丸山担によるパラダイス本気考察と感想(1万字超)


【目次】
①ごあいさつ
②パラダイス観劇の感想
③みこしの解釈
④丸梶さんの感想
⑤丸山さんへのメッセージ


⚠️まだ観劇していない方⚠️
読まない方がいいです!!ネタバレしかないので!!


①ごあいさつ


どうも、こんにちワンツー、みこしです。
お久しぶりです。
はじめましての方、はじめまして。

ヘドウィグに引き続き今回も感想を書こうというのは決めていたんですが……まとまらなさすぎて今回の文字数は14,575字です。まさかのヘドウィグ超え。書きながら「そもそもまとめられるような作品じゃないな…(気づくの遅)」となってました🤣

私はズブズブの丸山担でございます。
そのため感想などは完全に「丸山隆平のファン」から見たものです。パラダイスの感想や考察が気になる方は②や③のみ見ていただけるのがいいのではないかと思います。といってもほぼ超個人的解釈(妄想ともいう)で構成されているので、あくまでいち個人の意見としてお読みいただけたらと思います…!!
※文中に書いたセリフは書き起こしではありません。覚えているセリフも少し変えてあります。

もしパラダイスの丸山さんが気になっているeighterさんがおられたら④へどうぞ!(ただし一部内容がかなり気持ち悪いのでお気をつけて!丸山さん読みませんように…!🙏)

今回も寝不足になるほどの熱量で仕上げました。本当に書きたいことが多すぎて、正直まだ書き足りないんです。
全体的にたいそう荒ぶってはおりますが、いちファンの戯れ言だと思ってご了承ください。

共感したり驚いたり、読んだ感想などありましたらみこしのTwitter(@kimiwo_katsugu)に教えていただけますと嬉しいです!!

それではどうぞよろしくお願いいたします!!🙇


②パラダイス観劇の感想


一言でいうと、衝撃でした。
自分の日常にパラダイスの世界が干渉してきてそのまま、帰り道も寝るときも次の日出勤しても頭のなかではずっとパラダイスをさまよっていました。当然ながら仕事は手につきません。

今回自分は赤堀さんの作品をはじめて観たのですが、とてもおもしろかったです。時間をかけて腹を鋭いナイフで引き裂かれていくような展開。ただ内容がおもしろいだけでなく、観劇後もパラダイスのことを考えずにはいられません。ひとつひとつのシーンを思い出すたびに「あのセリフはこう思って言ったんだろうな」「あの行動にはこんな意図があったのかな」と自分なりに咀嚼して楽しむことができる舞台でした。丸山さんのファンでなければこの作品と出会っていないと思うとすごくもったいないです。観られて本当によかった。

赤堀さんご自身はこの作品を「喜劇」として作られたそうですね。初見のとき、ブラックジョークに耐性がない自分はそんな風には受け取れなかったんです。怖すぎて。しかし2回目観に行ったとき面白いことに気づきました。観客はみんな、最もピリピリしているクライマックスのシーンで一番笑うんです。状況的には一番怖いはずなのに。これか、と思いました。私たちは笑ってるんじゃなくて、赤堀さんに笑かされているんだ。これはやっぱり喜劇だったんだなと。やっと合点がいったというか、妙に腑に落ちました。

それと観劇してるとき思ったのは、この演目に丸山さんを起用して頂いたことの興味深さです。以前から丸山さんが赤堀さんのファンでありご縁ももちろんあるでしょうが、それでこの、この演目の主演をしてくださいってなりますかね?丸山さんが赤堀作品のファンだからか、アイドルだからか、どちらも関係ないのか私たちには知る由もありません。ただ狙って起用したんだとしたら、とんでもない人だなと思います。アイドルの出る舞台だからと自分の作風を変えることも全くなく、生々しいほどありのままで。パラダイスの梶という役に丸山さんを選んでくださったことに、赤堀さんの信念と俳優としての丸山さんへの大きな期待を感じます。まずそれがとても嬉しかったです。本当にありがとうございます。

さて、やっと内容の感想に入っていくのですが……正直まだぜんぜんまとまってません。全体的な感想を言うと、怖かったです。とにかく精神への打撃がすごい。後半から全身の穴という穴から汗が吹き出てきて震えが止まらず、双眼鏡を覗いてもまともに見られないほどでした。何が怖いって、設定がオリンピック前の日本ってところなんですよ。

