ぼったくりバーで30万とられたけど、見知らぬお兄さんが励ましてくれて実質インド旅行になった話

まえがき

お客様の中に!お客様の中に、ぼったくりバーの被害に遭われた方はいらっしゃいませんか…?
はい、わたしです。

生涯忘れもしないだろう、遠方に住む弟の誕生日に悲劇は起きました。お誕生日おめでとう。兄は、歌舞伎町で30万円ぼったくられてたよ。プレゼントは買ってやれないんだ。なぜなら30万ぼったくられたから。

家族には墓まで持っていかざるを得ない失敗談をまた重ねてしまいました。愚かな長男です。たぶんわたしの代で家系は潰えることでしょう。

わたしが如何にして騙され、如何にして立ち直ったか、記憶が薄れぬうちに記しておこうと思います。

有料記事ですが最後まで読めます。哀れだと思ったら小銭をぶつけて頂ければ幸いです。

でも本当は笑ってくれるだけで大丈夫です。敬愛する伊集院光さんが、失敗したことはラジオで話せるから挑戦するというのがラジオの正しい使い方だと思ってる、とよくおっしゃってます。泣き寝入りしてはもったいないんで、せめておもしろおかしくいようとは思います。

歌舞伎町の思い出

新宿歌舞伎町がおそろしい街だということは、地元にいることから知っていました。夜行バスで東京に来てはジャズのライブを聴き漁っていた学生時代。

予約した新宿のカプセルホテルまで、GoogleMapに案内してもらっていると、まだキャッチの客引きが激しかった夜の歌舞伎町を縦断するルートを提案されました。機械のいいなりは脳を退化させます。あれから何年も経ちますが「この先100m。夜の歌舞伎町です。迂回してください。」という音声は聞いたことがありませんね。

何も疑わず歌舞伎町に突入してしまった純朴な地方大学生のわたしは、次々とキャッチに捕まりました。

「お兄さん、キャバクラどうですか!」

「お兄さん、おっぱいどうですかー。」

「お兄さん、風俗。風俗。」

目が合うと人が近づいてくるのは、ポケモンの世界だけだと思っていました。だんだんと強敵トレーナーに声をかけられましたが、

「すいません、帰らないといけないので…」

「はやく帰れ!!」

見ず知らずの人に暴言をかけられられてないわたしは、少々怯えながら歌舞伎町を足早に通り過ぎました。このときの経験はまったく生きずに、10年ほど経ち、この男はぼったくりに遭います。

会う店ぐらい男が決めんかい

調べたら今のぼったくり界隈では典型的な手口のようなのですが、キャッチが厳しく取り締まられるようになり、マッチングアプリで話した女性がキャッチとなって店に連れて行くのが主流になっているとのこと。

Tinderで話していた女性(自称新宿のアパレル定員)と「仕事終わりなら!」と提案されて飲みに行くことになり、たまたま当日新宿に用事があった自分は「運がいいな」となんともお花畑な感想を思っていました。滑稽ですね。

待ち合わせまでにお店を提案するも「会ってから歩きながら決めよ!」とお店への誘導はすでに始まっていました。「行きたいお店がある」という手口もあるようですね。そっちだったら引っかかってなかったなぁ、なんてポイントは山ほどありました。このあともBADな選択肢を選び続けます。

アルタ前でウキウキウォッチングな気分で待っていると、現れたのはプロフィール写真とはまったく印象のちがう、やんわり言うと親しみやすい顔立ちの女性。突っ込んでも野暮でしょう。ひとの顔についてとやかく言えるようなイケメンだとしたら、アラサーにもなって、こんなずさんな歌舞伎町への誘導には引っかからない人生経験は積んでいたことでしょう。

「お腹すいてる?」

「そんなにすいてないかなー。」

仕事が伸びたということで待ち合わせに遅れてきた彼女は、飲み屋に行きたいようだった。本当はお腹すいていたのかもしれない。

上京し、歌舞伎町から一本外れたような地下お笑い劇場にライブを観に行くようになったわたしからは、あの頃の新宿への恐怖感はまったく消え去っていました。

東新宿方面に歩いていく途中でなにかお店あるでしょ、とまんまと目的地まで案内されるわたし。途中で思い出したように彼女は言います。

「友達から教えてもらった、ミュージックバーに行きたいな~。カラオケ好きなんだよね」

カラオケに行こう。

密室でどうこうしようという気はありませんでしたが、その一言を思いついて、強く提案できていればアナザーストーリーが待っていたことでしょう。安くカラオケができて、お酒が飲めるところ。それがカラオケボックスなのです。

