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「一番怖いのは終わらないこと」【蛇の道】から見えた冷静沈着な憎悪の中に滲み出る切ない人間性

始終冷たい空間に
虚無しか感じられない。

感情を失くしたものの表情に
貼り付くものは何も無い。

怖いのは「終わらないこと」
心療内科医小夜子のこのセリフを聞いて
スティーヴン・キングの「グリーン・マイル」の結末を思い出した。

終わらないことこそが究極の罰だという。

人は終わりを恐れる。
しかし最大の恐れとは終わらないことなのだ。

明ける朝のカーテンの隙間から漏れる
柔らかな光。
じき色濃く彩られる木々の縁取り。
大切なものがそばにいて、
愛を感じることのできる日々の明け暮れは尊いだろう。

しかし身をも引きちぎられる現実が、
常に呪縛のように隣り合わせならどうだろうか。

終わることを切に願うかもしれない。

この作品は黒沢清監督のセルフリメイク作品である。

「蛇の道」は復讐の物語。

とにかく淡々と、淡々と自身に課せた背徳を冷たい目線で写し出す。

時に悪戯に強気を纏い愚かに甚振る
未熟な行動、時に恐怖に雁字搦めの弱さを隠しきれない様子、それを行ったり来たりする復讐劇を敢行するダミアン・ボナール演じるアルベール。

彼とは真逆に常に冷静を貫く
柴咲コウ演じる小夜子。

一方1998年に公開された「蛇の道」は、
良くもある卑陋さと陰湿なダークさが極まった
Vシネマ特有の描写が復讐劇を沸き上がる。
恨みを背負ってるのかそうではないのかいまいちその心理が伺いしれない香川照之演じる宮下は始終ちゃらんぽらんに見え、
哀川翔演じる飯島は憎悪と冷徹そのものだ。

蛇の道の意味を考えると皮肉にも似た螺旋のような気持ち悪さが否めない。

セルフリメイクのこの作品は、オリジナル版とリメイク版と細かいセリフや登場人物が一方の登場人物に寄せる思いが極力同じだ。

「気持ち悪い」という感情をどちらも持ってしまうのは主人公が手助けする復讐を誓う人物だ。

他力本願で事実を明確に見ようとしない。

一番見たくない人間の姿であり
一番好ましくない人間で
一番腹立たしく気持ち悪い。

そんな登場人物の姿が愚弄にさえ見える作品だった。

一方小夜子が滅多刺しをするのはすでに息絶えた人間である。その憎悪の表情を感じてほしい。

終わりを望み復讐の青い炎がメラメラと燃え続けているものは誰なのかを。



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