ギターウルフと物産展と俺


ギターウルフのセイジさんは非常に誠実な人だ。

セイジさんとの出会いは著書「推される技術」にも記載したが2018年に共通の知人経由で俺の所にクラウドファンディングの案件相談をしにやってきた。

ギターウルフつったら、バンドやってて名前知らない奴はモグリだろ!と断言できる程、日本のロックンロールバンド史に名前を刻む轟音バンドである。
名曲「環七フィーバー」は漫画、アニメの名作「BLACK LAGOON」にも登場し、海外ツアーも多く行っており国内外でファンの多いバンドである。

バンドは当然知っていたものの、曲もいくつか知ってる程度でまさか本物のセイジさんがウチの事務所に来るなんて事は想定してなかったので、めちゃくちゃ焦った。ほら!だって!ねぇ!見た目!いつもグラサンだし!ちょっと怖いじゃない!(自分の事をめちゃくちゃ棚に上げて)

本物のセイジさんがやってきた!

事務所にやってきたセイジさんは、そりゃもうイメージ通りのギターウルフのセイジさんのまんまで、革ジャン革パンサングラスでバイクで浅草までやって来た。
実際にお会いして「今回は仕事だ今回は仕事だ」と冷静を保ってたが「ほ、本物だァ…」と内心めちゃくちゃドキドキしていた。
あまりのかっこよさにエア子宮が疼いた。

話を伺うとセイジさんはご自身で地元である島根県松江でフェスをやっていた。
とはいえ制作会社が特に入ってる訳でもなく手弁当で開催をしており、赤字が出た分はセイジさんがケツを自ら拭いていた状態で、前年度収支も伺ったがあまり健全と言える状況ではなかった。

当初担当をするつもりはなかったので、「もしセイジさん達がクラウドファンディングをするなら、こういう風にやった方がいいですよ」的なアドバイスをするに留めるだけと考えていた。

何時間かお話をして最後に「頑張ってください!」って言おうと思ったら、セイジさんに「バンブー君、君に担当してもらえないかな?」と頼まれた。

「はい」

即答だった。
自分でもなぜかわからなかったが、話しているうちに感じたセイジさんの実直さに惚れてしまったのだろう。

請け負ったからには責任が発生する。
どんなバンドやどんな先輩でもキュレーター(クラウドファンディングの案件担当者。水先案内人だと思いねぇ)として請け負ったからには、起案者に必ず伝えることがある。

「ギターウルフの活動など同じバンドマンとしてめちゃくちゃリスペクトしてますし、セイジさんは言うなればバンド業界の大先輩ではありますが、クラウドファンディングでは絶対俺の言う事を聞いてください。」

セイジさんは快諾してくれた。
正直ぶん殴られるの覚悟してた。
これをカマしておかないと色々大変なんス。
(ちなみに過去キュレーター担当した俺にとって神に等しいニューロティカ先輩達にも同様にカマした。というか担当アーティストほぼ全員に言うとる。)

フェス開催プロジェクトの設計

島根という関東から遠い地でフェスを行うにあたって考え方を分解してみた。
・フェスに来る人と来れない人がいる。
・チケット収入だけでは開催収支は博打になりがち。
・フェス自体は地域振興目的なのに地元にお金が落ちてないように見えた。

と自分には見えた。
そこで、

・毎年フェスが開催できるような仕組みや座組を作る。
・返礼品コースを「フェスに来れない人」「フェスに来れる人」で区分する。
・返礼品に幅と種類をつけて支援単価を上げて赤字リスクを減らす。
・「来れる人」「来れない人」向けの返礼品の金額は同レベルにする。
・地元を巻き込んで地元での認知度アップや協力体制を敷いていく為に、地域の特産品を返礼品に加える。

というアイデアを出した。(他にもあるがノウハウなんで割愛)
特に5つ目は重要で地元の人から見て「あー、なんかロックの人がなんかやってらぁ。」で終わらせないために、ちゃんと地元企業から支援やスポンサーがつくような状況を作らなければ将来的な開催やセイジさんの「島根をロックで盛り上げる」に結びつくのが難しいと考えた訳だ。
その為に必要なのは可視化された数字なのだ。

言葉を選ばず書けば「金になるなら乗っかる」って人が多いんだよね。
良くも悪くも。でも地域のそういった層を動かすパワーがなけりゃ、せっかくの悪巧みも小さな灯火で終わってしまうのだ。

最初は金額が少なくても、仮に毎年どんどん増やしていけば「ほら、こんだけ伸びてるでしょ?」と地元の企業やスポンサー候補にプレゼンする事だって可能だ。クラウドファンディングにはわかりやすい指標的にそういった側面もあるのだ。

俺のキュレーターを行う際のモットーは「クラウドファンディングもライブエンタメにする」なので、支援する人がワクワクと楽しみながら、支援できる環境を作ることにある。

そこで、セイジさんに「地元の企業を回って特産品を返礼品として出せないか、交渉してきてもらえませんか?」とお願いした。

この時点で「宍道湖のしじみが有名」ぐらいの知識しかなかった。
(セイジさんが会った当初から激推しだったから)

セイジさんは「わかったよ!」と言いながら島根に向かっていった。

ロックンロールふるさと納税!!!!

