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動物たちとオーウェルと

あけましておめでとうございます。

2021年元旦の朝日新聞「天声人語」は『動物農場』(原題"Animal Farm"、1945年発行のオーウェルの代表作の一つ)を引き合いに出していた。もっとも、「民衆のための政治が、だんだん一部の人間のためのものになっていく」という様子を描く作品として『動物農場』はもはやスタンダードであり、あちこちで引き合いに出されるが、今般は「最初は二人いた指導者が片方追放されて、一人になった」という点がフォーカスされていて興味深かった。

「曲がりなりにも政策論争があり、動物たちも皆議論した。政治がおかしくなるのはスノーボールが追放され、議論の場である日曜の総会が取りやめになってからだ」(朝日新聞「天声人語」、2021.1.1)

日本学術会議の任命拒否問題もまだ終わっていないが、自分に反論する人を認めないという姿勢はとても危うい。人間にとって痛みや不快感というものは、自分の体に危険が迫っていることを示すシグナルだとも聞く。痛みを感じなくなってしまえば、自分の体から血が噴き出ていてもわからなくなるからだ。

ところでオーウェルは、動物好きの人だった。そんな彼が、「言いくるめられて屠殺場へ連れて行かれる馬」の姿や、動物たちが粛清されるシーンを書いた。私自身がそうなのだが、自分が書いている(描いている)作品世界から精神的な影響を受けることがある。怯えて自白させられ、殺される動物たちを思い描いて、オーウェルの心中はいかばかりだったか。それでも『動物農場』を書いたのは、「可能な限りわかりやすく人々に伝えたい」という彼の使命感だったのだろうか。

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