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メキシコ旅の記録ーマヤの織物芸術を学ぶー
本記事では、2022年4月から大学院を休学し、10ヶ月間南米へアートを学びに旅に出た私が、同年10月に、メキシコのチアパス州に住むツォツィル族の織物職人の方から、マヤ文化の織物芸術を学ばせていただいた1ヶ月半の日々について書きます。
マヤの織物芸術
主にメキシコ南部等で継承されているマヤの織物芸術は、マヤ族のアンデンティフィケーションを構成する大きな要素です。
特に、チアパス州に住むツォツィル族とツェルタル族は、はるか昔から受け継いだ感性を持ち、特に女性が背負機を用いて作る文化があります。(日本だと腰機”こしばた”と呼ばれるようです。)
ヨーロッパからの植民地化の力、グローバル化した市場の機械産業等に対して、織物芸術が抵抗できた理由は、それらが彼らのアイデンティティを表す象徴として機能しているからだと言われています。
私はツォツィル族の方に織物芸術を習いました。
初めて織物芸術が施された服を見た日、「なんて可愛いんだ!なんて綺麗なんだ、、、!」と純粋にときめいたと同時に「どのように作っているのか知りたい!」と興味が湧き、現地の織物職人を探し回ったことを覚えています。
たくさんの方のご協力の末、カランサ村のツォツィル族の織物職人さんにお会いすることができ、1ヶ月間半ほど、職人さんの自宅にて、カランサ村の織りの技術の一部を教えていただくことが出来ました。
ここでは、1ヶ月半の織物作品の制作過程を、活動の写真と私の日記をもとに綴りたいと思います。
マヤの織物 制作日記
10月4日 冒険の始まり
私の冒険は、メキシコ人の友人のチャーリーと私が、織物の先生であるドミさんと初めて出会うところから始まった。
ドミさんはその日、ご自身の自宅兼仕事場にて、織物で使う道具や彼女が作る伝統的な服ウィピルを紹介してくださった。
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10月5日 市場で道具の調達
私と友人のチャーリーは、サン・クリストバル・デ・ラス・カサスのサント・ドミンゴ市場へ向かい、織物のために必要な道具ファハと糸オメガを購入した。
その市場はとても広く、多くの人が先住民の言葉を話されていた。私たちは、道具を探すことに非常に苦労したことを覚えている。
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10月6日 糸に触れる
この日から、私はドミさんの生徒として、彼女の仕事場へ伺った。織物の初日の工程は毛糸玉を作ること。この作業の間、私は織物で使用する糸の全ての箇所に私の手が触れていることに気づいた。
手工芸作品の魅力の一つは作る工程の中でそれらの素材に、人の手が触れているということにあるのだと思った
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10月7日 糸が布になるとき
今日は、まず織物の作業に入るための準備を行った。コメンと呼ばれる特殊な道具で、糸の長さを計りながら、織物に必要な分だけ、コメンに巻き付けていった。
その後、実際に織りの作業に入った。それまで糸だったものが、布に変わる瞬間を見て、私はとても感動したことを覚えている。
世界中の多くの布は糸でできているんだと、当たり前のことながら、感心していた。
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10月11日 感情も織り込まれる
今日は、ドミさんに興味深いお話を伺った。織物の中には、織物をする女性たちの様々な感情も一緒に織られていくという話である。
彼女は「私たちの悲しみや喜びは、ブロケード(生地内に模様が織り込まれた織物のこと)の一つ一つに込められている」とおっしゃった。
織物に集中している間、私自身の気持ちも自然と落ち着いていっていた。
少しずつ織っていくこの工程は、時に複雑で難しく、時にとても興味深い。
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10月13日 糸と仲良くなった
作業の一連の流れを掴めるようになった。頭ではなく指が覚えていくような感覚があり、私と糸は前より仲良しになった。そんな気分である
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10月24日 気が散る日
気が散っている時の織物の上達は遅い。集中することはとても重要だ。心を落ち着かせることを意識しながら織物に集中する中で、私は禅宗の基本的な修行法である坐禅を思い浮かべた。
作業の後、私はドミさんに日本の文化や浴衣について伝え、ドミさんは、ツォツィル族のことについて教えてくださった。
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10月25日 もうすぐ完成
