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神田松麻呂独演会

9月10日(火)は、講談師神田松麻呂さんの独演会。
会場は、日本橋人形町の日本橋社会教育会館。この建物には別の階に、小学校や図書館も入っている。
この日、9月10日(火)は松麻呂さんの誕生日で、三十三歳になられたとのこと。
松麻呂さんは、国の重要無形文化財の各個認定保持者(いわゆる人間国宝)の神田松鯉さんの弟子で、兄弟子に神田伯山さんもいる。
開演直後に誕生日のセレモニーがあり、その後、ひとしきり、過去の誕生日の日にあった神田松鯉一門会のことを語ってから講談に入っていったのだが、本日の読み物は三演目で、一演目目の「谷風の情け相撲」に入って、わりとすぐにアクシデントが起きた。
急にマイクが入らなくなり、と同時に小さくではあるが異音が鳴り響き始めた。
何か様子が変である。
なかなかマイクが元通りにならないので、仕方なく松麻呂さんは、肉声のみで「谷風の情け相撲」を読み続ける。
日本橋社会教育会館はさほど広い会場ではないので、松麻呂さんの声質と声量、そして読みの明快さをもってすれば、肉声でも充分に聞こえるし伝わる。
すると突然、さらに大きなアクシデントが!
物凄い音量の警報とともに、「三階で火災が発生しました、落ち着いて避難してください」というアナウンスが流れ始めたのだ!
客席は意外に落ち着いていて、大きな騒ぎもなく、「仕方ないなぁ、避難するかぁ」といった雰囲気で徐々に避難を始める態勢に入っていったのだが、ほどなく、この警報及びアナウンスが誤報であることが判明してひと安心、お客さんは座っていた席に戻っていく。
しかしながら、誤報であることが判明しても、大音響の警報とアナウンスがなかなか止まらないのだ。
感覚的には五〜十分くらい?
けっこう長い。
ようやく音はおさまって、松麻呂さんは「谷風の情け相撲」を再開。
何事もなかったようにとはいかないが、しっかりと読み終える。
そして、舞台袖に一度入ることもなく、二演目目の「柳沢昇進録」より「浅妻船」を読み始める松麻呂さん。
こちらがけだし名演であった。
松麻呂さんで「浅妻船」を聴くのは二度目だが、前回よりも、物語への踏み込みが深まりさらにご自分のものにしてきている。
何より各登場人物が、主人公たちのみならず、長屋に魚を売りに来る魚屋に至るまで、実に生き生きと描かれている。
中入りが入り、誤報の火災警報の余韻もなくなって、三演目目は「芳沢あやめ」で、最近、松麻呂さんがよく高座にかけている演目である。
日本初の女形の歌舞伎役者の芳沢あやめの物語、あやめが苦労を重ねながら日本一の女形に成長していく、その紆余曲折を実に情感たっぷりと、そして巧みに読み上げていく。
坂田藤十郎の描き方も素晴らしい。
誕生日の日に開催された、この日の松麻呂さんの独演会、思いがけない突然のアクシデントに見舞われたが、結果的には、とても素敵な独演会だった。
松麻呂さんご本人にとっても、そして、この場に居合わせたどの観客にとっても、忘れられない体験として残っていくであろう。

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