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徒然なるままに(自己紹介)

「雨の日は、たとえば紫陽花に一滴ついた雫に世界をみる。たとえばコーヒーに揺れる泡に世界をみる。なんだか自分の存在が飽和しているみたいで、色々と書き綴ってみても、自分とこのペン先までは月までよりも遠い気がしてしまう。」 「隣の工事の音がうるさくて、大音量でビートルズをかけた。思いつきで指に引っ掛けたのは、アビイロードだった。Here comes the sunの中で、パンをかじる。そういえば、あの人は元気だろうか」 徒然なるままに。最近のひとたちはどうもこれが得意だ。徒然な

    • 床屋II(詩)

      「長くしますか短くしますか」 「その間」 「色は明るくしますか暗くしますか」 「その間」 「雑誌はファッション誌ですか週刊誌ですか」 「その間」 「お仕事はお忙しいですか暇ですか」 「その間」 「家族仲はいいですか悪いですか」 「その間」 「和食と洋食どっちが好きですか」 「その間」 「最近幸せですか不幸ですか」 「その間」 「豊かですか貧しいですか」 「その間」 「私って最高ですか最低ですか」 「その間」 「あの人私のこと嫌ってるんでしょうか、それとも気のせい?」 「その間

      • なりきりごっこ(短編小説)

        卵を茹でている。今しがた沸騰したところだから、ここからの時間を計れば良い。そう思い、ふとキッチンにい置いてあるデジタル電波時計を確認すると、時刻が変わるところだった。その数字の並びを見て、澄子は「あ」と声を出す。火を弱火にして、換気扇のスイッチを切って、ラジオをつけた。 「みなさんこんにちは。ウィークエンドラジオ『ひばり』の時間がやってまいりました。今週も、お付き合いください」 軽やかな音楽と、耳心地いい裏声。毎週土曜の、楽しみだった。 「さて、いつもどおりおはなしをはじめま

        • ふるさと(詩)

          家とともに呼吸する そこには境界線などないように 僕らの思考は飽和する けだるい朝の光の中で ここを巣とする 外界から自分の身を守るかのように 冷たい水に入る時のように ゆっくりしんちょうに 僕は体を慣れさせる そうして僕らはひとつになる ささいな違和にも気づくように それが空と大地に広がったところを ぼくはふるさとと呼ぼう

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        徒然なるままに(自己紹介)

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          洗濯物(短編小説)

          時計を見ると、間も無く正午になるところだった。 翔子は腰を上げ、冷凍しておいた6枚切りの食パンのうち1枚を引き剥がして、トースターに放り込んだ。最近、食パンは買ってすぐに袋ごと冷凍庫に入れておく。昔は冷凍なんかせずに、よく朝食にホットサンドを作っていた。林檎を砂糖とレモン汁で煮ておいて、クリームチーズを挟んで焼く。もしくは、輸入品のお店で買ったスモークサーモンとクリームチーズとバジルを挟む。パリッという食パンのあとに、柔らかい具材を噛みしめるのが好きだった。クリームチーズはか

          洗濯物(短編小説)

          絵本(随想録)

          小さい頃大好きだった絵本を中古で購入した。 しっかり覚えていたわけではなくて、私の心にあった魅力的なイメージを頼りに検索して、ようやくたどり着いた。絵本は大好きだが、何しろ小さい頃の記憶なので、タイトルを覚えている物の方が少ない。今は、キーワードさえ覚えていればインターネットの海から拾い上げることができるいい時代だ。 届くまでの間、サンタクロースからのプレゼントを待っているような気分だった。はやく、あの素敵な世界に飛び込みたかった。届いた絵本の装丁を見ると、なんとなく記憶とは

          絵本(随想録)

          朝のルーティン(随想録)

          恋人と、「朝のルーティン」にはまっていた時期がある。当時は訳あって別々に生活していて、私は実家、彼は一人暮らしをしていた。 朝が苦手だった私は、なんとか早起きを習慣づけるものはないかと策を練っていて、そんな時に見つけたのが動画サイトに上がっている「朝のルーティン」動画だった。さまざまな属性の方、例えば夫婦二人暮らしの主婦、一人暮らしの社会人、学生、子どもがいる母親、などの朝のルーティンを見ることができた。動画の中にはなかなか凝っているものもあって、朝カーテンを開け日差しが降り

          朝のルーティン(随想録)

          床屋(詩)

          「長さはどうしますか」 「いつもどおりさ」 「色はどうしますか」 「いつもどおりさ」 「前髪はどうしますか」 「いつもどおりさ」 「雑誌は何を読まれますか」 「いつもどおりさ」 「お盆はどうされるんですか」 「いつもどおりさ」 「お子さんはお元気ですか」 「いつもどおりさ」 「何かいいことありましたか」 「いつもどおりさ」 「最近人生に迷ってて」 「いつもどおりさ」 「いじめってなんで起こるんでしょう」 「いつもどおりさ」 「時が経つのははやいですね」 「いつもどおりさ」 「

