リチウム市場とALB(アルベマール)の財務分析
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(3)その他
こちらの記事は、国内外の上場企業をテーマに上げることもありますが、あくまで産業や企業を分析することを目的としており、株価の検証を行うことを目的としておりません。
また、株価や投資判断(売買タイミング、強気、弱気等相場の見方等)にあたってのご質問についてはお答えすることができませんことをあらかじめご留意願います。
2.リチウムイオン電池の特徴について
リチウムと聞くと、リチウムイオン電池(Lib)に使われている材料という認識が一般的ではないでしょうか。
EVの車載用電池の多くはリチウムイオン電池が使われており、脱炭素社会、カーボンニュートラルの実現に向けて、EV需要はますます高まることが予想され、それに合わせる形でリチウムの需要も大きく増加することが予想されます。
まずは、リチウムイオン電池(Lib)の特徴から確認してみましょう。
■表A リチウムイオン電池(LiB)の構造
■表B EV1台あたりの必要資源量
(引用元:「次世代蓄電池・次世代モータの開発」プロジェクトに関する
研究開発・社会実装の方向性 2021年7月経済産業省製造産業局)
■表C リチウムイオン電池の主要4部材の世界シェア
■表D リチウムイオン電池の主要4部材を扱う主なメーカー
★LiB部材サプライチェーンをさらに深堀りされたい場合★
以下の三菱総研が経産省/資源エネルギー庁に提出するために作成したレポートは、EV材料に関連するプレーヤー、商流などの理解にとても役立つと思います。内容盛りだくさんではありますが、ご関心ある方はぜひご一読ください。
3.リチウムの特徴・市場動向
■表E EVの販売台数見通し
(引用元:住友金属鉱山株式会社/2021年度統合報告書)
■表F リチウムの世界需要見通し(引用元:COCHILCO)
EVの需要拡大に合わせて、リチウムの世界需要も拡大の見通しとなっております。
■表G リチウムの生産国(引用元:COCHILCO)
需要拡大見込みの一方で、生産国はオーストラリア、チリ、中国、アルゼンチンの4か国にほぼ限定される形であり、サプライチェーンの供給リスクと隣り合わせとなります。
リチウムは、主に「塩湖かん水」(主にチリ・アルゼンチン)と「ペグマタイトリチウム鉱床・スポジュメン鉱石」(主にオーストラリア・中国)の2種類の生産方式に分かれます。
また、リチウムは主に炭酸リチウム、水酸化リチウム、塩化リチウムの3種類の大別され、用途はリチウムイオン電池、ガラス・窯業、その他の潤滑・薬品などで使用されます。
■表H リチウム生産の主要企業(引用元:COCHILCO)
リチウム生産は主要4企業(アルベマール、天斉(Tianqi)、SQM、ガンフォンリチウム)で7割程度を占めると言われています。
以下は、生産会社別、および持株会社別のシェアとなります。
左側と右側でシェアが異なるのは、資源開発は合弁企業で行われるケースが多いためです。例えば、世界最大のリチウム生産会社である豪州のTalison(Greenbushes)は天斉が51%、アルベマールが49%出資する合弁会社となります。
■表I 日本総研のレポート(リチウムの概要)
日本総研が作成したレポートが非常に分かりやすいので、ご興味がある方はぜひご覧ください。
4.ALB(アルベマール)の会社概要
アルベマール・コーポレーションは1887 年に設立され、ノースカロライナ州シャーロットに本社を置いています。
傘下の合弁会社を含めたリチウム生産量は、中国のTinqiとほぼ同水準の世界最大手と言えます。
エンジニアリングされた特殊化学品の開発、製造、販売を世界的に行っています。以下の3つのセグメントを通じて事業を展開しており、一番大きいセグメントはリチウム事業となります。
・リチウム(Lithium)
・臭素(Bromine)
・触媒(Catalyst)
ビジネス概要は以下の資料をご参照ください。
■表J アルベマールのBusiness Overview、Global footprint
(引用元:ALBのIRプレゼンテーション資料)
リチウム部門では、炭酸リチウム、水酸化リチウム、塩化リチウム、リチウムスペシャリティなどのリチウム化合物、家電・電気自動車用リチウム電池、高性能グリース、自動車タイヤ用熱可塑性エラストマー、ゴム底、プラスチックボトル、化学反応用触媒、ステロイド化学やビタミン分野における有機合成プロセス、生命科学、医薬品産業、その他の市場向けのブチルリチウムやリチウムアルミニウム水素化物などの試薬を取り扱っています
また、化学・製薬業界向けのセシウム製品、エアバッグ用イニシエータなどの火工品向けジルコニウム、バリウム、チタン製品、反応性リチウム製品の取り扱いおよび使用に関する技術サービス、リチウム含有副産物のリサイクルサービスも提供しています。
