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ちょっと長めの図書紹介⑥

──2001(平成13)年6月事件は起きた。
附属池田小で発生した無差別殺傷事件である。
事件の概要は説明不要だろう。
この事件をきっかけに、
学校安全に求められる「レベルのステージ」は
上がったと著者は考察している(p.02)

たしかに……当時の記憶をたどると、
「警察官立寄所」というような
プレートが学校に貼られたり、
「防犯ブザー」の携帯が騒がれたりした時期は
この頃からだったかもしれない。
「開かれた学校」への全面アピールも消極化し、
「閉ざされた学校」的な閉鎖的防犯体制へ
方針転換したともいえる。

それから数年後
2009(平成21)年には学校保健法が
学校保健安全法へと生まれ変わり
保健管理とともに
安全管理に関することが法整備され、
「安全な環境」と「安全の確保」の
具体が求められるようになった。
2015(平成27)年の中教審答申を契機に
コミュニティ・スクール政策が盛期を迎え、
ふたたび地域とともにある「開かれた学校」が
叫ばれるようにもなった。
2019(令和01)年には大学の教職課程で
「学校安全」領域が必須化されている。

このように学校安全のレベルは
さらなるステージアップを迎える時期に来た。
それに応答したのが本書の提言する
「学校安全のリデザイン」(p.03)だろう。

「リデザイン」とは何か──
それは「防ぎようがない」事件や事故を
天命であると終始せず、
「本当に防ぎようがないのかを検討しつつ、
 時代や社会の変化もふまえ、
 既成概念にとらわれない学校安全のあり方」に
デザインし直すことだとされている。

本書の構成は以下の通りである。
まず「学校安全の歴史」を振り返り(序章)、
その「安全管理を問い直す」(第1章)。
それに続き「学校安全の3領域」と整理した
「生活安全」(第2章)「交通安全」(第3章)
「災害安全」(第4章)の視点から
学校安全を「リデザイン」していく。
最後に「未来の安全を担うために」は、
「心をはぐくむ安全教育」による「安全行動」、
それと同時に「環境改善」のための
「難しさを取り残さない日々の安全管理」
それこそが「未来を守る鍵」である
──とまとめられている(pp155-156)。

具体的な「リデザイン」案を紹介しよう。
学校安全に専門性を──という部分である。
いま学校の話題といえば、働き方改革だろう。
仕事を増やすような「リデザイン」は難しい。
そこで本書は、
「どれほど学校現場が忙しくても、
 安全はすべての基本であることは揺るぎない」
という前提を確認したうえで、
「授業の専門家である教師が授業に専念できる」
環境を保障した学校安全の「リデザイン」を
提案している(p.17)。
そのひとつの具体として
あげているのが専門家の配置である。
学校教育法施行規則(第65条)に規定する
「学校用務員」に警察OBを雇用する案だ。
しかし、専門家だけに任せるのではなく
教職員から選出される「安全主任」と
「専任」の専門家(用務員としての警察OB)
の分担よる安全対策である(p47-49)。
学校用務員の人員を増やすという
予算に関する問題はあるが、
本省令第64条以下の職員を
新たに加える改正の必要はなさそうである。

本書はさまざまな提案を通し
「災害、事件、事故から子どもたちを守る」──
そのための「学校安全のリデザイン」論である。
自らの「学校安全」認識を
「リデザイン」するきっかけとして
教師や管理職だけではなく、
学校にかかわるすべてのひと、
子どもとかかわるすべてのひとに
薦めたい1冊である。

編集担当・若染雄太さま、
ご恵贈ありがとうございました。

#学校安全
#学校保健安全法
#学校の安全管理
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https://www.gakuji.co.jp/script/bkDtl.php?prodid=978-4-7619-2882-7

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