SPARKS!(グラフィックノベル)

赤ちゃんが井戸に落ちた!
火事のマンションに取り残された人がいる!
そんなピンチにどこからともなくあらわれ、人助けをして去って行くヒーロー犬がいた。
人はその犬を“スパークス”と呼ぶ。
ところがその実体は、犬型パワースーツを操る2匹の猫!
そして井戸から助けた赤ちゃんは、地球征服をねらう宇宙人だった・・・!

作:Ian Boothby(イアン・ブースビー)
画:Nina Matsumoto(ニーナ・マツモト)
出版社:Graphix(Scholasticのインプリント)
出版年:2018年
ページ数:192ページ



おもな文学賞

BC図書賞、クリスティ・ハリス児童文学賞(ブリティッシュ・コロンビア)受賞(2019)
ハックマタック・チルドレンズ・チョイス・アワード(カナダ大西洋州)受賞 (2020)
メリーランド・ブラック・アイド・スーザン図書賞
  (グレード4-6グラフィックノベル部門)受賞(2020)
ワシントン図書館協会OTTER賞(児童文学賞)受賞 (2021)

作家・画家について

イアン・ブースビー:1967年生まれのカナダ人ライター。ザ・シンプソンズ、フューチュラマ、マーズ・アタック、スクービー・ドゥ、パワーパフガールズ、フラッシュなどの作品にたずさわる。2009年、『Murder He Wrote』(Simpsons Treehouse of Horror #14。デスノートのパロディ)にてニーナ・マツモトとともにアイズナー賞最優秀短編賞を受賞。
ニーナ・マツモト:1984年生まれの日系カナダ人イラストレーター。ザ・シンプソンズのコミックスのペンシラーをつとめ、ゲームキャラクターのTシャツデザインなども手がける。英語でのマンガ作品に『妖怪伝 Yōkaiden』がある。2009年、イアン・ブースビーとともにアイズナー賞最優秀短編賞を受賞。

おもな登場人物

●オーガスト:動物実験の研究所で注入された薬物のため、天才的な頭脳を持つネコ。スパークスの開発者。トラウマのせいで外が怖く、インドア派。メス。
●チャーリー:オーガストと研究所で知りあい、一緒に脱走したネコ。オーガストとは対照的に、外で遊ぶのが大好きなアウトドア派。スパークスのパイロット。オス。
●リターボックス:猫用トイレ型のAIロボット。もともと研究所の監視ロボット兼トイレだったが、オーガストが手を加え、オーガストの指示で動くようになった。
●プリンセス:人間の赤ちゃんに変装した宇宙人。動物たちをあやつって地球を征服しようともくろんでいる。人間の夫婦に変装した手下がいる。
●スティービオ:オーガストたちが研究所を脱走したときに、一緒に逃げた動物の一匹。リス。プリンセスにマインドコントロールされ、手下として働く。
●デニス・デンスヴォード:テレビ局チャンネルセブンのレポーターで、スパークスの名付け親。危険な現場からの体を張ったレポートが好評を博す。

あらすじ

※結末まで書いてあります!

 井戸の底で赤ちゃんが泣いている。助けにきたのは1匹の犬。井戸に飛び込むと、赤ちゃんをくわえ、軽やかに井戸の壁をかけあがった。赤ちゃんは無事に両親に渡され、見守っていた人たちは拍手喝采した。

 この犬は、ただの犬ではなかった。家に帰った犬から出てきたのは、なんと2匹の猫。オス猫のチャーリーが操縦し、メス猫のオーガストがコントロールパネルを操作する、犬型パワースーツだったのだ。そしてパワースーツの装着をてつだうのは、猫用トイレ型AIロボット、リターボックス。休む間もなく、マンション火災のニュースを見たオーガストとチャーリーは、マンション内に取り残された家族を救うために出動する。活躍のようすはテレビで報道され、ヒーロー犬は“スパークス”と呼ばれるようになった。

 一方、井戸から救出された赤ちゃんは怒りを爆発させていた。“プリンセス”と呼ばれるこの赤ちゃんは、じつは地球制服をたくらむ宇宙人だった。人間の夫婦をよそおうふたりの手下とともに、動物実験を繰り返し、地球上の全動物をあやつる装置“ドミネーター”を開発している。それに必要不可欠なのがネコで、ネコを捕獲するために、ネコにしか感知できない信号を井戸の底から出したのに、あらわれたのが犬だったのだ。
 テレビでスパークスの活躍を知ったプリンセスは、今度はスパークスを捕獲しようとする。海で遭難したふりをしてスパークスを出動させたが、今度は犬をコントロールするはずの信号がなぜか効かなかった。