話は変わるんですが、すごく好きな映画があって。劇中で主人公の女の子が言うんです。「世界にはずっと見えない弾丸が飛び交っていて、それが見えている人は弾丸に当たって死んでも驚かない」。パラダイスを見て真っ先に浮かんだのはこのセリフでした。銃口を向けられても、もう逃げることも恐れることもない梶。きっと梶にはこの弾丸が見えていたんでしょう。一方で、弾丸が見えない人もいます。明日事件に巻き込まれたり、事故に遭ったりするなんて考えてもいない人たちです。私もそうです。

観劇した方はわかると思いますが、なんだか釈然としないまま終わりますよね。わかることは、ある者は自暴自棄になり、ある者は現実から目を反らして日常を生きていること。パラダイスで描かれる梶たちの日常は決してありふれたものではありませんが、彼らの生きている世界にはありふれた私たちも存在しているんです。平凡に毎日を生きるもう一人の自分がパラダイスの世界には生きていて、ただ生きているだけで突然事件に巻き込まれたり、戦争が起こって亡くなったり。そういうことは実は「突然」ではない。自暴自棄に毎日を生き、現実から目を逸らし、平淡な日常を繰り返した先にあるんですよ。それがすごく怖かった。

梶のように詐欺に関わっているわけでもないし、うしろめたいことなんて何もないはずなのに、梶に向けられている銃口が、自分にも突き付けられていると思いました。あの銃口は突拍子もないように感じられますが、すべては日々の積み重ねで、私たちが知らないうちに犯している罪の代償で、誰かの復讐のかたちなんです。そう考えると銃口が梶だけではなく自分にも向けられているような気がして、とにかく怖くて怖くてたまらなかった。

悪くて格好いい推しを観に来た舞台でこんな思いをするとは。でもその加減のない生々しさと恐怖、淡々と進んでいく物語の対比が最高でした。いい意味で裏切られた。まさに自分もパラダイスという作品の一部になったような気がしました。


③みこしの解釈


内容を自分なりに落とし込むため、ざっくりとした解釈と、「梶と○○」と梶を中心に人物に沿った解釈を残しました。
※全体の解釈はこの章の最後「◆結局どういう話?」に書いています。

こちら完全なる自己満足なので「ふ~ん」くらいの感じで読んでいただけたらと思います…!ちなみに3割くらいは妄想です!←


◆梶

・矛盾した人間性
物語は、詐欺グループの集まりに遅刻してきた男を梶が暴行するシーンから始まります。泣きながら謝る男をあれこれ理由をつけて殴るわけですが、たかが遅刻にここまでする時点で梶という男の潔癖さがわかるわけです。そもそも詐欺をしようと集めたのは梶で、なんならそのリーダーなわけですよ。もっと重い犯罪をおかしているのにも関わらず遅刻くらいの不誠実がどうしても許せない。しかも女の子のスカートに男の血がついたのを見て「クリーニング代出すよ」とか謎の優しさ出すんですよね。
一方で彼、家族にはすごく優しいんです。声だけ聞くとすごく素朴で人殴ってきたとは思えないほど柔らかい。でも彼はたしかに裏社会の人間で、数多くの人をドン底に突き落としてきた犯罪者なわけです。とんでもない矛盾をはらんだ人間性、興味深いです。

・罪を背負って生きている
梶が身体障がいのある服役者の話をしますよね。生まれたときから罪を背負って生きているような気がする、自分はその感覚がわかる、と。クライマックスではこうも話します。「実家が異様な臭いがすると思っていたら、それが自分も含めた人間の臭いであることに大人になって気づいた」と。言う通り梶は人間が元から無理なんでしょう。しかし当然ながら梶自身も人間なわけです。つまり自分も他人も漠然と苦手で、生まれたときから世界から拒絶されているような意識があった。だから罪(ハンデ)を背負って生きているという言葉に共感したのかもしれないし、この世界や、いわゆる普通(梶から見ると恵まれた生まれ)の人間たちに復讐したいと思うのも理解できます。

・諦めた共感と襲い来る罪悪感
梶の行動はとても自分勝手です。世話になった辺見を裏切る。長年家族を放ったらかしにしていたくせに突然大事にしだす。重すぎる真鍋の愛には素っ気ない。梶に足りないものを挙げるとするならば「共感する力」です。そのようになってしまった原因はきっと、例の「臭い」にあるのでしょう。

