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騒音下明瞭度とクライアントが納得できる器種選び➀ ♯033

30号、31号の中川さんのIICへの情熱とその理論的な背景、読者の皆様いかがだったでしょうか?僕もとても興味深く読ませていただきました。

記事中にあった通り、人間ドックを受けるくらいに意識が高く、かつご予算多めのクライアントが軽度難聴になっているなら、IICが第一選択になること、とても多いケースだと僕も思います。

ただ「いやいや、そうは言っても中川センセほどに有名じゃない耳鼻科クリニックで、もしくは補聴器専門店では、そういうわけにいかないケースいっぱいあるんですよ~」と思われた読者の方もいらっしゃるかと思います。

というわけで、今回は器種選定について大塚の経験したいくつかの事例を紹介しながら、器種選定の考え方について述べてみたいと思います。

最初に断っておきますが、今回は個別ケースへの対応なので、エビデンスの外のお話です。そこはどうかご承知おきください。

ご予算が限られたタクシー運転手のケース

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ここまで聞けば読者の皆さん、お気づきの通り、補聴器の適応する年齢ドンピシャな職業なのです。私が担当するクライアントにもタクシー運転手は何人かいらっしゃいます。

ご相談にいらっしゃると、皆さん共通して「お客さんの声が聞こえない。目的地が分からない」とおっしゃいます。カウンセリングの中で、この主訴をいただいたときには、まずタクシーに乗った状態をイメージしてみて下さい。

お客さんは後ろの客席に座り、運転手さんは運転席、斜めの位置関係になります。タクシーはコロナ対策以前から暴力事件対策として、客席と運転席の間にアクリルのボードが置かれており、音声を遮ってしまいます。

そして運転手さんの前方には車のエンジンルームがあり、これが一つ目の騒音発生源、真夜中でも必ず発生していますね。国道沿いなど交通量の多い場所では、周りにもたくさんの車が走っています。タイヤと路面の摩擦により発生する振動や騒音のことをロードノイズといいますが、これがかなりうるさい。
しかも今はコロナ対策で、窓を開けていますから外部の騒音が入ってきてしまいます。

正に騒音下明瞭度で困っていらっしゃるわけです。

今度、タクシーに乗る機会があったら、少し観察してみて下さい。高齢の運転手さんで聞こえに自信がない方の場合「目的地を聞く前に、車を発進させること」を避けようとします。

「とりあえずまっすぐ出してくれ、途中で目的地を言うから」というような頼み方は、周りがうるさくなってからの会話になり、とても困るんだそうです。発信する前に、目的地をハッキリ確認して、可能ならルートも決めておきたいそうです。

さて、聞こえに困る高齢タクシー運転手の方々ですが、独立した事業主でもある個人タクシーの運転手は別として、会社に務めている方の場合、そんなに年収が多いわけではありません。

聞こえに困って補聴器を試そうとなったとしてもご予算10万位内とか、20万位内で何とかしたいという方がほとんどでした。

低予算で騒音下明瞭度を改善するには?

さて今回のケース、もしもご予算が潤沢だったとしても、普通の指向性機能は、あまり役に立たない事がお分かりになるでしょうか?
一般的には騒音下明瞭度を改善させるには、SN比の改善が有効。基本的(古典的?)にはSN比を改善するには、指向性マイクが有効とされています。

ほとんどの指向性マイク機能は、その角度の広さの差はあれど、顔を向けている方向の音を拾い、顔の側方・後方の音を拾いにくくします。でもタクシー運転手の方が聞きたい方向は、側方や後方なんですよね。

IIC補聴器による耳介集音効果の活用についても同様です。耳介による集音効果は、周波数によりますがSN比で3dBほど改善する可能性があります。しかし、これも指向性機能と同様に、顔を向けている方向の音を拾う働きですから、後方の音を聞くことに有効なわけではないのです。

このクライアントに提案するにはどんな選択肢があったでしょうか?次の3つは僕が提示した解決策です。

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