RECDでREMフィッティングをやってみよう!#023

先日の補聴器マガジン21号ではRE(Real Ear)で始まる用語について、技能者にとっての意味をご紹介させていただきました。22号では中川さんから医療者にとっての生理学的視点やリスク管理の視点からREMの必要性を解説していただきました。

今回は、やっと本題!REMの実技・実践、そして初学者の練習方法やエラーについてです。

REMを活用した調整を覚えると、良い調整が素早く簡単にできて、しかもよく聞こえます。

またRECDを調整に使うと、お客様がその場にいなくても補聴器の調整ができるようになりますから、初学者が時間をかけて練習するにもぴったりです。

今回はREM未経験者の方向けに、RECDを使った調整についてご紹介していきます。

※本記事は21号のつづきになります。用語の意味が分からない方は、そちらと合わせてご覧ください。


RECDってなに???

さて、まずは前回記事で書ききれなかったRECDについて。

RECDは、Real Ear to Coupler Differenceの略です。文字通り、実耳で測定した結果と、2ccカプラで測定した結果の差です。

特性器で使われる2ccカプラは、補聴器を装用した状態での耳道から鼓膜までの容積を模倣したものです。
この模倣が上手くいっていればいいのですが、そうなっていないのが大問題。

現実の人間の耳は一人ひとり耳道の容積が違います。その上、シェルやイヤモールドを長く作ったり短く作ったりすれば、それによっても補聴器を装用した状態の残存容積が変わってきます。

補聴器から同じ音を出した時、残存容積が小さければ鼓膜に届く音が大きくなり、残存容積が大きければ鼓膜に届く音は小さくなります。

残存容積による鼓膜面音圧の違い

※画像1、同じ耳でもモールドの形状で残像容積は異なる。

耳道の形状と耳せんの形状が鼓膜に与える影響、これを数値で現したものがRECDというわけです。

式で表すと次のようになります。

RECD=REAG-2ccCG

さて、ここからは教科書にも載っているRECDを求める計算について、簡単におさらいしておきます。

前回の記事でご紹介した通り、REAG(実耳装用利得)は鼓膜面から5mmの位置までプローブマイクを近づけて実際の利得を測定した結果です。
REAGから2ccカプラで測定した利得(以下、本文では2ccCGと表記)を引くと、RECDが算出できます。

RECDの本質は、あくまでシェルやイヤモールドの形状と、耳道の形状が数値で表されたものです。
シェルやイヤモールドの形状が変わったり、耳道の形状が変わらない限り、再測定の必要がないこともRECDのメリット。
RECDは一度正確に測定しておけば、成人のクライアントなら計りなおす必要がほとんどありません。

さらにRECDは、シェルやモールドの音孔からの出力音圧が変わっても、基本的に一定です。
これは65dB入力で求めたRECDを、50dB入力時や80dB入力時の利得調整にも使う事が出来るという意味です。
つまりRECDは、ノンリニア補聴器の調整にも有効というわけですね。

実際にRECDを測定すると、REM機器のソフトウェア上には次のように表示されます。下記の画像はUnityで、弊社スタッフの耳を実際に測定したデータです。

画像7

※画像2、RECDカーブ、REAGカーブ、2ccCGカーブ

このグラフの中には、3本のカーブが登場します。細かい点線がREAG、棒状の点線が2ccCG、そして太い実線がRECDのカーブです。

RECD測定時のカプラについて
どんな特性器でも、耳掛け型を測定するためのHA2カプラと、耳あな型を測定するためのHA1カプラがセットだと思います。上の図は、耳掛け型補聴器とイヤモールドの組み合わせですから、HA2カプラを利用しました。
上のグラフでは、3,000Hzの部分でRECDが小さくなっていますが、これはHA2カプラの特性によるものなので、これで正常です。詳しくは補聴器ハンドブック第二版、p103をご覧ください。

繰り返しになりますが、RECDの測定は、聴力や補聴器の調整とは、まったく何も関係なく、あくまで音響的な状態のみを測定し、数値化し、保存します。

RECD測定の時には、聴力は何も関係ありませんし、補聴器の調整状態も(理論上)危険が無ければ、安定した音が出ていれば何でもいいのです。

実際に画像2を測定した時には、補聴器の調整状態を2ccカプラ測定で利得は10~15dBほど、コンプレッションはリニア、安全管理のためMPOは90dBSPL以下、エキスパンションもOFF、その他のアダプティブ機能もすべてOFFに設定しています。

こうしておくと、実際にRECDを測定する時には精度を高めることが出来ますし、安全管理にもなります。

重度難聴の方のRECDを測定する時は、クライアントにまったく聞こえない状態で良いということです。

RECDは、一つではない!
本記事で紹介しているRECDは、主に成人の難聴者向けのREMテクニックである「フリーフィールド法」です。RECDには、この他に「インサート法」という技術があります。インサート法は耳あな型やRICモールドの測定ができないものの、測定が簡単で測定エラーが起こりにくい特徴があります。二つは別物ですが、どちらもRECDと呼ばれています。混ぜて覚えないよう注意して下さい。

2023/9追記 注意事項
ANSIでRECDの測定方法が規定されましたが、そこではインサート法のみ採用されました。本記事で書いてあるのは、フリーフィールド法であり異なります。本記事は公開のまま残しますが、RECDによるフィッティングの場合、インサート法で測定したRECDの方が精度が高く測定できます。

インサート法によるRECD測定については、いずれどこかで解説したいと思います。少しだけ書いておくと、インサート法によるRECDは耳あな型およびRIC型の補聴器にはあまり向いていません。BTE型の耳掛け型補聴器を調整するのに向いている手法です。

ここから先は

3,192字 / 5画像

¥ 990

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?