内緒の、ね

子供は幸せであるべきだ。
少なくとも日本で生まれたのなら、肉親に暖かく見守られながら、健やかに育つべきなんだ。
それが叶わなかった私達が、子たちが集められたのがこの拝掌教の孤児院。
悲しい境遇の被害にあった子どもたち。
この子達はどのように成長して、底から這い上がっていくのだろうか。
この不格好で不器用な家族ごっこの渦の中で、少しでも幸せに過ごせてくれてるだろうか。
大人として、あいつ等とは違うという証明をできているだろうか。
私が今、大人としてこの子たちにしてあげれること。
『撫子!』
それは
『もー!またぼーっとしてるからチョコ固まってるじゃん!』
このチョコレートを湯煎で溶かすこと。
『もうすずがやるから撫子はこっちやって!』
すずに板チョコの入ったボールとゴムベラをとりあげられ、片隅に追いやられる。
「お菓子作りってこんな難しいのか、、、」
『撫子が手伝いたいって言ったんだからね!』
「お、おう、、、わりぃ、すずせんせ、よろしくお願いしゃす」
-翌日-
子どもたちは朝の礼拝のあとの夢來を取り囲んだ。
『ねぇ!教祖様!はい、ハッピーバレンタイン!』
子どもたちから小さな包を手渡される。
「わー、みんなありがとう。とても嬉しい」
夢來は子どもたちの目線に合わせ屈み、ひとりひとりから受け取る。
『これは私が作ったんだよ!』『このハートのは私が作ったよ!』『これボクの!』などと小さな紙器に固められたチョコレートをひとつひとつ紹介する子どもたち。
「すごいね。だいじにいただくね」
そんなやり取りをしていると、真菰が現れる。
「お、なんだなんだ賑やかだな」
それを聞いた子どもの一人が真菰の手を引く。
『真菰にも、ハッピーバレンタイン!どーぞ』
「お、手作りか。じゃあ遠慮なく」
そう言ってオレンジの包に手を取ると、
『だめ!』
思いのほか大きな声が出てしまった事にすず自身が驚き、慌てふためく。
『あ、ちが、真菰にはこっち。それは教祖様にあげなきゃいけないやつ、、、』
すずは緑色の包を真菰に押し付け、オレンジの包を受け取る。
「お?そうか、サンキュ」
すずはそっと夢來の手にそのオレンジの包を押し当てる。
夢來は微笑み、「すずちゃんが作ったの?」と問いかける。
『すずも、、、作った』
孤児院長の公喜が子どもたちに声を掛ける。
「さ、鬼灯さんのところにいきますよー」
子どもたちはまたわらわらと移動をはじめた。
「微笑ましいもんだな、撫子もいたら子供達喜んだろうに」
真菰は子どもたちの背中を見送りながら包を懐にしまう。
「撫子ちゃんは?朝から見てない」
「さぁ?いつものお出かけじゃねーか?夜から帰ってねーよ」
夢來は寂しそうに微笑み、子供たちから渡された包を大事そうに抱えて自室に戻った。

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