          床屋(詩)

          トリックスター(短編小説)

          不思議な舞台だ。競技場のように広く感じた次の瞬間、まるでショッピングモールの催事場くらいこじんまりと見える。舞台も客席も白く淡く光っていて、なんとなくぼやけて見える。舞台にはピアノが一台置いてあって、私はあのピアノで美しい音楽が繰り広げられるのを、客席で待っていた。客席といっても、丸いテーブルがランダムに置いてあって、そこにある椅子に座っていた。まるでリゾート地のプールや海にあるビーチパラソル付きのテーブルみたいな材質だ。他に人はまばらだが、少し気になる人がいた。私の斜め後ろ

          トリックスター(短編小説)

          ひばり(詩)

          こんどは きこえたみたいだね そうだね こちらを見たもんね 毎年うたっているのにね 毎日うたっているのにね きこえないときもあるんだね こんどは うたっているみたい ほんとだ 小さくきこえるね 毎年 あそこに行くんだね 毎日 一緒にいるのにね 星が見えない昼間のように

          ひばり(詩)

          当分こんなもんだろう(短歌)

          まころんの月面をじつと見ている 充電が切れた吾子の昼寝どき 目も耳もたしかに夏を仕入れてる 26℃の風を浴びつつ 自由帳 自由研究 自由時間 自由が丘 自由律俳句 透き通る レースのカーテンみたいなひと 陽に当たり色が変わるひと 「おめでとう」が文字で行き来するご時世に救われしひとの話をしよう ビートルズで世界が変わらないのならそれなら当分こんなもんだろう 垂直に私を押し出す遺伝子が 夜風に乗って土と香る

          当分こんなもんだろう(短歌)

          踊り場にて(短歌)

          ミント色の肌着が呼吸で上下する ブルーインパルスに沸く夏の日 踊り場にて結界のごとく変わる熱 角がなくなるチョコレイト哉 耳元で風をおこして日曜日 朱色のピアスが襟に着きそう 植物が枯れたことのないふるさと 洗い物が溜まった東京の部屋 コンタクトを外し忘れた夜もある 消し忘れたテレビが見え過ぎる 引き出しを圧迫している日記帳 就職先の書類が迷子

          踊り場にて(短歌)

          砂に寝転ぶ(随想録)

          太陽が向こうに去っていくのを、ぼんやりと、というか半ば呆然と、見ていた。これは何色というのだろう。波の音はずっと鳴っているけれど、もう耳に馴染んでいて、まるで聞こえないみたいだった。世界は、波の音みたいに、本当はずっとなにかの音が鳴りっぱなしなのかもしれない。そんなことを思ったりした。 「森の中のキャンプもいいんだけど、砂浜のキャンプもいいんだよね。寝てるとき、砂が気持ちよくて」 ずっと彼に言われていて、ふうん、と気にはなっていた。彼と共通の趣味はキャンプで、色々なキャンプ

          砂に寝転ぶ(随想録)

          朝(随想録)

          家では、毎朝珈琲を飲む。 珈琲は豆を買ってきて、時間がある時にミルで挽いている。珈琲豆のことは、正直よく知らない。だけど、この前飲んだエチオピアの深煎りは、酸味がなくって物足りなかった。珈琲の酸味、苦手だと思っていたけれど、なきゃないで首を傾げてしまった。最初は強すぎて苦手だったスタバのイタリアンローストが、最近は癖になって、結構いい。特に、朝に飲むにはもってこいで、私は朝食の最中から食後の珈琲のことを考えてしまう。 珈琲をドリップするコツは、最初ネットを見て色々調べた。色

          朝(随想録)

          只(随想録)

          愛する人の腕が一本欠けたとして、「それでもあなたはあなただわ」。じゃあ、もう一本、足も一本、ついでにもう一本、どこまでいってもあなたはあなた?この手は私のもちものか、それとも私そのものか? そんな問いを皮切りに始まった、大学の講義を今でも覚えている。所有と存在についての、哲学の授業。 SNSは色々ある。共通しているもののひとつに「数字」がある。Twitter、Instagramでは「フォロワー」と呼ばれ、Facebookでは「友達」と呼ばれる人々。彼らはそのユーザーの投稿を

          只(随想録)

          在るだけの囲炉裏(短歌)

          深淵とにらめっこをしているみたい しめ縄に縁取られし森よ 熊よけの鈴を魔法の杖にして 重さのぶんだけつく足跡 なんとなく疲れていないふりをする 絵で見るよりも目障りな木漏れ日 在るだけの囲炉裏の灰を掻き回す あの人の骨を思い出したり 縁側のささくれひとつ 幸せの住処にひとり日向ぼっこ

          在るだけの囲炉裏(短歌)