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妄想パスタ店 ニューオオクボ



知らないということは恐ろしいことである。
私は大好きなJ-waveというラジオ局でお気に入りのDJの番組を車の運転をしながら聞いていた。
車の運転とラジオは相性が良い。
今日の仕事はきつかったな。
後ろのドライバーは焦っているな。
などの脳の情報とラジオの聞き流しはマッチする。脳の情報はラジオによって流されていくのだ。

今はDJとは言わず「ナビゲーター」というらしいが、お気に入りの男は私と同じ年頃でDJという呼び名にふさわしかった。

「この番組はニューオオクボの提供でお送りしております。パスタ好きの僕がパスタのレシピを紹介します。本当に美味しいから作ってみて」
毎週美味しそうなレシピが紹介され、本当にこんなパスタ食べたことないよ。美味しいよとDJが言う。
ちょうど仕事が終わり運転をしていると、この番組のパスタコーナーを聴くことになる。
私は運転をしながら美味しいパスタを想像していた。

おかしな事に私はニューオオクボを「大久保にあるパスタの店」と信じて疑わなかったのである。
「新大久保にあるのかな。いつか行ってみたい。食べたことのない美味しいパスタが食べられるのだ」と期待していたのだ。
ごちゃごちゃとした新大久保の街に溶け込むパスタの店。
古い店構えの「ニューオオクボ」
そこにはお洒落な人々ではなく、サラリーマンが店の外に並んで待つのだ。
長い時間並んだ後、カウンターにぬるい水が提供される。イカスミパスタにしますか?と店主に聞かれて私はうなずく。
この店の客はほとんどイカスミパスタを食べるのだ。しばらく待った後提供されたのは熱々のイカスミパスタ。
本当に今まで食べたことのない美味しさだ。
イカゲソとイカスミが新鮮なことがわかる。
玉ねぎ、ピーマン、ニンニク、ブラックペッパーが効いている。
私は夢中で店のカウンターでイカスミパスタを食べる。
隣にはもちろんサラリーマンが座ってイカスミパスタの大盛りを食べている。
みんな無言でパスタに夢中になる。

私の想像力が陳腐だと決定づけたのは友人から教えてもらった情報であった。
何とニューオオクボとは、パスタの麺のブランドのことであった。
しかも、私の地元の工場で作られていると言う。
私の地元はニッカウヰスキーの工場があったり、その周りはウィスキーを飲ませるお洒落なバーがあったり、なかなか渋い場所である。
そこにニューオオクボの工場があったのだ。

陳腐だ。
自分の想像力にガッカリしながら、ニューオオクボを検索する。
本当に今まで食べたことのないパスタ麺らしい。
乾麺なのに生麺のようなモチモチ感。スーパーで売っているパスタとは比べ物にならない美味しさとレビューにある。

買ってみたい。

そう思いながらも私は、幻の新大久保にあるパスタ店「ニューオオクボ」に思いを馳せるのであった。

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