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芸歴40周年記念立川談春独演会五月

5月11日(土) 芸歴40周年記念 立川談春独演会
会場が暗転して、いつもの前座の出囃子かと思いきや、「鞍馬」である。
今日は「お楽しみ」の前座噺はやらないということがわかる。
本日ネタ出しされているのは「文違い」と「大工調べ」である。
枕が長かった。三十分以上。
主に「文違い」に関わる枕である。
三代目の志ん朝が亡くなったときに、師匠談志が隣にいた談春に(談春しかいなかったそうだ)、「『文違い』や『三枚起請』を演るやつがいなくなるな…」と呟いたそうだ。
談春は、「ん?それはオレに演れってことか?」と思い、しばらくして(日が経ってだったかどうかは、枕を聞いていたこちらが忘れてしまった)から、「自分で演ればいいのに」と思ったとも。
師匠談志は、「このネタをこのように演れ」とはほとんど言わなかったそうだ。そんな中、「おしっくら」と「札所の霊験」と「九州吹き戻し」は完コピ(誰の完コピだろうか?師匠談志の完コピか?)しろと言われたという。
さらに時が経って、談春が亀有のホールで「文違い」をかけたときに、楽屋に師匠談志がいて、口演が始まるやいなや高座の袖に飛んでいったとのこと。そして、スタッフか誰かが話しかけた際に「話しかけないでくれ、(噺を)聴いてるから」とたしなめたとのこと。
談春曰く、談志は人の高座を袖で聞くことはあっても一分以上聞くことはないらしい。
しかし、その亀有では、談春の「文違い」を終わりまで聴いていて、終わったときにひと言、「ん〜、これは騙されるな」と言ったとのこと。
談春は、この談志の言葉の意味について、それ以上語らなかったが、それはおそらく、これから演るオレの高座を聴いて、お客さん各々で考えてくれ、ということなのだろう。
「文違い」の登場人物は、遊女「おすみ」、色男の「芳次郎」、間夫の半七、そして百姓やってるけど馴染みの金持ちのお大尽の四人である。
あっ、若え衆(わけえし)の喜助もいるが。
色里(廓のこと)には、「素見(ひやかし)千人、客百人、間夫(まぶ)が十人、地色(いろ)一人」という言葉がある。
この「文違い」では、地色の芳次郎が「自分は思い眼病にかかっていて金がいる」とおすみに文を出している。実は、これは真っ赤な嘘で、芳次郎はほかの女から金がいると文をもらっていておすみを騙している。おすみはおすみで、芳次郎の眼病を治すための金を工面するために、「ひっきりなしに金の無心にくるおやじと縁を切るのに金がいる」と間夫の半七を騙し、お大尽には「母親の塩梅が悪いので高価な薬代の金が要る」と言って騙す。
聴く者は、この騙しの手練手管と騙される者たちの心情をうかがっているわけで、談志の「これは騙されるな」というのは、談春の力量に感心したということなのかもしれない。

ところで、談春は、枕でもうひとつ、この「芸歴40周年記念独演会」を開催するうえでの覚悟についても喋っていた。
それは、今まで高座でかけていたネタを、今回、同じように演ってもしょうがないしなんの意味もない。
もちろん、芸を磨くという意味で同じような演り方をさらに追究していくというやり方もあるだろうが、自分はそれを取らない。
敢えてこれまでとは違う演り方をすると決めて、つらい状況にわが身を追い込むというものだ。
今回の一連の独演会では、毎回毎回、その談春の覚悟をひしひしと感じる

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