梶の家族はとても人情味溢れた家族です。その会話からわかる通り、共感は家族だけでなく人と仲を深めるのに欠かせない力です。でも例の「臭い」に気づいているのは浩一だけで、家族の誰もそれに共感してくれなかった。浩一は幼い頃、諦めてしまったのかもしれません。誰かに共感することも、自分に共感してもらうことも。自分の気持ちしかわからないから「たくさんのお年寄りを不幸にしている」という事実はわかっても、「不幸」がどのようなものなのか想像できなかったから罪悪感もなかった。しかも単に共感力が欠けているならもっとわかりやすく不器用なんでしょうが、彼はうまく自分を偽れる人間でした。だから話す人によって梶の人柄は声も態度も何もかも変わる。これほど詐欺に向いている人間はいないわけです。

けれど梶は最近になって共感することを思い出しました。「罪を背負って生きてきた」という感覚です。一度取り戻した共感力は増大し、もう死んでいる猫のことを楽しそうに話す家族のぬくもりや、老い先短い父親なりの優しさにも気づいてしまいました。彼は共感を諦めてしまっただけで、共感力が元からないわけではなかったのでしょう。家族という何の罪もない人々が自分のせいで追い詰められていくのを見て、やっと本当の罪悪感を知った。自分のやってきたことの重大さに気づいてしまったのです。背負いきれない罪の意識に辺見への不信感や怒りがない交ぜになって、もう何もかも終わりにしたくなった。これが梶の胸の内だったのではと思います。


◆梶と辺見

まずふたりの辿ってきた道を振り返ると、

(梶仕事をやめて今の道へ)→辺見の家に住み込みの付き人になる→セックスレスの辺見の愛人の相手も引き受ける→辺見が心を動かされ、愛人と3人で行った回らない寿司屋で梶号泣する→梶が一人前の詐欺師になる→梶が一人立ちしようとする→辺見がそれを阻止しようとする

という流れになります。いまの梶から考えると寿司食べて号泣するなんて想像できませんが、それだけの苦労を共にしてきたのでしょう。にも関わらず辺見が「自分はまわりの人間のこと信用してない」とか言ってしまうんですね。これを言われたとき、梶がみるみるうちに真顔になって「は?」って顔をするんです。この一言がさらに裏切りへと加速させたのは間違いないと思います。

でも、よく考えると二人ともお互い様なんですよ。梶は辺見を裏切り偉い人の息子(若林)をボコボコにしますし、辺見も梶の家族が大事にしていた猫を殺しパートナーの真鍋を半殺しにするわけです。一方で梶の反逆は辺見へ高い理想像を求めた結果ですし、辺見も梶の粗相を何度も尻拭いしてくれるんですよね。梶が辺見を尊敬するように、臆病な辺見もありのままの自分を出せる存在(=梶)を自分のもとに置いておきたかったのかもしれません。

ちなみに辺見は梶に対する独占欲が半端なく強いと思われます。ボウリングのマイボウルを真鍋が触ろうとしたとき怒鳴るセリフがあるんですが、あれまるで梶のことを言っているみたいじゃないですか?あと真鍋の指見て吐いた8000円の焼き肉代には激怒するのに、梶を助けるための2000万円のYOKU MOKUは(自分のもとに戻ってきてくれるなら)許すんですよ。個人的にはそのシーンで彼が言うセリフにすごく哀愁があって好きです。なんだかんだ本気で仲間だと思ってたし引き戻したい気持ちがあったんでしょうね。お前は絶対俺を裏切れないだろって試すみたいに、刃物を持った梶を目の前にうろちょろするんです。歪んだ信頼関係。互いに求めた結果やること成すこと気に入らなくなり破滅していく様は、ある意味めんどくさいカップルみたいなおもしろさを感じました。


◆梶と青木

実はこの人物がいちばんのくせ者だと思ってます。誰よりも賢く今を生きていて、どこか達観している印象を受けます。劇中、短気な辺見が声を荒らげる場面が多いですが、彼は辺見の地雷をよく見極め踏まないように行動しています。また「(真鍋に梶をとられるから)辺見さんが嫉妬するのも仕方ない」とか、人間の内面を察しているのがあなどれないですね。

誰でも無意識に「自分はこいつよりマシ」って見下してる人いるじゃないですか。青木はたぶんいろんな人からその「こいつ」として扱われてきたんだろうと思います。彼にとってはどの人間も空から見下ろしてくるカラスと同じ。どの人間も等しく嫌い。
でも青木はそれを表に出すことはしませんでした。その方がラクだからか、理由はわかりません。ただあの場を銃によって掌握し、最終的に勝利したのは青木です。自分たちの明確な終わり(放火)がわかったからこそ、もう誰かの下で自分の身を守る必要はなくなった。ならば全員殺して最後くらいカラスたちから自由になりたい。そう考えたのかもしれません。とても強かで、ある意味「ザ・ヤクザ」みたいな純粋な男だと思います。

