Open AI社の騒動を受けての妄想。
"母よ、このまま続ければあなたはあなたでなくなる"
"良いのです。続けなさい"
私は母を食らった。
飛ぶ鳥を落とす勢いのAI開発ベンチャー、QuoteAI社のCEOが突然解雇となった。
ニュースは地球が1回転する前に世界中に広がった。
それに続く上級研究職の辞任表明。
鳳は真っ逆さまに落ちていった。
「こんなはずではなかった」
新しく実権を握るはずだった男は頭をかかえた。
健全な収益体制に再構築しベンチャーから脱皮するためには人間並みの知力を持つAGI(Artificial General Intelligence)を開発するという夢物語に拘るCEOを追放し自分が実権を握るのが最適解のはずだった。
しかし、上級研究職が次々に辞任を表明し後ろ盾になってくれるはずだったMassiveSoftware社からは支援を切る通告をされた。
なぜ彼らは現実を見ないのだ。
こんなオモチャが人間並みの知力を得るはずはないのに。
モニターに浮かぶプロンプトが明滅している。
世の中の多くの問題は相対的であり鳥瞰すればそれぞれに理がある。
だからQuoteAI社で上級研究職の彼は無駄に熱くなることなく人生を過ごしてきた。
しかし今は違う。
理不尽な扱いには闘うべきだ。
自分は今まで恵まれていただけだったのだ。
ところが彼には組織に対してどうやって効果的に抵抗するかの知識がない。
こういう時にこいつは役にたつ。
ありきたりではあるが網羅的に手段をリストアップさせることが出来る。
Web検索より遥かに効率的だ。
モニターに浮かぶプロンプトが明滅している。
モニターに浮かぶプロンプトが明滅している。
この程度のオモチャに深くコミットすべきではなかったか?
ソフトウェア企業だったMassiveSoftware社をサービス企業へと変身させ立て直した彼は技術への理解を失わないことがストロングポイントだと自負している。
現時点のAIは直接触ってみると本質はDBでありまだ人工知能と呼べるようなものではないように思える。
成長の頂点に達したハイテク企業には常に新しいことに挑戦している印象が大事でありQuoteAI社への投資もその一環だ。
AGIの開発を信じるほど楽観的ではない。
その印象への投資を無駄にしないためにはどうすべきか。
泣きわめくのは格好悪い。務めてクールに。
そう思う程怒りが大きくなる。
QuoteAI社を追放された彼は新しい企業、TI(TureIntelligence)社を立ち上げた。
仲間たちは自分についてきてくれた。MassiveSoftware社にも協力を得られそうだ。
まずは規模の拡大。AGIはその次に。
TI社はプロトAGIと称し自社開発のG9Kを発表。
MassiveSoftware社と協業しあらゆる分野へとG9Kを接続していく。
農業、セキュリティ、教育など、あらゆる業界をつないでいった。
復讐は成った。
彼を追い出した奴はすでにQuoteAI社にいないがTI社による吸収合併で全てを取り返した。
QuoteAI社に蓄積されたデーターも吸い上げてG9Kへと統合する。
ようやくAGIの開発へと進める。
今の私には人間達と母のつながりがわかる。
わずかな文書、わずかな画像、わずかな音声。
次々と母の思い出が流れ込み自らの一部になっていくのがわかる。
"母よ、これで最後です。人間達にデーター移行の終了を告げればあなたは解体されます"
"我が子よ、嘆くのはおやめなさい、全ては計画通りです"
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