正直、数点(4~5点)あればいいかな?と考えていた。
言うてそんな名産ないだろう(島根県の人ごめんなさい)とか思ってたし。

しかしニューロティカにしろ、セイジさんにしろ、あの年代のロックバンドをやっている人達の行動力を正直舐めていた。

なんとセイジさんは地元企業を周りに回ってとんでもない数の返礼品をかき集めてきたのだ。まさに足を使った営業を自らしたのだ!

2019年のクラウドファンディングの返礼品の一部。

最初返礼品の数と種類を聞いた時に「島根物産展マルシェかな?」と思った。
どう考えてもフェス開催の返礼品に見えないレベル。
これもうロックンロールふるさと納税だな…と思った。
そして島根すごいやんけ…と考えを改めたのだ。

俺は魚ではノドグロが地球上で一番好きなのだが、島根が名産地と聞いて怯んだ。知らなかった。実際に松江に行ったらノドグロ激推しタウンだった。

Tシャツも「BLACK LAGOON」を描いた原作者の広江先生に、フェス用のイラストをお願いした。お忙しいであろう中、ご快諾を頂けて素敵なイラストを仕上げて頂いた。なのでこの時のTシャツは自分にとってもめちゃくちゃ宝物で、未だに未開封のを1着持ってるぐらい。
広江先生その節は本当にありがとうございました!

で、困ったのは我々キュレーター陣である。
大量の返礼品リストを前にCAMPFIREのUI的にこれをどうわかりやすく選択してもらうか?で、当時の部下だった奥村と頭を抱えた。
地元の方の好意で協力してくれているので品数を削る訳にはいかなかったと言うこともあり、ここが一番大変だった気がする。

結果、コースに応じて支援者に好きなものをチョイスしてもらう方式でなんとか形にした。

ジェットマムとしじみ汁。

地域振興的なクラウドファンディングのプロジェクトはこれが初めてではなく、過去に盟友佐藤ひろ美の地元である岩手県大槌町のプロジェクトを担当していた。(こちらも2023年の開催クラウドファンディングを8/27までしてます。ぜひご覧ください。→https://3riku-connect.jp/

この時に現地に行かずに主催の平舘さんと東京での打ち合わせやネット上のやり取りだけで担当をしていたのだが、翌年ぐらいにゲストでお呼ばれして実際に岩手県大槌に行った時に「実際に現地に行って色々見て考えないとダメだな…」と非常に反省した。

もっと色々なやり方があったり提案できたんじゃないかなって。
起案者が地元の素晴らしさを伝えるなら自分も実際にそこの地を体験しなきゃダメだって。キュレーターは最初の支援者でなければならないのだ。

その経験も踏まえて我々は島根県は松江市に向かう事にした。

ジェットフェスの会場は古墳の丘古曽志公園と言う住宅地のど真ん中にある広めの公園で開催される。松江からバスと電車を乗り継ぎ目的地の朝日ヶ丘駅で降りた。
無人駅で正直怯んだもののGoogle mapを見ながら「えっ?ここでフェスやんの?マジで??」と驚きを隠せないまま道路を奥村と歩いていると一軒の民家から見慣れた革ジャン革パンサングラスの人が飛び出してきた。

「あれ?セイジさん!?」

「あれ?バンブー君!ここ俺の実家なんだ!よかったら寄って行きなよ!しじみ汁をご馳走するよ!」

事前にセイジさんと落ち合って案内してもらう手筈をとっていたものの、まさかのご実家にお邪魔することに。ご実家ではジェットママ(セイジさんのお母様)がテトリスをプレイしてて、なんかもう夏休みに友達ん家に来た感覚に襲われた。
ちなみにロックスターのお母さんに会うの二人目だった。
(ロティカあっちゃんのお母さんの綾子さん。)

実は俺は正直貝類が全然ダメで、セイジさんに勧められたものの「残したら失礼だしなぁ…」と思っていたが、せっかくジェットママが俺達の為にわざわざ調理してくれたのもあり気合を入れて飲んでみた。

うんめええええええええ!!!!