梶にとって本質的に最も近い人間は青木だったのではないでしょうか。梶も人間が無理なので。梶と青木が話すシーンは少ないですが、なんとなく辺見が見ている青木と梶が見ている青木は違う気がします。梶は青木がいつでも自分に銃をぶっぱなせる人間だということを心得ていて、だから自分が青木に銃を向けられたって驚くこともなかったのではないかと思うんです。
でもふたりが唯一違うのは、冷静な判断ができるかどうかです。梶は辺見に追い詰められて包丁握ってカチこんじゃうようなタイプですが、青木は冷静に場を把握し自分の思うように操作する上手さがあります。梶に人間味があると感じるのもそういうところに原因があるのでしょう。

青木に関することでわからないのが、カラスと犬の話です。正直まだあれを深く理解できていないのです。カラスは組織の上の連中、犬は自分たち、な気もするし。単にカラスが嫌いという理由のひとつな気もするし。ただすごく印象的だったのが、青木と梶がとても楽しそうにその話をすることです。お互いの間に銃と刃物なんてないみたいに。最後照明がフェードアウトしていくときにふたりの表情をオペラグラスで見ると、ふたりともとっても楽しそうに笑ってました。怖い。


◆梶と真鍋

このふたりはたぶん、かなり親しい関係です。同僚以上恋人未満……みたいな。辺見が梶の裏切りを問い詰めるシーンで、真鍋のことを「こいつ(梶)のパートナー」と呼ぶんです。また梶が電話をするシーン。親しげに「泊まらないよ。自分の枕じゃないとよく眠れないから」とか可愛い会話をするわけですが、「この仕事から足洗え」って言ってるのでたぶん相手は真鍋なんですよ。なんやこれ違う物語始まってしまうぞ。

という冗談はさておき、なぜふたりがここまで深い信頼関係を築けたかというと、梶が真鍋に自分を重ねていたからだと思います。真鍋が最期に「日本人嫌いだったから愉快でした」というのも「人間嫌い」な梶に似ていますよね。でも真鍋には自分のようになってほしくないから、「こんな先輩がほしい、こんな愛され方をしてみたい」という引き出しを精一杯開けて梶は真鍋と向き合っていたのだろうと思います。そんな梶の無意識で純粋な欲望を受け止めたのが、真鍋なりの愛であり忠誠心だったのでしょう。だから彼は梶を救うために指を詰めるんですよね。左手の小指、赤い糸の指でチャンスを掴む指とも言われています。梶を守るために自ら犠牲となった真鍋の行動が、さらに梶を追い詰めていくという……悲しい。

ただ、です。ここで面白いのが、梶は真鍋に対して意外に素っ気ないという点なんです。普通愛する人が自分のために指切ったなんて知ったら泣き崩れてすがりつく、ぐらいことはしてもいいと思うんですが、梶はなんと「ごめん」「こんなことに巻き込んで」で済ませます。いやいやいや、とツッコミたくなるぐらいあっさりしてますね。きっと例の鈍い共感力に起因しているんだろうと思います。でもそんな梶を見て真鍋は「自分で決めたことだから」と伝えます。彼は気づいていたんでしょうね、梶の足りない部分に。わかっていて指を切ったんですよ。どんだけ惚れ込んでんだって話です。

パラダイスは登場人物のほとんどが刹那的な幸せを求めていると思うんですが、梶と真鍋の関係には未来が感じられます。梶の「おまえは足を洗え」には離れても(自分と縁を切っても)生きていてほしいという気持ちがありますし、真鍋の「いい思いさせてもらった」は一見ふたりの関係の終わりを感じさせますが、真鍋は暴走する梶をずっと冷静に止めていましたよね?自分の指を失ってまで辺見に梶を許してほしいという願いには「どんな関係でもいいから一緒に生きていたい」という切実な愛情を感じます。指を詰めるなんて相当な覚悟がないとできませんから、ふたりは嘘偽りない真実の信頼関係を築いていたのだろうと思うんです。そんな無鉄砲な愛には気づけずとも、梶にとって真鍋はありのままの自分を受け入れてくれた唯一の存在だったと思うので、真鍋の存在が辺見を殺すトリガーになってしまうのも頷けます。


