフィッティングの実践経験は極わずかで、日々のフィッティングに活かせるまでに4年の時間がかかりました。

もう一つ、初めてのREM機器導入で検討したのが、当時Widex社が取り扱っていた旧モデルのアフィニティ-です。こちらもWidexの営業職の方々はREMフィッティング経験が無く、デモンストレーションとしてお借りしたアフィニティについて、実験的に使ってみようと思い、いくつか質問してみても「基本的に操作する部分以外のことは分かりません」というのが、最初のご回答でした。

まあ使っていないのだから、分からないですよね。
(もちろん皆さん本社や開発元に問い合わせて確認して下さるなど、本当にご協力いただきました。心からありがとうございます)

初めてのREMでひっかかるポイントは5か所

はじめてのREMフィッティング、欧米なら学校で教えてもらえるであろう基礎的なことでさえ、私たち日本の技能者やSTは、手探りで学ばざる得ないことがあります。
僕がREMを始めた時、僕自身が、もしくは部下に教えて引っかかったポイントは5つあります。

1、REUG(裸耳利得)を測定する際、プローブチューブを挿入する時の適切なプローブ留置位置が分からないこと。
プローブチューブは深すぎたら鼓膜に当たりますし、浅すぎると正しい測定になりません。どうやって正しい留置位置を判断すればいいのでしょうか。
※プローブチューブはふにゃふにゃな柔らかい素材で鼓膜を傷つける可能性が無く、耳型採取や聴力測定と比べても、まったく危険の少ない行為です。

2、REAG(実耳装用利得)を測定する時、プローブチューブと補聴器の耳せんの両方を適切に挿入する時の手技。
これを上手くやらないとプローブチューブがズレたり、耳せんにすき間が出来たりして、やはり正しい測定が出来なくなります。

3、処方式の選定。
これは本来ドクターにお願いしたい部分ではありますが、実際に補聴器で音を入れてみて「この処方だと良くないね」ということもありますから、STや技能者が実施することもあるでしょう。NAL-NL1、NAL-NL2、DSLv5などから、どの処方式をどういう基準で選ぶべきしょうか。とりあえずNAL-NL2を選んでおけば無難ですが、NAL-NL2だと良くないというケースもあります。

4、処方式の各種変数の設定。これが意外と皆さんに知られていないので、本記事で後ほどご紹介します。

5、処方式が算出するターゲットカーブに対して、どうやって音を合わせていくのか。
低価格な補聴器で、チャンネル数が少ない時にはどこまで合わせることができるのか。カーブに完全一致しない時に、どの程度が許容して良い範囲なのか。

およそ、この5つが引っかかるポイントです。この5つ、ちょっと知っていれば、もしくは正しい練習を繰り返せば、さほど難しくなくクリアできるとても小さなハードルなのです。

実際、当社の新人向けに、5つのハードルをクリアするためのテキストと研修カリキュラムは作っておりまして、そう難しくなく乗り越えてくれていますし、社内スタッフの半数以上はREMフィッティングを行っています。

しかし周りに知っている人・出来る人が誰もいない環境だと、REMフィッティングの習得には意外と苦労します。

【宣伝】国内でREMフィッティングを広め、その実践を支援する体制を作るべく、現在REM検査機器と研修プログラムをセットにした販売を計画しております。REMフィッティングに興味おありの方は、ぜひご連絡ください。
株式会社大塚 REMフィッティング普及事業窓口 REM@miru-kiku.jp

一言でNAL-NL2と言ってもいっぱいあって・・・検査機器の仕様が完全一致とは限らない

補聴器ハンドブックや補聴器マガジンを読んでいただいている皆様には当たり前のことですが
REIG=REAG-REUGという公式がなりたちます。REIGは実耳挿入利得、REAGは実耳装用利得、REUGは裸耳利得(外耳道共鳴)のことです。

そしてターゲットとすべき利得を計算するのが処方式です。最も有名な処方式の一つであるNAL-NL2であれば、その計算式はNAL研究所が開発し、定義しています。

補聴器ハンドブックでも補聴器マガジンでも、これまで取り扱ってきませんでしたが、実はNAL-NL2の中にも、いくつかの種類があるようです。

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