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シェルとイヤモールドの基本&マメ知識-新人ST向け基礎編-♯036

補聴器ハンドブック勉強会へたくさんのお申込みありがとうございます。
まだお席が若干残っておりますので、補聴器フィッティングにご興味お持ちの方はお早めにお申込み下さい。

さて補聴器ハンドブック勉強会では、REMについて、音響について、神経生理学についてなど、様々な講演があるようですが、そのうちの一つにオーダーメイド補聴器のシェルもしくは耳掛け型補聴器のイヤモールドについても講演があります。

これまで補聴器マガジンの中でもシェルの形状については何回か話題を提供してきました。

技能者の存在価値はここにある!その1シェルデザイン!#009

シェルに自信のない技能者が3倍速でレベルアップする方法(当社比)#020

これらの記事、技能者の方には大変好評だったのですが、先日「補聴器フィッティング初心者の言語聴覚士や、これから聴覚領域に入ろうとする言語聴覚士には、もっと基本の用語などの情報が欲しい」というご意見をいただきました。

はい、というわけで今回はシェルの基本中の基本について書いていきたいと思います。

耳の部位の用語を正しく知ろう

私たち広い意味での耳の専門家は耳の中でも部位を分けて、耳珠とか、耳輪脚とか、耳甲介腔とか、それぞれに名前があることを知っています。耳の穴とは言わずに耳道と言ったりしますよね。

またオーダーメイドのシェルなりイヤモールドを作るときには、その形状がとても重要になってきます。シェルとイヤモールドにも、部位ごとに用語があるのです。

用語を正しく知っておくと、耳を観察する能力、シェルのクオリティチェックもレベルが上がりやすくなります。仕事上でコミュニケーションを取るときにも有効です。
正しい用語を知っていれば、言語聴覚士が技能者と、もしくは言語聴覚士が医師やメーカーの方と話すのがスムーズになります。
使う言葉が正確になれば、一つ一つの経験からより多くを学べるようになるでしょう。

技能者にとっても用語・名称はもちろん重要。メーカーのシェル制作への指示やコミュニケーションには必要不可欠ですよね。

また意外と知られていないことですが、補聴器メーカーの大部分の中で使われているマニュアルは、微妙に英語が混ざっています。

海外企業ですから当然なのかも知れませんが、彼らが英語のマニュアルやテキストだけで勉強していると、日本語の部位名称は知らないけど英語だと知っているなんてことも起こります。
ここにもちょっとしたコミュニケーションエラーが潜んでいます。

今回は、耳の部位の名称、イヤモールドの部位名称、イヤモールドの素材別の特徴と適応、シェルの種類と名称、ベントの種類など、基本中の基本を紹介しながら、マニアックな小話もちょこちょこ織り交ぜていきたいと思います。

なお、この記事は補聴器ハンドブック勉強会での予習にもなりますので、参加される方は先に読んでおいていただくと、当日の学びがより大きくなると思います。

耳の部位と名称

まずは基本中の基本。耳の部位の名称です。

3軸説明1、左上の切り出し

3軸説明2、右上の切り出し

3軸説明3、左下の切り出し

3軸説明4、右下の切り出し

Figure01~04:外耳道の側面図・断面図・一般的な形状の耳のイメージ、および耳の各部の呼称。補聴器ハンドブック第二版を参考に筆者作成。

耳を観察して異常が無いか?ということは、医師はもちろん言語聴覚士も技能者も、日常的に行っていると思います。
万一、何か問題に気づけば、ドクターに相談するわけですが、どうやって伝えるか?という時には言葉が必要です。
もちろんシェルやイヤモールドの形状をメーカーと相談する時にも言葉が必要。

図の左上にあるのは、頭部をどの角度で切っているかを表す3つの言葉の説明です。実際の言葉の使い方を例に挙げながら紹介してみます。

1)軸位断(じくいだん)
別名横断面(おうだんめん)とも呼ばれ、図のように人体を切った時の断面図です。上から見たときと下から見た時の二つの見方があります。
「軸位断上方から見て、第二カーブの部分に、、、」と言えば位置が特定されるので、誤解のないコミュニケーションが出来ます。

耳型を採取した印象の観察では、特に重要です。第一カーブ、第二カーブの曲がり具合が分かりやすいのは軸位断で観察した時。実際の耳型は立体ですから、上方から見た時と下方から見た時ではまた違う発見があることもポイントです。

