THE BOOK OF HOPES

新型コロナでロックダウン中の子どもたちのためにと、イギリスの児童文学作家キャサリン・ランデルの呼びかけで実現した本。100人以上のイギリスの児童文学作家・画家が、ショートストーリーや詩、イラストを提供した。テーマは「希望」。子どもだけでなくおとなにも力をくれる。
※作品リスト、試訳あり。基本的な条件も確認しました。ご興味ございましたら mikkii-@nifty.com までご連絡お願いします。

●4月公開のオンライン版(全ページ)

●紹介動画

編者:Katherine Rundell(キャサリン・ランデル)
出版社:Bloomsbury Publishing Plc(イギリス/ロンドン)
出版年月:2020年10月(オンライン版は2020/4/27に無料公開)
ページ数:382ページ(書籍版。オンライン版は377ページ)

おもな文学賞

・ウォーターストーンズ文学賞ショートリスト (2020)
・英国文学賞ブック・オブ・ザ・イヤー ノミネート(2021)

概要

 新型コロナによるロックダウン中の子どもたちのためにと、イギリスの児童文学作家キャサリン・ランデルの呼びかけで実現した本だ。100人以上の作家・イラストレーターが賛同し、「希望」をテーマにした作品を集めた、宝箱のようなアンソロジーとなっている。献辞は命懸けで仕事を続ける病院関係者へ捧げられ、売上の一部は医療団体に寄付される。4月27日からオンライン版が無料で公開され、10月に書籍化された。キャサリン・ランデルのインスタグラムによれば、5月20日の時点で25万人に読まれたそうだ。
 名前を連ねるのは、現代のイギリスを代表する作家やイラストレーターばかりだ。マイケル・モーパーゴ、ジャクリーン・ウィルソン、アンソニー・ホロヴィッツ、パトリック・ネス、サリー・ガードナー等々、そうそうたるメンバーが並ぶ。絵本からヤングアダルト、一般書まで、なにかしらの邦訳がある作家が多いが、邦訳がない作家もイギリスの児童文学賞を受賞あるいはノミネートされた新進気鋭の作家ばかりだ。これだけの数の現代児童文学のアンソロジーは、なかなか例を見ないのではないだろうか。
 新型コロナはいったんピークが収まったと思いきや各地での感染再拡大が続き、ワクチン接種が始まったとはいえ予断を許さない状況が続いている。本書に収められている作品はどれもこれも胸を打つものばかりで、子どもだけでなくおとなにも力を与えてくれるものばかりだ。むしろ、疲弊しているおとなにこそ必要な本だと感じる。また、新型コロナでなくても、大震災や台風被害など、つらい生活を強いられている人にもぜひ届けたい本である。内容的にも、一過性の話題本ではなく、長く読み継がれるべき要素を兼ね備えている。読み聞かせにも最適だ。また、『五分後に意外な結末』などが人気の短編ブームにも乗れると思われる。
 オンライン版は110名ほどの参加者だったが、書籍版では130名に膨れ上がっている。翻訳も多くの翻訳者の方にご協力いただき、さらに想いをこめた1冊としたい。なお、出版に当たっては収益を寄付するよう厳しい条件があり、詳細は別途確認が必要である。

構成および内容

・短編:約75点(フィクション、ノンフィクション、エッセイ等)
・詩:約20点
・イラスト:約40点

 数点ずつ、30ほどのカテゴリーに分類されている。集まった作品の内容に基づきランデルが分類したものと思われるが、多種多様な作品が集まったことがうかがえる。
 既存の著作からの抜粋も若干あるが、ほとんどは本プロジェクトのための書きおろしだ。短編は1点あたり3ページ前後で、訳上げ1000~1500字ほどの見込みだ。本書全体で"Hope"が100回ほど出現する。"Hope"自体を主題とした作品もあれば、"Hope"ということばを使わずに表現している作品もある(こちらのほうが多い)。また、"Hope"がテーマといっても気張った印象はなく、読後に心がじんわりあたたまるような、優しい、余韻が残る作品ばかりだ。軽快な、心を軽くしてくれる楽しい作品もある。作者の実体験にもとづくと思われる作品も多い。既存の著作にからめた作品もある(主人公のモデルになったネコの話、アイデアが生まれたきっかけとなったできごと、スピンオフ的なワンシーンなど)。イラスト作品は、イラストだけでなくメッセージやセリフが入ったものもある。
 また、原作者は絵本作家からYA作家まで幅広いため、対象年齢も広い。絵本作家はイラスト作品が多い印象である。短編・詩は深みのある作品が多いため、基本的に小学校高学年以上(大人まで)のほうが響くと思うが、小中学年以下でも優しい雰囲気をじゅうぶんに味わえると思う。
 巻末には、Further Readingとして、各アーティストの作品名が1点ずつ紹介されており、今後の読書ガイドにもなっている。



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