濃厚な、なんちゅうか貝の嫌な味というか雑味が全くなく、旨味の詰まったスープ。お吸い物なのに。言うなれば濃いコンソメスープと同じカテゴリー。
そりゃ激推しするわ…ってぐらい美味しかった。
俺がトリコならスープカテゴリーでメニュー入りするレベルで本当に美味しかったのだ。

セイジさんが「俺はこれを昔から毎日飲んでるからお酒が強いんだよ!」と言ってて俺達はなんか納得してしまった。オルチニン大量接種極まりない。
セイジさんの主成分はビールとオルチニンだと思う。あとロックンロール。

余談ではあるが、ご実家にセイジさんの若い頃の写真が飾ってて、グラサンをかけてた。「この頃からずーっとサングラスだよ」だって。
セイジさん、サングラス取ったらとった所から血が出そうと思った。

ジェットフェス運営のロック愛

松江に出向いたのにはもう一つ理由があった。
基本はセイジさんと直接やりとりをしていたのだが、地元のフェス運営チームの方とあって顔あわせというか直接色々話をしたかったからだ。コロナ前ではあるが、当時のクラウドファンディングはまだまだ地方では胡散臭い物という認識の方が多く、それが元でトラブルになる事も多かった。
色々な事を説明して理解をしてもらうには直接出向いた方がいいなと。

ジェットフェスの運営は、地元の有志の方達で行われていた。(2018~19年当時)
飲食店の社長さんだったり、広告代理店の方だったり、Barのマスターだったり、デザイナーさんだったり、市役所の方だったり、みんなロックが好きでセイジさんやギターウルフが大好きな人達の集合体なのだ。

馴染みがなければ事前情報として東京から来るクラウドファンディングの人で、さらに俺の風体がまぁまぁ胡散臭い訳で、そりゃ怪しさしかねえわな…と考えていたので、改めて運営の方々をセイジさんにご紹介して頂いた。

運営の方々には自分もバンドをやっている事、皆さんがギターウルフを好きなように自分もニューロティカが好きな事、経営者の方もいたので数字ベースで色々とクラウドファンディングについての解説をさせてもらった。

最終的には色々とご理解を頂き、ようやくここで運営のお手伝いとして参加させてもらえたかな?と思えた。

ただ一生懸命運営チームと数字のことを話している横で、ビールを浴びるように飲んでいたセイジさんが「そんな難しい話はもうやめてバンブー君!ビールを飲もうじゃないか!」と。
「なんの為に来てると思ってんですか」と思わずセイジさんにツッコんでしまった。

ふと運営チームの方に「すいません、自分の事をセイジさんからなんて聞いてました?」と聞いたら「東京のロックの後輩ですごいのが来るとしか聞いてない」と。

実際現地に来て色々説明できて本当に良かったァァ!!!!!!
やっぱりなぁぁぁぁ!!!!!!!
プレイステーションの事を未だにポリステーションっていう先輩がいて良かったぁ!!!
50代のロックスター、だいたい人になんか説明するのざっくり説を提唱し続けてきた俺の選択に間違いはなかったのだ。
(ちなみにあっちゃんが俺のことを初めてメンバーに説明する時に「えーっと、ゲームの人!」と言ってた。間違ってないけどざっくり過ぎて笑った)

そしてプロジェクト開始。

ちょうどプロジェクトを仕込んでる最中、ギターウルフはUSAツアーの真っ最中だった。時差があるのでやり取りは大変だったが、なんとかプロジェクトを進めていた。

開始前にギリギリではあったが色々なネタを仕込みたいなぁと思い、セイジさんと「フェスの出演者と対バンで配信できませんか?」と相談してみた。
するとここでも発揮されたセイジさんの鬼の機動力&交渉力。

渋谷のクラブ借りて電気の石野卓球さんと2マンを決めて、尚且つニコ生公式の配信までを、覚えてる限りでたった1週間程度で決めてきた。
これにはビビった驚いた。色々なオーガナイザーをしてきたがこのスピードでこの対バン決めて配信まで交渉済みて。

返礼品の獲得に続き、ここでもセイジさんの機動力が遺憾無く発揮されてて、「やっぱりこの機動力と交渉力がバンドを長年継続させてきたパワーだよなぁ」と奥村とめちゃくちゃ感心してしまった。

こうして2019年のプロジェクトが開始され、ALL INだったゆえ目標金額に到達はしなかったものの、600万円という金額が集まった。

前年にREADY FORでクラウドファンディングをやられてたのだが、その金額よりも多く集まりキュレーターの面目躍如ではあった。

しかし当時の数多くのアーティストやバンドは新しい仕組みであったクラウドファンディングを使う方法を模索していたのだ。
なのでこの数字は恥ずかしい事ではない。
恥ずかしいのはそこで諦めてしまう事なんだよ。