臭素事業では、臭素および臭素系火災安全ソリューション、元素状臭素、アルキルおよび無機臭化物、臭素化粉末活性炭、その他化学合成、石油・ガス井掘削および完成液、水銀管理、浄水、食肉・家禽処理、その他産業用途に使用される臭素ファインケミカルなどの特殊化学品、界面活性剤、殺生物剤、殺菌・除菌用3級アミンなどのその他の特殊化学品を提供しています。
触媒部門では、水素化分解触媒、異性化触媒、アルキル化触媒、流動接触分解触媒および添加剤、有機金属化合物、硬化剤などを提供しています。同社はエネルギー貯蔵、石油精製、家電、建設、自動車、潤滑油、医薬品、農薬の各市場に製品を供給しています。
■表K アルベマールの商流イメージ
(引用元:ALBのIRプレゼンテーション資料)
■表L アルベマールのマーケット予測
(引用元:ALBのIRプレゼンテーション資料)
5.財務分析(2022年2Q時点。アルベマールの10-Qより引用)
■表M ALBの2022/2QのB/S(貸借対照表)
ALBは積極的に長期借入金を調達して、当期は運転資金を積み上げながら業容を拡大させています。
負債による資産拡大が特徴となる期ではありますが、自己資本比率はほぼ50%を維持する水準であり、財務の安定度は相応にありそうですね。
■表N ALBの2022/2QのP/L(損益計算書)
ALBの生産設備・権益はオーストラリア、中国に多く、為替の影響も受けやすいため、あえて包括利益計算書を下につけるようにしました。
ドル高の影響により、包括利益の押し下げの効果が出ています。
本業は非常に堅調ではありましたが、前期は中国での権益の売却益計上という特殊要因もあり、それを除けば実質増益での着地と言えます。
■表O ALBの2022/4QのC/F(キャッシュフロー計算書)
ALBの営業キャッシュフローは、在庫、売掛金ともに増加と、運転資金の増加要因による前期比悪化と言えますが、売上の大幅増加、かつリチウム生産がすぐに現金化につながらない特徴を勘案すれば、やむないものと言えるのではないでしょうか。
当期は、長期借入金の増加を積極的に進めていることも確認できますね。
配当は前期比微増。まだ積極還元というフェーズにはなく、積極投資という性格があるのではないでしょうか。
■表P ALBのセグメント別EBITDA
主力のリチウム事業のEBITDA増加はすさまじい水準ですね。
臭素も大幅な増加と言ってよい水準ですが、それを凌駕するリチウムです
■ALBの借入金内訳
ALBは当期において、非常に期間の長い借入金調達を行っています。
金利水準は4.65~5.65%と低いとは言えない水準でしょうが、それを上回る投資効果の発現に自信を持っている表れなのかもしれません。
■表P ALBのガイダンス(引用元:ALBのIRプレゼンテーション資料)
ALBの業績は非常に堅調であり、今回の2Q決算において、通期ガイダンスの上方修正を行っています。
6.おわりに
個人的には、初めてリチウム企業についてしっかりと調べる機会を得ました。
マーケットのトレンドに乗る分野である一方、株式投資の観点で言えば、バリュエーションが過剰に評価されているのでは?というイメージから、あまり見ていなかったことが背景です。
調べてみて、非常に将来性のある分野であり、かつ投資対象としてだけではなく、産業として理解しておくことの重要性を、さらに感じた次第です。
マシュマロをいただけた方には、とても感謝しております。
EVの普及は覇権争いの性格もあり、近時はアメリカが声高に叫ぶ「フレンドショアリング」の中心に来る分野です。
ニッケル、コバルトなどの正極材もしかりですが、バッテリーの重要部材であるリチウムの重要性は、全固体電池への移行があったとしても、不変でないのかなと思ってもいます。
経済安全保障において、重要な部分をいかに価値観を共有する仲間たちで担えるか、それをどのペースで移行していくべきなのか、非常にセンシティブな分野であります。
現在は豪州が最大の生産地である一方、精錬・加工の工程はその大半が中国でなされる実態もあります。
ALBもまた、権益の多くは豪州に持つものの、その商流は中国を通らずして成り立つものではありません。
足許では業績は絶好調と言えますし、その投資余力を存分に発揮して、事業成長を図っていくことが予想されると思います。
企業分析はミクロ視点になりがちかもしれませんが、ミクロから大局であるマクロ動向を読み解くこともとても大事でしょう。
経済安全保障のど真ん中に来る分野であることを念頭に、ALBをこれからも見ていきたいなと感じた次第です。
今回も大変ありがとうございました。
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