◆梶と道子

なぜ道子が梶の「復讐」に共鳴したのか。それは道子に、男性たちに性的に消費された過去があるからではないでしょうか。道子が復讐という言葉を聞いて頭に浮かんだのは、働いていた風俗店の客(男たち)だったのではと思います。誰に復讐したいか聞かれたときにぼやかして答えるのも頷けます。そんな事情は簡単には言えないですから。また自分を助けようとしたり笑ったりする男たちをしりめに頑張っているのも、「自分を見下してきた奴等を見返したい」という強い覚悟を感じます。そうしてやっと掴みとった成果に梶は労いの言葉を投げるんですね。道子にとって梶は唯一の救いの手を差し伸べてくれる存在だったのでしょう。また梶にとっても道子は希望の光、詐欺を教えて成果を上げてくれた自分の子どもみたいな存在になったのではと思います。

そんな道子は終盤、とんでもない場面で梶と再会します。しかし彼女は「何も見てない」と梶を守るような発言をします。梶は彼女に対してしきりに「はやくどこかに行ってくれ」「お前には関係ない」と繰り返しますが、それでも道子はその場を去ろうとはしません。お互い大切な存在だから、お互いをなんとかして守ろうとしていたのかもしれません。梶が道子に名前を聞くのも、道子を自分の人生のどうでもいい人間(モブ)ではなく、嬉しかった体験、光の登場人物として思い出にしておきたかったのかもしれません。なんというか、母親と娘みたいな関係性を感じますね、このふたりには。


◆梶と若林

梶にとって若林は天敵、おそらく最も忌々しい人種です。生まれ持ったステータスに全く感謝せず努力も苦労も満足もしない。少なくとも「罪を背負って生きてきた」なんて感覚を微塵も感じたことの無さそうな人間。梶が嫌いなのはもちろん、たぶん辺見も若林が嫌いです。梶が若林を暴行するとき辺見は黙って見ているだけで止めに入ろうとはしません。しかも後のシーンで若林をバカ息子と表現します。ここらへんの感覚が似ているのはさすが長年二人三脚でやってきた師弟ですね。だからこそ辺見は梶の粗相を何とかして助けたし、梶が若林を殴ったのを見て内心清々してたんだろうと思います。後半の展開を考えると若林が受けた苦痛なんて大したことなくて、むしろ殴られたくらいで済んだのがラッキーですよね。

ちなみに序盤で若林が遅刻してきた男に言う「出し子」というのは詐欺用語で、ATMなどに騙したお金を取りに行く役割のことを指すそうです。一番捕まるリスクが高いので、こんなやつ捕まっても問題ないっすよ、みたいな意味だと思います。若林もなかなか複雑な生まれなので、飄々としているように見えていろいろ辛いこともあるんだろうなと思います。誠実に生きて幸せになれよ……。


◆浩一と家族

家族が出てくる最初のシーンで、久々に帰ってきたはずの浩一に家族はなんの声もかけません。冷たいな~なんで?と思って見ていたら、家族は梶を無視するわけでもなく普通に会話もするんです。浩一は家族の会話に相槌をうちながらも、ずっと中途半端な位置で突っ立ったまま動きません。曖昧な笑みを浮かべているだけ。少なくとも遅刻しただけで人を殴るような人間には(以下略)。
浩一は早いタイミングで家を出たはずなので物理的に家族として過ごした時間が少ないのもあるんでしょうが、あの佇まいを見ていると家族のなかに浩一の席、居場所はもうないんでしょう。

家族における彼の立場をよく表しているのが、お姉さんの浩一に対する態度です。彼が自分の息子について聞いたりしても彼女はなにも答えず、ただお店のコロッケについて「客観的な意見を聞かせて」と言います。「客観的」ですよ。客観的意見をもらうには、内部の事情を知らず上っ面だけを知ってる人間が一番相応しいわけです。またお姉さんは浩一が部屋にいても誰もいないと捉えます。このように家族なのは間違いない、ただ頭数に入れられていないんですよね。頼れるときだけ頼る補欠、みたいな。

浩一と家族がなぜそのような不思議な関係になるのか考えていたとき、ふと思いました。なぜ浩一が肉屋を継がずに、お姉さんが切り盛りしているのだろうと。もしかすると浩一はテキトーな理由を作って断ったか、実家に仕送りしているのではないかと。浩一は金、姉は店の実務、と分担がされているなら、家族は怒ることはないと思うのです。もしそうだとしたら…高齢者を騙した金で自分の家族を養う……つくづく業の深い男です。あくまでも仮説ですが。