日を追うごとに、作業は終わりに近づいていた。完成まであと少しであるということが、ただただ嬉しかった。
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私とドミさんを描いた
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10月26日 完成、関係性の変化
最終工程に取り掛かる。ドミさんは、私の髪の毛を結んでくださった。作業中はゴミが生地に入らないように清潔な状態を保つ必要がある。
そして、ついに織物の第一作品目が完成。我が子のように大切に感じる…。
そして、この長い織物の時間の中で、ドミさんと私との関係にも少し変化があった。
ドミさんはとてもあたたかい人だ。一緒に過ごす中で、まるで母と娘であるかのような気がすることがある。
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10月28日 二つ目の作品
早速、二つ目の作品に取り掛かる。
今回は、ウィピルの作品を作るために、コメンに前回より少し長めに糸を図り、セッティングを行なった。
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10月31日 つい叫んでしまう
初めてのブロケードに取り掛かる。あまりにも複雑で難しい行程に、私はつい叫んでしまった。
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11月3日 少し成長
今日はブロケード以外の部分を仕上げた。ブロケードに比べると随分簡単に思えた。
織りの工程にも大分慣れた気がする。以前の自分に比べると、日々技術が向上していることが分かる。
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11月7日 集中必須なブロケード
再びブロケードに取り掛かる。ここは、かなりの集中力が必要となる場面だ。
ブロケードは、縦の糸を一本ずつ数えながら、模様ができる場所を把握し織る方法が一般的だそうだ。私には数えることが難しく、自分がこれまでに織った模様から、次のパターンを把握するようにしていた。
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11月9日 体に織りの動きが浸透
シントゥーラ(腰機)と呼ばれるこの織物方法。無地の部分の織りだと、二時間で十センチメートルまで進めることが出来るようになった。難しかった織りの工程は、まるで日常生活の一部のように、自分の体に浸透していっていた。
今日は風が強い日で、糸の動きが少し攻撃的であったので、織ることが困難な場面もあった。
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11月15日 指で糸を見る
今日は15cmまで織りを進めることが出来た。
集中力が高まり、糸が見えるようになった。これは、目ではなく、指で糸を認識しているような感覚である。以前は感じ得なかったものだ。
そして、いつも授業が終わるころには、すっかり疲れ果てていた。
ドミさんが、生地は家で手洗いするように教えてくださった。とても繊細なので、専用の洗剤を使って優しく洗う必要がある。糸だったものが布になるというのは、つくづく不思議な事だなぁと思う。
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11月16日 ウィピル完成
最後は、ドミさんが仕上げをしてくださり、初めてのウィピル制作もついに終わりを迎え、大きな幸福感に包まれた。
服に仕上げるために切り取られた小さな布の一部でさえ、まるで自分の娘のように愛着が湧き、私はずっとそれを優しく握りしめていた。
それを見たドミさんは、その布を縫ってくださり、最終的にそれは私の小さなハンカチとなった。
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終わりに
初めは、織物芸術作品の美しさに、ただときめいていただけでしたが、こうして時間をかけて制作をさせていただく中で、先人たちと繋がれた気がする瞬間があったり、その日や私との関係によって変わる糸の動き方に気づいたりして、日に日に織物芸術作品の新たな魅力に気づくことができました。
しかし、海外の機械で作られた、大量の安い刺繍服の輸入により、織物職人たちの仕事が少しずつ厳しい状況になりつつあるそうです。このお話を伺った時、より一層この手作業にある魅力を伝えたい...という気持ちが強まったことを覚えています。
活動全体を通して、糸と糸を時間をかけて紡いでいくことは、人と人が時間をかけて関係を紡いでいくことと似ているという気づきをもらいました。
この気づきを大事に、自身の制作活動を深めていきたいと思うことと同時に、今後も様々な場所へ旅することを続けていきたいなあと思っています。
良い旅だったなあ〜。
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