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兎に角前に

 7月は先輩のお店のお世話になって色々とお菓子やソースの基本を教えて頂きました。この年で勉強出来る環境に感謝です。そこでちょっと飲んだ事のある年下のシェフのお店が5年ちょいで閉店すると聞いてしまった。

 『そーかーなんか寂しいですね。』

 『まあしゃーないよ。それぞれの人生だしね』

 自分も人生上手く立ち回れていないし、迷走してるけど這いつくばりながら目標に向かって進んでいるつもり。友達も先輩も沢山いるわけでは無いから相談先も少ないけど、ちゃんと面と向かって教えてくれる。彼にはいなかったのかな?ポジティブな閉店もあるからなんとも言えないけど。お客さんさえ来て貰えればある程度は心豊かに過ごせるし、自己肯定感も得られる。やっぱり心のバランスを取るのが一番難しいなぁと。 
 でも兎に角前に
 それしか無い。明日はちゃんとくる。プライドも捨てよう。本当に一から。諦める事を忘れよう。フランス行った時と同じじゃ無いか。いやむしろあの時より全然マシだ妻も子供達も友達や先輩もいる。自分からいい環境に足を運ぼう。
 頑張ろうー!


以下くだらない話です。思い出しながら書いているので時間のズレがあると思います。登場人物も実名ではありません

 〜やりたことってなんだよ! そんなもんわかんよ!〜

 おっかない顔した同級生もいる中、仲良くしてくれる親切な同級生も出来てサッカー部に入部した。夏まで何していたかも覚えて無い。あまりにも問題が多すぎる。大学に行った兄貴が狂って帰宅して、毎日訳の分からない事言って入院が決まった。中学三年の夏におばあちゃんが脳梗塞で倒れて丁度一年経って、半身不随の回復が見込めないと言われた。母が介護をする為農協を辞めた。未来が見えなくなって考える事を停止したくなったけど頭の中でブルーハーツが流れていた
『未来は僕らの手の中』
 何故か諦めちゃいけない様な気持ちになってた。でも経済的にもう大学は無理だろう。偏差値無視すれば今から頑張って、地元の国立に限定すればいけるかもしれないが、そもそも都会に出たくて大学行きたいとか、良くわかんないけど沢山お金を貰える企業に就職したいから、その権利を得たいとかの本当にぼやっとしたものしかなくて、好きでもない勉強をそんなにがんばれるのか?頭がダメならスポーツか?プロサッカー選手なんてなれるわけもない。一体何のために社会に出るのだろうか?頭の中はぐちゃぐちゃ。
 毎日マサん家行ってタバコ吸いながらゲームして現実逃避したり、麻雀しながらまたモヤモヤ考えたり。何やってるんだろ?
 『藤井腹減ったけどなんか食うもんない?ラーメンとかでいいから』
 『なんだよめんどくせ〜な。まあしゃーない俺も腹減ったしゲームでもしてて。』
 チャーハンの元と冷飯、タマネギとか人参、にんにくもあった。
 『これならお湯沸かすの待つより早くかな?』
 テキトーに説明書を見て作った。
 『おっ上手いじゃん! かーちゃんの奴より美味いよ!』
 下條にも褒められた。図に乗ってしまう。
 人に褒められた事ない。勿論親にも褒められた覚えは無く、褒めてくれるのはいつもおばあちゃん。時代的に『叩いて伸ばせ!何くそ根性が大事だ!』と言うのもあったと思う。友達に褒められるってめちゃくちゃ嬉しい!これいいかも?料理面白いかも?

 チャーハン作ってから次の月曜日に母が家出した。
 高校から部活サボって帰ってきたら、母がいない。
 『あれ?ばあちゃん所行くのは午前中なのになんでいないんだろ?買い物かな?』
 夏場は田んぼの手入れがあるので自然に合わせて父が早く帰ってくる日がある。
たまたまその日は早く帰ってきた。やばい部活サボってるのバレてどやされる!
 『おい智大ママどこだ?』
 ん?ゾワってした。母が父に行き先言わずに出る事は過去一度もない。狂った兄はもう鉄格子のついた病院。あれ?おかしいぞ。
 『え?知らない。』
 『………そうか』
 夜になっても母は帰って来ない。買ってきたコロッケとかトンカツとか食べてシャワーを浴びた。藤井の家は365日お風呂を沸かす。野良仕事を労う為毎日母が沸かす。お風呂掃除が出来ていないから、父は夜入るお風呂を始めてシャワーで過ごしただろう。大学の四年間を除き結婚するまでは祖母、結婚してからは母が家事をやってきた。家の中で箒を持った姿も見た事は無い。
 次の日高校を休んだ。当たり前だが担任の先生から電話があった。
 『家庭の事情休みます。』
 とだけ言ったら、
 『ご両親は?電話代われる?』
 『二人ともいません。おばあちゃんは入院してるし、おじいちゃんは軽い痴呆です。』
 『わかった。帰ってきたら学校に電話して貰えるよう伝えて。』
 『伝えますが、お父さんは遅いので無理だと思います。』
 『じゃあお母さんは?』
 『いません。』
 『え?』
 『いません。伝えます』
 イライラして返答待たずに電話を切ってコードを抜いた。