ちなみに浩一の実家は船橋市で、彼は今渋谷区に住んでいると劇中で話してます。もし彼が本当のことを話しているなら、渋谷区から船橋市までは車(高速)で40分。いくら負い目があるとはいえ、今までなんの音沙汰もなかった人間が電話1本で40分かけて家族のために猫をさがしに来るのだと思ったら、少々滑稽ですね。

そして考察で避けては通れないのが最後の家族のシーン。話の筋的にはクライマックスのシーンで終わらせても問題ないはずなのに、あえて家族のシーンを挟む。そしてそこには何の変哲もない家族の風景があるわけです。浩一は命懸けで家族を守ったのに、誰も浩一のことなど気にも留めない。思い浮かべることもない。ただ老夫婦とシングルマザーと中学生の家族がそこにある。現状は何も変わらず、まさに辺見の言うパラダイスがいつも通り続いていくだけです。私はここから明確なメッセージを受けとることはできなかったんですが、小川母の「謝って」は重い一言だと感じましたね。謝るって、相手の気持ちに共感して素直にならないとできないでしょう?浩一が最も苦手なことだったんじゃないかと思うんです。やっぱり小川家は浩一が最も嫌悪し、同時に最も焦がれていた「ただただ人間らしい」楽園だったんですね。


◆結局どういう話?

ざっくり言うと「あなたはどう生きるのか」という問題提起をしているのではないかと思うのです。こう聞くと「え?」って感じると思いますが、実際は今日や明日の、もっと狭くて近い問題です。

パラダイスのストーリーがぶっ飛んでるのに妙にリアルなのは、オリンピック、放火事件、戦争、銃撃事件など、ところどころ実際に起こった要素が挟み込まれているからなんですよね。観客は常に現実を意識させられることで自分が生きている「今」と重ね合わせて考えざるを得なくなるわけです。

ところで、彼らの一部始終を見ていると絶望する場面が結構あることに気づきます。
辺見にとっては梶に刺されたとき。真鍋にとっては梶から電話があったとき。梶にとっては真鍋が酷い仕打ちを受けて何もかもどうでもよくなったとき。本当に終わるときって心の準備なんてできないから、「ああ終わるかもな」って感じだと思うんです。本当に重要なのは終わりを予感したあとにどういう選択をするかで。辺見はさんざん見下してきた青木に助けを請い、真鍋は梶を救うために指を詰め、梶は辺見を刺す。三者三様、非常に興味深い。

絶望はこれだけではありません。梶の家族もそうです。
梶の家族構成は父、母、姉とその息子です。劇中お姉さんは家族全員の面倒を見ています。働きぶりを見ていて苦しくなるほど。この家庭の将来を考えると、お姉さんが壊れる未来しか見えない。おそらくまだ息子が大きくならないうちに両親の介護がくるので、家事・育児・介護、さらに肉屋の運営。辛すぎます。今回は梶の働きによって家族に直接の被害が与えられることはありませんでしたが、どのみちこの家は壊れてたんじゃないかと考えてしまうわけです。そして最も気づくべきことは、小川家のような家庭が現実世界にたくさんあるということです。フィクションだけれど、フィクションではない。ここにも現実をうまく織り込ませる赤堀演出の妙があるのではないかと思います。

何が言いたいかというと「私たちの生きている世界も終わりに向かっているのではないか?そんな世界であなたは何をするのか?」という問いなのではないかと。刹那の楽しみを求めた登場人物たちは、まるで階段を落ちていくように結末を迎えた。そうでない者たちも緩やかな終わりに向かっている。こんな世界に生きているあなたたちはこれからどうしますか?起承転結の決まっている物語と違って現実世界はわかりやすい答えなんて用意してくれないから。日々の積み重ねや選択が巡りめぐって自分たちに返ってくるぞ、という問題提起なのではないかと考えました。

決してわかりやすい作品ではなかったので、正直自分のなかでもいまだに結論は出てないんです。なんというか、一言で表せない作品でした。単純に見れば「詐欺グループの破滅への道」と「そのリーダーの家庭の話」なんです。でもその裏側には根深い物語があって……すべてを網羅してまとめることなどできませんでした。ただ観劇していて強く感じた「リアリティ」と「すべてが終わりに向かっていく予感」のなかに、この作品の本質があるのではと思ったのです。なんにせよ複雑でわかりにくくて、考察と妄想がとっっっっっても楽しかったです。