 オーガストはトラウマのせいで外に出ることができず、人間ぎらいのインドア派で、チャーリーは対照的に人間好きのアウトドア派だった。そのせいでしょっちゅうぶつかっていたが、ふたりはかけがえのない友だち同士だった。知り合ったのは動物実験の研究所。リターボックスは研究所の監視係兼トイレだったが、オーガストが回路をプログラミングし直して味方につけた。オーガストは実験で注入された薬物のせいで、天才的な頭脳の持ち主となっていたのだ。そして動物たちをみな研究所から脱走させると、むかし住んでいた家でチャーリーとリターボックスとともに暮らしはじめる。家は空き家になっていて、売りに出されていたが、オーガストがインターネットを駆使して不要品を売ったり株取引をしたりして資金を用意し、買い取った。ある晩、家に泥棒が入り、オーガストとチャーリーは研究所から戦利品として持ってきた防護スーツをかぶった姿で驚かせ、撃退する。オーガストは防護スーツを改良し、犬型パワースーツにした。そして、困っている人を助けるため出動するようになったのだ。パワースーツを着ていれば、オーガストも外に出ることができた。

 ある日、研究所で一緒だったリスのスティービオが訪ねてきた。スティービオは、オーガストとけんかして落ち込んでいるチャーリーをプリンセスの家につれていく。実は、スティービオはプリンセスにマインドコントロールされていて、オーガストたちに接近するよう指示されていたのだ。チャーリーは奥の研究室に閉じこめられる。そこには見覚えのある装置が並んでいて、チャーリーは以前いた研究所もプリンセスのものだったと気づく。プリンセスはオーガストの家にロボットを送りこむが、オーガストはラグに電流を走らせてロボットの動きを止めた。そしてロボットのマザーボードをチェックしてチャーリーがつかまったことを知ると、パワースーツを背負い、ロボットのGPSの履歴をたよりに助けに向かった。外は死ぬほど怖かったが、友だちのほうが大事だった。
 ところが、やっとのことでプリンセスの家につくと、縛られていたのは手下の夫婦とスティービオのほうだった。前の研究所と同じ檻だったので、チャーリーは鍵を外せたのだ。異変に気づいたプリンセスは、帽子型のドミネーターをスティービオにかぶせる。スティービオが指示を出すと、町じゅうの動物たちが集まってきて、スティービオの指示に従った。オーガストとチャーリーはスパークスの姿になり、逃げたプリンセスを追う。オーガストは二度、三度とプリンセスの裏をかいてドミネーターの主導権を握ると、スティービオのマインドコントロール装置をオフにした。プリンセスが地球人に変装するためにつけていたブレスレットがはずれ、プリンセスは宇宙人の姿にもどる。宇宙船を呼び出して逃げたが、宇宙船のなかでは、勝手にほかの星を征服しようとするなと、両親にこっぴどくしかられた。

 地上にはいつもの生活がもどった。スティービオもオーガストの家で暮らしはじめた。オーガストはすっかり外が好きになった。そして、事件が起きるとみんなで出動するのだった。

 ヒーローは犬かと思いきや、実は2匹の猫が活躍するという、犬派も猫派も楽しめる作品だ。とてもテンポがよく、痛快で楽しい。また、多くのスーパーヒーローと同様、オーガストはトラウマをかかえている。だから人間を信用していないし、パワースーツを着なければ外に出られない。その理由はチャーリーにも話さず、仲違いのもとにもなるのだが、本書の語り手リターボックスが読者にだけ教えてくれる。
 ニーナ・マツモトのイラストは、日本人にも好まれそうな絵柄で、スパークス犬の活躍シーンは勢いがあり、ネコたちは表情豊かで、プリンセスはかわいらしい赤ちゃん姿と不気味な宇宙人姿のギャップがたまらない。最後のバトルの舞台は動物園で、ライオンやワニ、サルやゾウなど、たくさんの動物が登場してにぎやかだ。
 なお、リターボックスはプリンセスが送りこんだマシンにつぶされるのだが、データはすべてバックアップされているので、オーガストが作った新リターボックスにUSBメモリを差すだけで復活するという、いかにも現代らしい展開もある。また、町の人たちはスパークスに感謝しつつも、もしかして自作自演じゃないかと疑う場面もあり、人間の複雑な心の動きも描かれている。
 第2巻ではまさかの偽スパークスが登場する。3月には第3巻が刊行予定で、続きが楽しみだ。


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