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問わず語り 横山ミィ子「ドムドムの唐揚げバーガー」

少年画報社刊のコンビニコミック『思い出食堂』シリーズの「年末年始思い出食堂 三太の休日」(12月6日発売)にて、作品を掲載して頂いた。このシリーズは「食」と「思い出」を主軸にしたドラマの漫画作品を集めたもので、私自身とても楽しんでいる。どうぞよろしくお願いたてまつります。

物語はフィクションだが、三重県桑名市に実在したドムドムバーガーの店舗をモデルにしている。街の情報発信サイト「Otonamie」でも、福田ミキさんが丁寧に取材、レポートなさっているが、本当にほんとうに、地元民に愛されたお店だった。私も高校生の頃から利用して20年以上、ずっと変わらないお店だった。文字通り、何曜日のどの時間帯に行っても、同じ店長が対応してくれていたのだ。それゆえに、「ビルの建て替えのためにお店を閉める」と聞いた時には、寂しくもホッとしたものだ。「あの店長のおじちゃんが体調を悪くされてお店を閉める」という最後が、最も私にとって怖かったからである。

ドムドムバーガー桑名店が営業を終了したのが、2020年6月末。時を同じくして、想田和弘監督作品映画『精神0ゼロ』を観た。精神科医である山本医師が、多くの患者さんに「お願いだから辞めないで」と引き止められながらも、認知症が進行している配偶者のために仕事を辞める決断をしたという、ドキュメンタリー作品である。またそれから程なくして、恩師との突然のお別れがあった。ジョージ・オーウェル研究の第一人者であり、生き字引であり、高齢ながらもアクティヴで、多くの学者や学生から慕われ頼られていた恩師の、思いがけない訃報であった。

抜きん出た人が誰からも信頼される仕事を続けていると、つい我々はその人に頼りがちになってしまう。そしてもっと続けてほしいと口にすらしてしまう。誰のために?自分のために。しかし相手は生身の人間だ。誰かを尊敬しその仕事を敬愛すればこそ、我々がやるべきことは、相手に続けさせることではなく、相手から学び、実践し、後継者を育てることではないか。

自分の好きなもの、楽しめることを見つけて、これから大きく羽ばたいてほしい少女には七海ななみちゃんとつけた。もちろんSeven Seas、冒険する七つの海である。名字の長谷川は、これもドムドムバーガーと同じ駅ビル(※)にあって、よくお世話になっていた酒屋さん「長谷川本店」から頂いた。残念ながら図書館司書のお姉さんの名前をどうしても作品中に出せなかったが、松原園江まつばらそのえさん。松原も私がお世話になった、駅ビルにあったクリニックの院長のお名前。知的で聡明(という設定の)お姉さんのお名前は、明治大学の重田おもだ園江先生から勝手に頂いている。そのお名前しか考えられなかった。

なお、芦原すなお先生の『青春デンデケデケデケ』を選んだのは、私にとって「無人島に持って行くならこの一冊」と思えるほど好きだからで他に特に理由はない。むしろ、大人が突然好きなものを聞かれて、咄嗟に答えるならば、心底大好きな作品を挙げないと説得力がないと思った(「デン・・・?」と書きたかったというのもある)。直木賞受賞となった版もあるが、削り落とす前の『青春デンデケデケデケ 私家版』の方が圧倒的に面白い。なお、この「ドムドムバーガー」の掲載誌発売1ヶ月前に、『デンデケアンコール』と『私家版』のリニューアル版が発売となったことにはびっくりしている。買いに行かなければ。

誰に聞かれもしないのに、わざわざ作品の背景とか思いを語ってしまったことを恥ずかしくもあるが、語らないからと言って褒められるわけでもなし、であればむしろ「伝わらなかったんですけど」とお叱りの一つも頂きたいのである。

※三重県の桑名駅(近鉄、JR、ローカル線のターミナル駅)に隣接するビルで「桑栄そうえいメイト」というビル。餃子の名店「新味覚」、インドカレーの「エベレスト」、お惣菜の「ずいほう志ぐれ茶屋」など、本当にお世話になった。

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