![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/53742618/rectangle_large_type_2_7eacabed5aaf6e6f6793a6a8f3d2d9bf.jpg?width=800)
【命を身ごもり育むということ①】
真夜中にふと目が覚める。
暗がりの天井を眺めていると、
だんだん目が慣れてきて、
カーテンの向こうの月明りが見えてくる。
電気の傘、キッチンの窓。
月明りが、
オリズルランの葉のシルエットを
きれいに映す。
こんな真夜中に私は目を覚ましたけど、
私の隣には、私の娘が小さな寝息をたてて寝ている。
そんな、今の私にとって当たり前のことが、
まだ私には、当たり前に思えないことがある。
今、私の隣で寝息を立てているのは、私が産んだ私の娘。
それがいまだに信じられないときがある。
この現実が、言葉にならないくらい愛おしい。
この現実に、安心しきって、
私はまた目を閉じる。
**********
あなたにとって、
忘れられない涙はありますか?
ずっと大切にしたいと思う涙はありますか?
**********
娘を授かっているのがわかったとき、
私は不安でたまらなかった。
それが私にとって、
一番望んでいたことなのに、
焦燥は瞬く間に心を覆いつくし、
精神が揺らめいた。
*****
これから綴るのは、妊娠・出産の記です。
ジェンダーにとらわれず人間として、読んでもらいたいという意向です。
妊娠、出産特有の症状が綴られているため。
不快の思う表現があると思います。
苦手な方は読まないで下さい。
**********
2005年6月13日、
赤ちゃんを授かっていることを知った日。
この日はとても涼しい過ごしやすい日で、
周りの景色と空気に、自分だけが置いていかれた気がした。
妊娠を知って、喜びよりも、不安が大きかった。
むしろ、喜びは、ない。
待望の妊娠、不安が渦巻く。
結婚して8年後にようやく決心して子を授かりたいという気持ちになった。
精神疾患のため子を授かることが怖い。
しかしこの時期強く子を授かることを望むようになったのだ。
なのに、妊娠を知って、
うれしくない。
それは何故かというと、
お腹にいる命は、一体誰なのか?
そう考えてしまったのだ。
全く持っておかしな考えである。
お腹の中にいる新たな命は、私の子であり、旦那さんの子である。
今なら、当然のようにそう思える。
人間誰だってわかることだ。
でも当時の私は、倫理という文字に、縛られていた。
人間が人間をお腹の中に身ごもるという現実。
このとてつもなく大きな重責。
私はその重責を果たせるだろうか。
お腹の中にいる子は、一体誰なのか、そういう考えに取り付かれていた。
この子は誰なの?
どこから来たの?
怖い。
人間じゃないのかもしれない、そういうことだってありえるかもしれない。
そう、普通に、何も疑わず、思っていた。
何たる怖い思い込み。
今ならわかる。
これは強迫観念だ。
**********
精神的なものが大きいのだと思う。
翌日から、つわりが始まった。
食欲がなくなり、吐き気が酷く、めまいがする。
仕事も行けなくて、そのまま辞めた。
ほぼ一日中、クイーンサイズのベッドの中で過ごす日々の始まり。
私が寝ているすぐ隣には、ルイ(犬の女の子)がいつもいた。
ナナ(犬の男の子)は、ベッドの下にいつもいた。
寝室で、二匹と過ごす日々。
食欲がなく、何も受け付けない。
母がフルーツ入りのヨーグルトをいつも買ってきてくれて、
私は寝ながら、少しづつヨーグルトを食べていた。
寝室とトイレを何往復もする。
体力がほとんどない。
そんな日が一週間ほど続き、ある日、寝室のテレビを見てみようと思った。
そんな時につけたテレビには、チェ・ジウ主演の「真実」という韓国ドラマが放送されていた。
つけては消し、またつけては消し、そんなことを何度もしていても、「真実」は終わらない。今考えると2話連続で放送されていんだと思う。
何も食べたくなくて、でもお腹が空く。
そして気持ち悪くなって、それの繰り返し。
つわりって、辛いと噂には聞いたことがあるけど、
こんなに辛いものなのかと疑問に思う。
ある日、旦那さんが、引きこもる私を心配して、外に行こうと誘ってくれた。ドライヴに行こうと。
乗り気ではなかったけど、何度も言われてしぶしぶ家を出た。
ドライヴ、どこへいくのかと思ったら、旦那さんは、児玉長瀞線のくねくね山道に車を走らせ始めた。
ただでさえ気持ち悪いのになんでこんなとこにくるんだ、とかなりイライラしていたが、怒る気力がない。
山の高いところへ出て、外に出てみた。
少し気持ちが良かった。
でも、変なことを考えた。
車に乗って、このまま下に落ちたらいいかも。
そんな変なこと。
死にたいとかそういうことを思ったわけじゃないけど、
なんだか、山のふもとに引き込まれそうで、なんだかそれが気持ちよさそうに感じた。一種の陶酔と、現実離れの欲求だと思う。
今まで挫折や苦悩を味わったことのない、のうのうと生きてきた自分。
つわりこそが、今まで生きてきた中で一番つらいものだった。
プラムやソルダムを食べていた時期があった。
でもすぐ吐いてしまう。
その次に何故かポテトが食べたくなった。
でも見たとたん、吐き気がする。
水が身体に痛い気がした。
水を飲むと、痛い。
水が硬い。
ジュースもだめ。
唯一飲めたのが牛乳。
でもやはり吐く。
吐いてばかりなので、吐くものがなくなり胃液を吐く。
胃液もなくなり胆汁を吐く。
この胆汁が喉を通るときの気持ち悪さをいったら、
言葉にできないほど。
そのつわり、一切状態が変わらず2ヶ月続く。
その間、8キロ痩せた。
ジーンズのお腹にあたる部分、
ブラジャーのしめつけが苦しくて余計吐き気を催すので、
ずっとワンピースを着ていた。
その一方、お腹の中にいる命が、怖いと感じた。
自分のお腹の中に新たな命が宿っている。
私はどんな小さなことでも失敗できない。
そんなことを思っていた、常に。
なので、少しでもお腹に何かが触れると怖くなった。
赤ちゃんが死んじゃうのではないか。そう心配になった。
お腹をかばって神経が張り詰める。
守らなきゃ、守らなきゃと、ずっとずっと思う。
ずっとずっとお腹を気にしている。
でも、このとき、お腹の中の赤ちゃんに対する愛おしさは、なかった。
全然なかったのだ。
この頃、妊娠の喜び、出産への待ち遠しさ、ウキウキ感、一切なし。
続く・・・。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?