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帰り道

帰り道とは

仕事や会議のオンライン化によって失われてしまった「余白」の時間を取り戻し、個人間の交流を生み出すための時間です。帰り道の時間をともに過ごすことで、全体の場では話しにくいことや話すほどでもないことを共有でき、自分の居場所を感じることができます。会議後のほんのひと工夫で、人間らしい温かいコミュニティが育まれていきます。

帰り道のやり方

帰り道の概要

オンライン会議終了後、ホストは参加者を2~3人のブレイクアウトルームに分けます。参加者は自分のタイミングで家に帰る(切断する)ことができ、ブレイクアウトルーム間の移動も自由にできます。帰り道では会議の内容を確認したり、他愛もない話をしたりと、各自が好きなように過ごすことができます。

帰り道のルール

帰り道の説明時に画面共有しているスライド
  • 家に着いた人を無理に引き留めるのはNGです。各自のプライベートを尊重しましょう。

  • 他のグループに合流するのもOKです。自由にブレイクアウトルームを移動してください。自分のいるグループに突然他の人が入ってくることがあります。そのときは温かく迎え入れてください。

  • 自分がホストになったら適当な人にホストを渡して退出しましょう。ホストが先に家に帰る場合、残っている誰かにホストの権限を渡してから退出します。自分がホストになった場合も同じようにしてください。

帰り道がもたらした成果

ブレイクアウトルームに分かれたあと、メンバーは好きなタイミングで帰っていきます。一言別れの挨拶をしてすぐに切断しても良いのですが、時間がある人は30分程度残っていることが多いです。雑談の内容も何でも良いのですが、やはり同じ興味の元に集まっているメンバーのため、団体の活動の話を続けていることもあります。すると会議の場では出てこなかった自由な意見が生まれ、それが次回の会議で共有され、団体の活動として実現することもありました。活動の成果が得られたことも喜ばしいのですが、何より大きいのは、メンバーのエンゲージメントの向上です。発案者は成功体験を積むことで自信をつけ、周囲のメンバーは刺激を受けます。それがさらに次の活動へと繋がっていきました。

帰り道の広がり

様々な団体の活動に参加しながら、帰り道を広めていきました。団体ごとにブレイクアウトルームの人数や制限時間をカスタムしながら、自由に導入してくれています。またPMシンポジウム2022に登壇し、講演の中で帰り道の紹介をしました。123名が視聴し、以下のような感想もいただきました。
・オンライン会議が終わったらすぐに場を締めるのではなく、「帰り道」という発想がとてもよかったので、自分も実践してみたいです。
・オンライン時代のプロジェクトマネジメントのコツ、のようなことを知ることができた。「帰り道」の時間、確かに大切ですね。参考になりました。
・オンラインの打合せは終わると「ぶつっと」接続がきれることに違和感を感じていました。「帰り道」いいですね!実践してみようと思います。

帰り道が生まれた背景

私が帰り道を始めたのは、2021年1月です。新型コロナウイルス感染拡大に伴い、市民活動でもオンライン会議が普及しました。市民活動では各メンバーには金銭的な報酬が支払われません。そのため活動に参加してもらうには、職業としての仕事と比べ、モチベーションや居心地の良さが重要な要素となります。以前の対面での活動後には必ず、余白の時間が存在していました。それは荷物を片付ける時間や、帰る方向が同じ人同士なら駅まで歩く時間、電車待ちの時間、電車内でともに過ごす時間などです。そのような場では自然に雑談が発生し、仲が深まり、先に挙げたモチベーションや居心地の良さが醸成されます。オンライン会議では時間と場所の融通が利く一方、メンバー間の自発的な交流が制限され、モチベーションや居心地の良さを育みにくいという欠点があります。そこで私は、対面での活動後に生じる雑談の場を、オンラインでも再現することにしました。

帰り道の原体験

私が「余白」の時間の価値に気づいた原体験があります。私は2017年にボランティア団体を立ち上げました。それまでもボランティア活動の経験はありましたが、自分でメンバーを集めて団体を立ち上げるのは初めてです。試行錯誤しながらの運営でした。色々な人にアドバイスをもらい、助けられながらやっていました。ある日は公民館でAさんに相談に乗ってもらいました。相談が終わり、帰る時間に。私は電車で来ていたので徒歩で駅まで向います。Aさんは自転車。もし私がAさんなら、別れの挨拶をつげて自転車で直接帰っていたでしょう。しかしAさんは自転車を押しながら、駅まで一緒に歩いてくれました。私が「送ってもらっちゃってすみません」と伝えると、Aさんは「こういう時間が一番大切だから」と言っていました。その時間は本当に他愛もない時間で、他にどんなことを話したかは覚えていません。それでもAさんの行動は、私を応援してくれているという何よりも明確なメッセージであり、私はとても勇気づけられました。このときの帰り道のような時間でこそ、人と人との絆は深まります。それは下校時間など、小学生の頃から無意識のうちに過ごしていた時間です。Aさんは私にその価値を気づかせてくれました。

まとめ

目的

オンライン会議に「余白」の時間を設け、参加者同士のコミュニケーションを促進すること。

やり方

会議終了後に参加者をブレイクアウトルームに分ける。その後自由に過ごして、各自解散してもらう。

効果

参加者同士が自然と仲良くなっていく。会議中に理解できなかったことを確認し合ったり、新たなアイデアが生まれる時間にもなる。


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