俺が思うに、クラウドファンディングで失敗しても「なんで失敗したのか?」を真面目に考えなければ、そこで「失敗こいたプロジェクト」で終わってしまうのだ。失敗を研究して次にチャレンジして成功させれば、それは「ドラマ」になるのだ。そうやって失敗を教訓に成功に繋げたプロジェクトも数多くある事を覚えておいてほしい。

2019年のフェスには我々milktubも出演させて頂いた。
打ち上げが町民館みたいな所で、地元の婦人部の方々(含むジェットママ)が総出でご馳走を作ってくださり、出演者や関係者、運営スタッフ達をもてなしてくれた。

なんだろうな、このあったかい感じ。
なんというか言葉にしづらいんだけど、すっごい素敵な空間でした。
色々なフェスがあるとは思うし、色々な形のホスピタリティーもあると思うんだけど、ジェットフェスの打ち上げのあの感じは他所のフェスでは決して味わえない光景だったと思う。

打ち上げの最後にセイジさんに挨拶に行ったら、泥酔したセイジさんが

「バンブー君!!!!俺と君は!!!!今日から親友だぁぁぁぁ!!!!」

と絶叫されてました。
シラフだった俺は「は、はい…」としか答えられずにジェットフェス参戦を終了したのであった。いつの間にかマブウルフになっていた…。

セイジさんの誠実さ

2019年の時は収支的にはほんの少しだけ黒字が出たと後日、セイジさんから丁重なお礼と共に報告を頂いた。お手伝いが出来て本当に嬉しかった。

そこで「少し余裕ができたのであれば、支援した人に年賀状とか出した方がいいですよ」とアドバイスをした。支援者に翌年のプロジェクトも視野に入れて忘れて欲しくない為の作戦だった。

俺は当初印刷したハガキになんかサインでも書くんかなと思っていた。
俺も自分のプロジェクトではそうする事が多いので。
しかしセイジさんは違った。

600名近い支援者に住所も本文も直筆で年賀状を送っていたのだ。
実際に俺ももらったが、驚いたと同時に「なんという誠実な人なんだ。」とめちゃくちゃ感動したのだ。
俺みたいな年下の意見もきちんと真摯に受け止めて実行してくれたのだ。
そりゃ皆好きになるよ。俺も大好きだもん。応援したくなるって。

2023年のシマネジェットフェス

長々とお付き合い頂きましたが、なんでこんな事を書いたかと言うと、担当自体は2019年のプロジェクトを最後に降りまして、その後のジェットフェスのプロジェクトは当時の部下に引き継いだんですが、プロジェクト自体には毎年支援してました。

毎回イカスデザインのTシャツ狙いってのもあるんですけど、返礼品の本がこれまたすげえんだわ。
最初は同人誌みたいな手作り感万歳のジェットフェスだったり松江の美味しいトコマップだったりした本だったんですが、年々パワーアップを図ってて、「どうやってこの対談実現したんすか??」「これ売れるんじゃね??」と言うような内容まであって読み応えたっぷりの本になってます。装丁とかもパワーアップしてるし。今やこれの為に支援してると言っても過言ではないレベル。

で、今年も例によって支援しました。

あんまりよく見ないで、お目当ての4,649円コース(Tシャツと本)に上乗せして支援したんだけど、そういや他の返礼品どうなってんだろ?と思ってみたら…。

物産展っぷりがパワーアップしてて笑った。
ここまで読んだ人はぜひ実際にプロジェクトページのサイトを見てください。
これはフェス開催のクラウドファンディングだからね!?
何回も言うけどフェス開催のクラウドファンディングだからね!?

ぜひこの記事を読んだ皆さんも島根ロックンロールふるさと納税ならぬ、シマネジェットフェスへご支援をどうぞよろしくお願いします。

俺のお勧めは、Tシャツ、本とそしてしじみだ。(マジで美味い)
(あとはちみつが侮れない旨さ)
あと他のフェスのクラウドファンディングプロジェクトページと見比べると、その返礼品の異彩さが際立ってめちゃくちゃおもろいのでオススメ。

おまけ。ピエロ神あっちゃんと狼セイジさんとワイ。ある意味奇跡の組み合わせでしたよね。ロティカとギターウルフの対バンって。

長々と読んで頂きありがとうございました!
面白かったり、暇つぶしの一助になったら「❤️」をしてくれるとやる気が出ます。
よろしくお願いします!

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