 夕方の6時ごろ家に先生が来た。家の状況をぶちまけた。両親の立場を考えること家の名に傷が付くので絶対のタブーだけど、全部どうでも良くなった。今からエリートとかお金持ちとかなれる訳も無いと思っていたし。今週母が帰って来なかったら、学校辞めます。早く自立したいです。何話しても近所に知られるこんな田舎はまっぴらごめんだ。だめはダメなりに一人で生きて行きたい。ほっといて欲しい。
 先生は悲しい顔してちょっと涙ぐんで優しく 
 『わかった でもお母さん戻ったら電話して欲しい』
 と言われた。
 はい とだけ返して部屋で貧乏ゆすりしながらフィリップモリスを立て続けに吸い紫煙眺めて、ブランキージェットシティを聴いた
 『ノイローゼになってしまった友達が僕に言う あの楽しそうなディズニーランドに一緒に行こうよって〜』
 ボーっとしてきた。こうなったら歴史とか化学とか生物とか意味を持たない。そんなことより掃除の仕方とか洗濯とか料理とかまず出来ないと生活に支障をきたす。一気に勉強する気持ちが無くなった。こんな嫌な思いして、時には親父にぶん殴られながら『ちゃんとした大人』ってものになんなきゃいけないのか?本当になんで生きてんだろ?

 3日後の夕方母が帰ってきた
 『ごめんなさい』
 そんな言葉は僕には無意味だった。もうなんでも良かった。この人帰ってきたら、とりあえず掃除もご飯もあと2年はやって貰えるその程度にしか思えなかった。学校辞める気満々だったから辞めたいとも思ったが流石に不良でも無いのに辞めて、不良しかいないような仕事につく度胸は無かった。家の事なんかどうでもいい。どうせもう修復不可能なぐらい壊れている。知ったこっちゃ無い。味方だと思ってたのにこの女の人は僕を捨てた。狂った兄と昭和の日本代表みたいな父。急に戦争体験を思い出して話する祖父と半身不随の祖母を残して逃げた。未来なんてない?あったとしても安モンのネクタイ締めてうだつも上がらず、週末はテレビで見る安い赤提灯で愚痴こぼして若者に煙たがられる自分の一番嫌いな大人になるだけ。くだらない。とりあえず現実逃避の為に部活だけ真面目にやろう。苦しい事やってると現実逃避できるし勉強よりも一生懸命を上手くやれる。勉強みたいに悶々とする事もない。後は家族に対しては無になろう。

 夏の練習試合でバスに乗って他校に移動中に3年生の先輩に言われた。
 『お前将来何になんの?』
 ぱっと出たのが
 『そーすね。美容師か料理人すかね。』
 『なんだじゃあ高校行く必要無いやん。』
 『え?そーなんすか?』
 『はぁ?なに言ってんの?俺の中学の同級生ももう専門行ってるよ。中卒で行ける専門学校両方あるやん。勉強嫌いな奴は大体そのまま行くよ』
 なんかいい事聞いた!すぐ高校辞めれる!やった!自分一人で生きられる!
 帰ってすぐ親に話した。
 かあさんは泣いて
『お願いだから高校は出て』
 知ったこっちゃ無い。あんたも僕が困ることしたじゃ無いか。棚上げかよ
 父さんは怒りで震えて
『バチン!ゴンガチャ』
 座っている所にビンタからの前蹴りのコンボ
『馬鹿も休み休み言え!ビタ一文金は出さん!頭が悪いにも程がある!望んで水商売をやりたいだと?狂ってんのか?大学行かん奴は社会の失敗者だ!』
 耳がキンキンしてる。肩も痛い。この人に話すだけ無駄だ。じゃあどうすればいいんだろう?やっぱり夢なんて持つもんじゃないのか?うんざりだ、考えんのやめよう。




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