2)冠状断(かんじょうだん)
人体の前方もしくは後方から見た時の断面図です。
たとえば「採取した耳型を冠状断の後方から第一カーブ部分をよく見ると、皮膚のたるみ具合のシワが微かに見えます」とか「冠状断の前方から見ていただくと、耳道と耳甲介艇が近いので急な上向きであること分かると思います。シェルが抜け落ちてくる可能性があるので、ストッパーとして耳珠間切痕までシェルを・・・」などと話せば、実物の耳型が手元に無くても、どこに何があるか言語化できます。

3)矢状断(しじょうだん)
矢状断は、人体の中央側から見ているか外側から見ているかの2面があります。クライアントの耳を観察する時には、当然のことながら矢状断の外側から見ることになります。
耳型採取した時に印象の量が多すぎると自重で垂れてくるため、採取できる耳型の形状エラーの原因になります。この辺りは「矢状断外側から見て、印象の量が多すぎないか。矢状断内側から見て耳甲介艇部分の表面の質感が他と異なりツルツル過ぎないか」などで判断できます。

こんな具合で、用語・名称を正しく知っておくと色々な場面で有効です。
次はシェル・イヤモールド側の名称を見てみましょう。

イヤモールドの部位の名称

イヤモールド名称ver2

Figure05:イヤモールド・シェルの各部の名称。補聴器ハンドブック第二版を参考に筆者作成。

イヤモールドの部位名称については、その多くが耳の部位名称と重なっていますから、先に耳の部位名称を覚えてしまえば、追加で覚えることは多くありません。

上の画像では「耳輪固定部」と書かれていますが、実際にイヤモールドのメーカーと技能者が会話する時には「耳輪の部分が大きすぎて入らない・痛みが出る」「耳輪の部分が小さすぎて、固定する役割を果たさない」と言えば、コミュニケーションできます。(時々、ヘリックスロックと英語で言わないと通じないこともあります)

追加で覚える用語は多くないのですが、逆に解剖学用語を先に覚えていると混乱するようなワナがいくつか潜んでいます。実はヘリックスロックと書かれている部分が触れるのは主に耳甲介艇(シンバ)ですし、耳甲介ロックと書かれている部分が触れるのは耳甲介より対耳輪(アンチヘリックス)だったりします。

実際はオーダーメイド品なわけですから、耳甲介ロックを耳甲介まで作ったり、アンチヘリックスまで作ったりするので、名称を完全に定義することが難しいようです。
ヘリックスロックと耳甲介ロックの二つに関しては、もう誤解が起こりやすいもの、と割り切って毎回確認する習慣を身に着けるしかないかも知れません。

解剖学的な用語ではなく、イヤモールドに関して追加で必要になる用語には「音道」「正中側開孔部(音孔)」「隙間シール」があります。

特に重要で忘れられがちなのは「隙間シール」という概念です。これは耳道に対して、ぴたりとすき間なくくっ付き、音漏れを防ぐ役割を負っているのは、イヤモールドの中で、特にどの部分か?ということです。

隙間シールより外側(耳介側)は、イヤモールドの保持力を作りだし、耳道へ挿入された後のイヤモールドの位置を安定させる役割を果たします。
隙間シールより奥側(鼓膜側)は、その長さによって補聴器挿入後の残存耳道容積が増減しますから、直接に鼓膜面音圧が変わります。

「正中側開孔部」については、個人的には「音孔(おんこー)」と呼ぶことが多いです。
音孔は、その角度が重要で、鼓膜面にまっすぐ向いているとハウリングリスクが減り、鼓膜に届く音が安定しやすくなります。
この逆に、音孔の直線上に耳道側面がぶつかるようだとハウリングリスクが高まります。この問題は、イヤモールド先端を耳道に対して浅く作ると起きやすくなります。

耳の部位名称、日本語、英語、スラング一覧表

ここまで日本語で部位名称をご紹介してきましたが、海外の補聴器メーカーの人と話すときには注意が必要です。彼らは外資企業のためか、部位名を英語でしか覚えていない人が時々います。

また販売店側も人によっては正確な部位名称ではなく、スラングというわけではないのですが、曖昧なまま覚えていることもあります。日常業務では意味が通じる場合もありますが、誤解したまま話しているとコミュニケーションエラーから、イヤモールドやシェルのクオリティに影響してしまうかも知れません。

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