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はじめてのマイルス


今回はものすごくベタなテーマです。
テーマは「はじめてのマイルス」
そうジャズの帝王マイルスデイヴィス、モダンジャズを聞き慣れない方でも名前だけは聞いた事がある方も多いと思います。

そのマイルスに関してモダンジャズ初心者の方にこんな事をよく訊かれます、「マイルスデイヴィスってどのアルバムから聴けば良いですか?」
ここで間違っても「クールの誕生」や「死刑台のエレベーター」「スケッチオブスペイン」のような玄人好みの作品を勧めてはいけません。
せっかくモダンジャズに興味を持った方がモダンジャズへの興味を失う可能性がとてつもなく高いです。
いいですかマニアが初心者の方に自分のマニアックな趣味を押し付ける事で駄目にしてしまう事って多々あるんですよ。

モダンジャズ初心者には聴きやすい心地よくスウィングする曲、そして甘く美しいバラードがバランスよく収録されたアルバムを薦めるべきだと僕は考えています。

ジャズファンの方はもうお分りの方もいらっしゃると思います、かの有名なマイルスのマラソンセッション4部作の中の一枚「Relax’in」を僕は「はじめてのマイルス」に推薦します。
まずマラソンセッションについて少し説明したいと思います。
より良い条件のレコード会社に移籍する為に所属するレコード会社との契約を終わらせたかったマイルスは、二日間でアルバム4枚分の音源25曲を全てワンテイクで録音するという世に言う「マラソンセッション」を強行したんです。
これが結果的にマイルスの第1期黄金クインテット最良の演奏を後世に伝える事になりました。
この時に録音した素晴らしい音源をバランス良く4枚にシャッフルしているのでこの4枚に甲乙をつけるのはとても難しくジャズファンの中でも意見が分かれるところです。
個人的には「卵の殻の上を歩く」と形容されたマイルスのバラードでの繊細なミュートの音色が美しい「My funny valentine」が冒頭に収録された「Cookin」を最も愛聴しています。
ただマイルス初心者モダンジャズ初心者の方には「Relax’in」をお薦めします。
その理由は、そのタイトルどおりのリラックスした雰囲気がモダンジャズに敷居の高さを感じがちな方に受け入れやすいと考えたからです。
冒頭からマイルスが例のしゃがれ声で「先に演奏してから曲名を言うぜ。I’ll play it first and tell you what it is later.」とメンバーに声をかけた後に指を鳴らしてテンポを指示します。
ただこの後に演奏されるのが「If I were bell」という有名曲な事を考えるとマイルス一流のジョークということだと思います。
とにかくクインテットが強力にスウィングします、そしてまだ発展途上にあるコルトレーンの固さが残る演奏が滑らかに極上にスウィングするマイルスやガーランドに良い意味でのアクセントをつけています。
そしてバラードで演奏される「You are my everything」ではレッドガーランドが世にも美しいシングルノートで奏でるイントロで始まります。
するとここでマイルスの口笛とダミ声が聴こえてきます。「イントロをブロックコードで演奏してくれよ」
ここで間髪入れずにブロックコードで素晴らしいイントロをつけるガーランドの卓越した技術に驚かされます。
実はレッドガーランドはイントロの名手でもあります。
このマイルス第一次黄金クインテットでも素晴らしく印象的なイントロをいくつも奏でています。
またこの曲では後に「Ballad 」という歴史的な名盤バラード集を発表するコルトレーンの若干荒削りなバラードでの演奏を聴く事ができます。
この美しいバラードの後も「I could write book 」「Oleo」「It could happen to you」と素晴らしくスウィングする心地良い演奏が続きます。
ここまで5曲全てマイルスはミュートをつけてトランペットを吹いています。
このアルバムではマイルスの魅力的なミュートのサウンドを存分に楽しむ事ができるのです。
そして最後の最後にミュートを外しオープンでトランペットを吹くところが実ににくい。
この名盤の最後を飾る曲がディジーガレスピーの「Wood’in you」
マイルスはディジーガレスピーのようにハイノートを吹けない事にコンプレックスを持っていたようですが、この曲でのマイルスはハイノートや速いパッセージを多用しなくても魅力的な演奏ができるという見本のような演奏だと思います。
またコルトレーンも含めて他のメンバーも素晴らしい内容です。
マイルスとしても会心の出来だったのでしょう、例のしゃがれ声で「OK?」とプロデューサーに尋ねます。
するとプロデューサーが「もう一回演ろうか。」と答えると短気なマイルスが「Why?」と言ってるというのに後の大物コルトレーンがおそらくビールでもキメたかったのでしょう「栓抜きどこ?」という空気を読めない声でこの素晴らしいアルバムの幕を閉じます。

この実に心地良いジャズの魅力に溢れたアルバムをきっかけにモダンジャズ、マイルスへの興味を深めていただけたら幸いです。

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