エレファント

*ネタバレあり
ストーリーはゆっくりとその流れを確実に表しながら進んでいく。
芝生の緑が美しい校庭や秋の香りが漂う落ち葉の林道。
どことなく殺風景な校内。
アート映画のような映像の美しさが際立つ。
周りの雑音を一切取り払ったような静かな空間。
それぞれいつものように学園生活を送る学生たちの日常。

それは変わりなく送られていく現実世界。
だけど、同時に、
少しの奇妙さを取り入れた全く異次元のようなもう一つの世界が交錯する。

人物や風景に向けるカメラの捉え方が、
残酷なストーリーの幕開けになり切ない。

1999年、アメリカ・コロラド州、コロンバイン高校の銃乱射事件を基に作られたこの作品は、
カンヌ国際映画祭パルムドールと監督賞を受賞。

生徒役の出演者はオーディションの中から選ばれた等身大の若者たち。

校内から出た時に銃乱射事件の加害者であるアレックスとエリックに警告を受けるジョンは、
酒酔い運転の不安定な父を心配し学校どころではない状況でありながら、
二人の警告を受け、必死に校外にいる生徒や教師に校内に入る事を拒む。

写真に夢中なイーライは一つの事に夢中になる若者の心理を静かに自然体で表現する。

ダイエットや男子生徒、母親の事などの話で持ちきりの女生徒三人は、
日常の変わりない一日を軽快なテンポで表現している。

そして乱射事件を引き起こした二人の男子生徒アレックスとエリック。
校内でいじめを受けていたアレックスとその親友エリック。
冷静に事件の作戦を練るアレックスが教室であからさまにいじめを受けるその表情は、
とても悲しく、彼が部屋で弾くピアノの旋律と重なる。

ゆっくりと自分のペースで奏でる「エリーゼのために」。
心の内がだんだんと姿を現すような「月光」
なんともいえなく切ない。
そのピアノを聴きながらパソコンで銃殺のゲームをしているエリック。
心を映し出すピアノの音色と
情報が氾濫する電子の箱がその両極端を示しているようで、
なんとも言い難い。

残酷な行動に走ってしまったのは何故なのか。
いとも簡単に次々に人を殺していく想像を絶する恐怖がそこには存在し、
無念で全ての音が閉ざされたかのようだ。
心に圧し掛かるこの重いものはなんだろう。
数々の考えるべき課題と情報が身近に溢れるこの社会のあり方を
改めて考えさせられる作品だ。

2003年 米
監督:ガス・ヴァン・サント
出演:エリック・デューレン
アレックス・フロスト
ジョン・ロビンソン

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