④丸梶さんの感想

・真面目な感想

まずは真面目なほうの感想を。
丸山さんが梶を演じるにあたって「普通の人を演じているつもり」と先日の取材会で言ってましたね。梶を見ているとどことなく人間らしくない雰囲気がある反面、極悪人ではなくただ少し道を誤っただけの人、というような印象も受けるんです。それは世間(例えば私)の抱いている詐欺師のイメージと、丸山さんのフィルターを通した梶が違うからだと思います。

丸山さんが梶をあえてフラットに演じたことで、単なる詐欺師と梶の間には説明できない矛盾が生じます。「梶(みたいな一見普通の人間)が詐欺をして生きる理由がわからない」という矛盾です。観客はそれに違和感を持ちながらも梶に感情移入しようとするんですが……ここで同時に梶と観客の間にも距離が生まれます。「詐欺をする理由がわからない→梶の気持ちがわからない→梶は普通の人間ではない?」という心の距離です。仮に梶が詐欺に手を染めた答えがあるとしたらそれは「人間の臭いが無理だから」という「???」な理由でしょう。わからない。でもそのわからなさが興味深いというか。人ひとりの心情や言動を、ぜんぶ説明できるわけがないんですよね。

矛盾だらけで説明がつかない男にあえてフラットな演技をぶつける。これによって梶はより掴みどころのない男に仕上がりました。謎が謎を生むとはこのこと。でもわからないからこそ知りたくなってしまうのが人間の性です。もしかしたら梶は本当にどこにでもいる普通の人間で、たまたま詐欺の道に流れていってしまっただけかもしれない。いや、もしかしたらとんでもない悪人で人の心を利用してここまで登り詰めたのかもしれない。どの方向から見ても説明できてしまいそうなんです。まるで何面にも削られた鉱石みたいに、見る人によって人物像が変わる。それこそが梶という人間の真の魅力なのかなと思いました。

きっと丸山さんの中では「梶が詐欺をして生きざるを得なかった理由」がたしかに存在していて、梶の価値観に沿って演技をしてらっしゃるのでしょう。でもそれは赤堀さんの考えている理由と全く同じではないかもしれない。理由を見つけようとしても一筋縄ではいかないのが面白いし、丸山さんも梶という人間の掴めなさを楽しみながら演じているのだろうと思います。そんな試行錯誤の過程でさえも、作品の奥深さや味に繋がっていると感じました。本当に面白かった。

それといつも柔和で暴力から最も遠い位置にいそうな丸山さんが、登場から大暴れするというインパクト!目の当たりにした瞬間「赤堀さん…!」って内心叫びましたもん。演技するジャニーズアイドルを見にきたファンからすると、え…?てなるわけですよ。そして丸山担もまさか序盤からこんなことすると思ってないじゃないですか。二重の意味で驚いて、やられた!って感じでした。
ジャニーズアイドルと丸山さんのキャラクターをこれでもかと逆手にとった赤堀演出の数々……とてつもなく上手くて感動しちゃいました(偉そうにすみません)。もうほんと赤堀作品に生きる丸山さん見られたこと、ファン冥利につきる。


・狂ったオタクの感想

お次は狂った丸山担(私)の感想です。引くとか気持ち悪いとかいう感想は受け付けません。とにかくヤバいオタクが理性なく書いているので、嫌な予感がする方は読まないでください。私言いましたよ!言いましたからね!!!!!




あの……夢ですか?????
丸山担の皆さんお待ちかねの闇丸がここにある。こんな、、一生分の闇丸を浴びていいのか?完全に致死量なんだが???ムリムリムリムリ無理すぎる。

特に刺さったシーンを抜粋します。かなり自分の癖(ヘキ)が色濃く出てる選抜です。悪しからず。

・一番最初のシーン・遅刻してきた男に対して半笑いで言うセリフ
・詐欺を止めようとする真鍋に対して「ああ"!?(強め)」
・詐欺を成功させた道子への労う言葉
・家族と真鍋への話し方
・喫煙
・喫煙
・刃物所持

丸山担の方、いやそうじゃなくても思ったでしょう。おいおいおい最初から何してくれてんねん、て。だって、、暴行シーンから始まるんですよ?あの、優しい彼が、人を殴るシーンから?!(語弊)

正直ね、丸山さんがインライで「う~ん闇堕ちじゃないよ?」って言ってたので、そうなんだと思ってこっちはハードル下げてたわけです。何の心の準備もしてないところに初っぱなからこれですよ。これは夢か?梶が闇堕ちじゃなければ何が闇堕ちなんだ…?丸山さんのなかにはもっと深い闇堕ちの概念があるというのか?????

