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スーツケースの暗証番号

娘が絵を描く事にハマったのは、去年の10月頃からだった。私がzoomで参加した講座で『イケメンを描くと成績が良くなる』という話をしていたのを聞いて、早速描いてみた娘は、どうやら相当楽しくなってしまったようだ。色々な画材で描いてみたいというので、色鉛筆やコピックやアルコールマーカーや水彩などを買ってあげた。転校生だった娘は、既にグループが出来上がった学校へ行くのが嫌だったようだが、教室で絵を描いていると、クラスの子が見に来て話しかけてくれるので、話す友達が増えて嬉しくなってきたようだ。(成績は少しだけ良くなったよ)

他に使う事もないからと、お小遣いをせっせと貯めており、画材を買いに行く事も楽しみにしているようだが、色の種類が沢山あるので合計金額も高くなってくる。

そこで不要になったものをとりあえずフリマサイトで売ってみて、その売上を画材のお金にしてみようという事になった。私や娘の本棚にある本をフリマサイトで売ってみて、売れ残ってしまったものを古本屋さんへ売りに行く事にした。すると両手で持つには重すぎるぐらいの量になってしまった。車で売りに行きたいけれど、父が毎日母を連れて公園を少しだけ歩く為に出かけてしまう。途中まで乗せて行ってもらうにしても、いつもと違うコースを走ったせいで父を動揺させてしまったら悪いなと思い、バスで駅まで行き、駅から古本屋まで15分程度歩く事にした。

これはスーツケースに入れて行こう!

旦那のスーツケースに娘と私で売りに行く本を丁寧に詰めこんだ。娘が学校に行っている間に売りに行けば、土日に画材を買いに行ける。スーツケースの周りのファスナーを鍵で閉める穴にファスナーの持ち手を差し込もうとするも、3桁のロックがかかっていて入らないのだ。忘れてた。このスーツケースでよくフィリピンに1週間ぐらい出張に行っていた。3桁のロックはかかってしまったまま、鍵もどこに入れていたか分からないし、このスーツケースで旦那がまた出張に行く事なんて2度と無いのだから、鍵なんて開け閉めする必要はないのだ。

ふと、娘がカチカチと3桁の数字を回してロックを解除しようとしているのをみて、そうだ!娘の誕生日の数字の変形なんじゃないか?とひらめき、

「〇〇(娘)の誕生日かもよ?おとうちん、出張に行く時、〇〇(娘)をギューって抱きしめてパワーチャージしてたもんね!」と言うと、娘は自分の誕生日の数字の順番を入れ替えたりしていくつか試した後、ニヤリと笑った。カチッと音がしてロックが解除された。

「やっぱりー!〇〇(娘)の誕生日だったね!」と私が言うと、

違うよ!お母さんの誕生日じゃん!ほら!

見ると、私の誕生日の数字を並び替えたものだった。

「おとうちんが出張する時に考えてたのは、お母さんの事だったんじゃん!」

今はあの世で知らない人と仲良くしていようとも(笑)、過去の辛い時に私と会う事を励みにしていてくれたかもしれないと思うと、嬉しい気持ちになる。誰かの生きる希望になれていたという事が嬉しかった。

そして、私には今、旦那にそっくりで思いやりのある優しい娘が居てくれて心から有難いなぁと朝から泣いてしまった。

きっとみんな知らないうちに誰かの生きる希望になっているんだろう。それが過去形だとしても、それを思うと有難いし、嬉しい事だと気づいた話。

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