中学時代の思い出

私は中学時代に美術部と、文芸部を兼部していた。

文芸部は全員合わせても10人に満たない小さなコミュニティだったが、活動自体は皆でしっかりテーマと制限時間を設けて物語を書くという、真面目な内容であった。

文芸部に入ったのは仲の良い友達に誘われたことがきっかけで、私は本気で小説家になりたかったわけではない。

それでも毎週の活動ではテーマに沿ってひたすら想像できる出来事をひねり出して繋げていく。
私にとって、絵を描く時とは別の蛇口を捻っているような貴重なアウトプットの時間だった。

顧問を担当していたのは国語の教師だった。

ある日その教師の授業で「走れメロス」を読み終えたあと、この物語の番外編を書こうという課題が突然出された。

一人一人に作文用紙が配られる中、クラスメイト達の億劫そうな顔を見て、普通の人は物語を考える機会などないのだと改めて感じたのである。

数週間経ってから皆が書き終えたあと、班に分かれてその中で発表しようという事になった。

当時私の班には
クラスで一目置かれる頭の良い子がいた。

普段からあまり主張せず落ち着いた雰囲気で、私はこの優等生に自分が書いた作文を発表することが不安だった。こんなもの読めないなどと思われないだろうか。
記憶が正しければ、私は「走れメロス」のスピンオフとしてセリヌンティウスと王の視点を描いた物語を作っていた。作文を班の中で回し読みした後に班のメンバーがそれぞれ感想文を付箋に書いて、配り合った。

そのとき彼から貰った「淡々としていて良かった」という感想がよくわからず、その日は「淡々」という言葉の意味を家でこっそり調べたのであった。

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