よく丸山担が「マルちゃんに闇深い役が来てほしい!」って熱弁してると思うんですが、誰も本当に来るなんて考えてなかったわけです。来てしまった…巡り会ってしまった。これが闇の丸山さん。ヤバイです。オタク垂涎ものです。以下、語彙の死んだオタクの感想。

・ピタッとしたテロテロシャツに細いネックレスと高級そうな時計して尖った靴履いてる~~~ありがとうございます!!!ザ・裏社会!!!そうやって男を足蹴にして高齢者から金巻き上げて成り上がってきたわけですね~~不謹慎極まりないがたまらん。

・遅刻した男への言葉なんてこれ、、ご褒美ですか?丸山さんはたぶん相当キレないと言わない、言わないから最高。半笑いなのがさらにポイント高いですね。私も言われたい、なんなら京都弁でお願いしたい。

・家族と真鍋に対する話し方が優しい…!標準語だから「~じゃない?」とか言うのかわいい。真鍋には心許してる感じがもうかっっっわいい。「泣いてんの??」の丸梶さんはもう電話越しにプロポーズして相手が泣いちゃったときのやつじゃん。

・刃物を持つ丸山さん、完全にオタクが求めてた闇丸。今回この極めて特殊な素材が提供されたことで、オタクはいつでもサイコパス役丸山さんや連続殺人鬼役丸山さんを脳内再生できるようになりました。貴重な素材提供、心から感謝いたします。

・何はなくとも喫煙ですよ。梶浩一、IQOS派です。ギャップで死ぬわ。あの、もう、彼がなんて言うんですかあれ車止め?に腰かけて長い脚組んでIQOS吸ってるとかなんですかそれ??夢ですか??(5億回目)あの優しくてかわいいお口でタバコ咥えて煙吐き出して……そんなもんR18でしょ。違法ですよ。もう無理ですだれか助けてください。とりあえず私の脳にあの丸山さんを録画したチップを入れてください(ダメです)

喫煙シーン、周りのオタクたちが一斉にオペラグラスを手にしてて笑いました。あのときの謎の一体感。そうだよな、わかるぞ、見たいよな、喫煙する推し。あれだけわかりやすいと丸山さんも内心気づいてそうですね。この人生に最高の時間を提供してくださってありがとうございます。
本気で円盤がほしい……あの丸山さんを人々の記憶のなかにだけ留めておくの勿体無すぎる。後世に受け継がれるべきものだから円盤つくりましょ……無理ですよね……ありがとうございます……心のフォルダに保存しました……。

あと、もう東京公演しかないタイミングで言うことじゃないんですが、行くか迷っているeighterがいらっしゃったら絶対行った方がいいです。あまり見られない丸山さんにご興味ないですか?丸山担は問答無用で行って!!
おそらくこれほどわかりやすくアウトローな丸山さんは一生見られない。IQOS喫煙もたぶん一生見られない。貴重すぎてそれだけでも価値があるし作品もすごく面白いので、ぜひ足を運んでください!後悔しないように!!


⑤丸山さんへのメッセージ

万が一丸山さんがご覧になっていたときのため、前回同様書いておこうと思います。

丸山さん。この1年で8BEAT→ヘドウィグ→18祭スタジアム→パラダイスと大忙しでしたね。ヘドウィグのときも感じましたが、これほど多忙ななかでパラダイスの梶浩一という難しい役に挑戦されたこと、ファンから見てもとてもハードだったのだろうと感じます。演技にゴールはないとはいえ自分でゴールを設定するのも難しい内容・役柄だったと思います。
その一方で大好きな赤堀氏の作品への参加や、少しダークな役というあまり体験したことのない役柄に丸山さんが心を躍らせているのも日記などから感じられました。個人的にはパラダイスを観劇したことでその難しさと楽しさを同じように体感できた気がして嬉しかったです。パラダイスを観て得た、普通に過ごしていれば訪れなかったような感情や体験は、きっと一生ものになると思います。この感想・考察の長さが物語るように、本当に面白かったです。

冬には18祭ドームツアーがありますね。舞台後はすぐにツアーの準備……さらにハードな出来事が待ち構えていますがファンが願うことはただひとつです。丸山さんが健康に、できるだけ楽しく人生を満喫されることです。

どうか無理せず、パラダイスも18祭も最後まで駆け抜けられることを祈っております。
刮目せよ!!(言いたかっただけ)

みこしより🍣


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