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芸歴40周年記念 立川談春独演会「らくだ」

談春の「らくだ」
談春がまくらで掲げた「人間が不当な状況に置かれて言われのない差別や弾圧を受けること(がままある)」というテーゼ(敢えてテーゼと言ってみた)は、「らくだ」にも通底していた。
「らくだ」という落語は、珍しくも死体が主人公で、長屋中の嫌われ者である極めつけの乱暴者のらくだというあだ名(名前は「馬」らしいが談春はこの名には触れず)を持つ男が、河豚の毒に当たってくたばるところから始まる。
らくだを訪ねてきた丁の目の半次(これもすごい名前だな)という兄貴分の男がらくだの死骸を見つける。そしてたまたまそこを通りかかった屑屋(名前を「久六」というが、こちらも談春は触れず)を摑まえて、弟分の通夜をやるからと長屋の月番や大家のところへ使いに行かせて通夜の準備のためにこき使うところから始まる。
この屑屋は、日頃かららくだに、碌でもないものを売りつけられ、断わろうものなら暴力を振るわれる、という冒頭の不当な状況に置かれている。屑屋のみならず、この長屋の住人は、大家であろうとも乱暴者のらくだの前ではまったくの無力である。
この「らくだ」の前半の見せ場(聞かせ場)は、兄貴分の男が屑屋に「大家のところに行って、通夜をやるからいい酒を三升と煮しめと握り飯を持ってこいと言え。いやだと言ったら、屍人のやり場に困っております、屍人を連れて行ってかんかんのうを踊らせます、と言ってこい」という場面で、実際に、大家のところに行って、らくだの死体を担いでかんかんのうを踊らせる。
この場面は、いつ聴いても、誰で聴いても荒唐無稽で実に面白い。
まさかのことに、大家は慌てて、酒と煮しめと握り飯を届けるのであるが、その届いた酒を、飲むのを嫌がる(ほんとは大の酒好き)屑屋に兄貴分が無理矢理駆けつけ三杯を飲ませて、酔っ払った屑屋と兄貴分の立場が形勢逆転するというお馴染みの展開。
だが、談春は、ここから思いがけない流れを作り出す。
まず、強面(こわもて)の兄貴分を泣き上戸として描く。屑屋に煽られてますます泣き出す。
そして、あろうことか、兄貴分はらくだの生い立ちを泣きながら話し出す。
なんと、らくだは、子供の頃からラクダ並み(馬や牛ではなく)に図体がでかいだけで、周りからいじめられて虐げられて育ってきたことで、大人になってからの乱暴者のキャラクターが出来上がってしまったことが明かされるのだ。
らくだもまた、不当な状況に置かれて差別を受けていた人間だったのである。
この談春が設定した意外な設定、そして展開、とても好きである。

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