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ちょっと長めの図書紹介㉑

本書のキャッチコピーは、
「いじめの『わからない』を突き止める!」
一見すると
「わからない」(?)
 なにが、わからない……?
──ようにも思えてくるコピーである。

教育現場の内で働いているひとなら
その意味もなんとなく理解できると思うが、
保護者や地域住民など
外から教育現場を
みているようなひとたちには
このコピーがどのように映るだろうか。
一般的にいう「いじめ」という言葉
それが示す意味なら
だれにでも説明できるだろう。
そのため、
「わからない」とされること自体が
「わからない」──
と考えてしまうひとは少なくないと思う。

冒頭から「わからない」と書きすぎて
さらに「わからない」が蔓延し
混乱を招きそうである。
ここで著者の言葉を借り、
「わからない」の意味を説明しておこう。

本書の「そで」にある説明では──
いじめの
「最大の問題は、
 いじめの『わからない』が
 知られていない」ことであり、
「教育現場は、
 いじめの『わからない』ことに
 苦悩している」のである。

もう少し「わからない」について
本書を引用しながら説明を加えておこう。
いじめとは、
単純に〈叩く〉や〈無視する〉という
作為的なことだけではなく、
気がついたら
いじめ問題に発展していたという
無作為的なパターンもあり
「カオス」(p.005)であるとされている。
また、
いじめに対する事実認定の
困難も指摘される(pp.004-005)。
「隠れて行われる」場合
「被害者と加害者の入れ替わ」り
「スマホ」などを通じたネット空間
「被害の事実を表立って語れない」子ども
「保護者」同士による「正当性」主張舌戦など
さまざまな困難が重なり、
いじめ事実の認定も困難になっていくという。

このように
「いじめは、現場に降りるほど、
 『わからない』ことだらけ」(p.005)
──というある種の沼である。
この事実を保護者や地域住民などに
伝える手段として本書の価値は高いだろうし、
その状況を社会に知らせるため、
本書は生み出されたともいえるだろう。

ここで「わからない」を伝える
本書の構成を紹介しておこう。
■第1章
見えない、語られない事実
 ここまで紹介してきた
 「わからない」状態の説明に加え
 認知件数の整理がされている。
■第2章
主観に頼ったいじめ認知とその落とし穴
 「いじめ」定義の変遷、
 その認知件数の増加などが書かれている。
 初学者には重要なポイント、
 「いじめ」とはどんな状態なのか
 そのあたりも整理されている。
 表「『いじめ』定義の変遷」(p.039)は、
 わかりやすいので少し紹介しておこう。
 1986(昭和61)年では、
 〈弱い者いじめ〉という言葉があるように
 「自分(加害者)より弱い者」へ
 「身体的・心理的」な攻撃が
 「継続」的に存在し、
 「(被害者が)深刻な苦痛を感じている」
 「学校としてその事実を確認している」
 ことが定義であったとされている。
 その後、幾度かの変化を経て
 2013(平成25)年には、
 「一定の人間関係のある他の児童生徒」へ
 「心理的又は物理的」な攻撃
 (インターネットを通じるものを含む)が
 継続性の有無にかかわらず、
 「(被害者が)心身の苦痛を感じている」
 「起こった場所は学校の内外を問わない」
 という定義に修正されている。
 ──いじめの認知がしやすくなったのだ。
 このことを受けて、
 実際に「いじめ認知件数」も増加している。
■第3章
オンラインへの誤解と期待
 本章では、
 オンラインにフィーチャーし、
 いじめ被害者の救済と
 加害者の発見に向けて書かれている。
 一般的にオンラインいじめを語るとき、
 ネット空間は悪者にされることが多い。
 本章でも「危険なオンライン」──
 という語りはあるが、
 それに相対し
 「被害者の居場所」であるという提案や
 「オンラインへの誤解」、
 「オンラインに期待を寄せること」までも
 網羅されている。
■第4章
生徒の人間関係といじめを防止する教師の役割
 教師はどうするべきか──
 「わからない」ことが多く
 苦悩しているなかでも、
 「教師にできること」として、
 「家庭・地域社会・
 学校の架け橋」になること、
 「いじめ防止の相談体制」が語られている。
■第5章と第6章は、
編者と現場教員との対談である。
 前半は(第5章)は、
 「いじめをめぐる現場の判断の難しさ」
 「苦悩」のリアルがつづられている。
 後半は(第6章)では、
 「だれにも頼れない悲劇」
 特に小学校では、
 いじめ対応にかかわらず
 「自分のクラスは自分で」(p.127)という
 雰囲気や文化がある。
 ここでは「悲劇」のリアルが読める。

逐条解説ならぬ
逐章紹介になってしまったが、
(チクショウ!という気持ちはない(笑))。
全体を俯瞰したことで
本書の伝えたい全体が伝わることを願う。
改めてタイトルも確認しておこう。
「いじめ対応の教科書」でも
「いじめ対応の攻略本」でもない、
『いじめ対応の限界』──であり、
対応の「限界」点
という知見を示したものである。
チクショウ紹介……いや逐章紹介では
「教科書」的な印象を
与えてしまったかもしれないが、
それも「限界」点を理解するためには
必要な知識や認識の整理である。

もうひとつ願うことは、
著者がめざしている目標の実現である。
「人を攻撃することではなく、
 人を助けること」(p.115)──
いじめ問題は対立を生みやすいし、
感情論にも陥りやすく攻撃性も高まりやすい。
この図書紹介から本書にたどり着き、
だれかを助けることにつながれば幸いである。

内田良さま、
ご恵贈ありがとうございます。


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