とうとう雑居ビルに着いてしまいました。ここまで歌舞伎町というワードは出てきておらず、本当に1度地図を見ておけばよかったと思い返します。

納得いかないもの出てきたらキレて帰らんかい

薄暗い店内に案内され、事務所の資料保管用みたいなピンク色のごついポケットファイルに入ったメニューを出される。店内には大音量でJPOPヒットチャートみたいなムードのかけらもない有線が流れる。有線ですらないかも。無許可でサブスクとか流してるんだろうな。

メニューの値段をみて確信した。やられた。飲み放題は1時間5000円。ドリンクはだいたい1杯1500円~と設定されていた。どう考えても高すぎる。わたしは女性に提案した。

「ちょっと高すぎるし、この値段だったらけっこういいもの食べて、その後カラオケ行けるよ」

正論だけど提案している時点でアホなのだ。これはダメなやつだとわかりつつ、人としての行動を守ってしまった自分は絶好のカモだったのです。「飲み放題だよ?」のひとことに、もうここまではダマされようと思ってしまったのが愚かでした。

ここで行動していたら、タダで帰れたでしょう。

ほどなくしてメニューの説明に店員が来ますが、書いていて思い出した一言があります。
「こちらが飲み放題のドリンクで、それ以外のものもあります。2,3杯飲まれるなら、飲み放題のほうがお得だと思います。」

1500円の2,3杯…掛け算もできないのか~!

わたしが疑わしい発言を見抜くゲームをプレイしていたなら異議あり!!と突っ込んでいたところ。通常の価格設定のお店では、常套句のように聞く「飲み放題お得理論」です
が、ぼったくりバーではほころびがでていました。5cmくらい糸出てたと思う。

掛け算もできない店員にだまされたこと、掛け算ができないくらいだまされた事実に動転してたわたしは、とにかく穏便に最低料金で出ようと、1時間の飲み放題をしぶしぶ承諾し、おそらく生涯で一番高い、ぬるいビールを飲んだ。店員は髪を伸ばしたあばれる君のような顔です。

フードはひとり2オーダー制。一番安い枝豆が800円で、大体が1000~1500円程で提供されており、ぼったくりを隠すつもりもない価格設定だった。少しでも被害金額を抑えたかったわたしは、枝豆を注文しようとすると「枝豆切れてるんです」と店員。この後のわたしのように、きれいに最後までだまされる客ばかりではないのでしょうね。途中で帰られても、十分な金額を取れるようにこの値段設定なのだ。

店員が、ゲームにお使いください、とプラスチックのお茶碗に入ったトランプとサイコロを運んできた。店員は説明不足だったが、この後、陰の店員である女性がルールを説明してくれる。遊戯王もびっくりな闇のゲームのはじまりだったのです。

しばらく経ち、席に運ばれた品物を見て愕然とした。すべて紙皿と紙コップに入った、ミックスナッツと、ビーフジャーキー。ポテチとポッキーの”スナック盛り”に、6Pチーズとチータラ、キャンディチーズの”チーズ盛り”だ。

大学生の頃の宅飲みってこんなだったなぁ。。

と感慨深くなる暇もなく、どんどんと落ち込みがひどくなるわたし。なぜ内容を聞かなかったのか。そもそもなぜメニューを一見して帰らなかったのか。(なにも頼まず帰れる雰囲気の店ではなかったのだけど。)

戦意を削ぐゆえの低クオリティなのか、ドケチゆえの低クオリティなのか、あるいはその両方か。いずれにせよ相手の作戦勝ちです。

キレ散らかして「金は払うが帰る!」と言えるだけの内容でした。店には何を提供するかの自由がありますが、客には帰る自由がある。ぼったくりではない普通の飲食店だったとしても、はるかにクオリティの低いものが出てきたら、怒って指摘して帰るのもそのお店のためなのです。

ここで行動していたら、2万円くらいで帰れたでしょう。

トランプでハイアンドローはパリピだわい

完全に戦意喪失しているわたしと会話が弾むわけもなく、まもなく女性はトランプで遊ぶことを提案してきた。サイコロはなにに使うんだろう?と聞いてみたけど、いま思えばチンチロだろう。この女性がチンチロを知っていたら、あきらかにミスマッチな風貌だった。あえて知らないふりをしていたらキャラづくりの一環ですね。

「トランプ、なんのゲーム知ってるー?」

はやく1時間経って解放されたいわたしは、トランプにも乗り気ではなく、生返事をしていた。

女性がなにかドリンクを頼んでいる。ピッチャーに入った謎の酒が運ばれてきた。

「なに頼んだの?」

「ブランデー。」

おれお酒つよくないから大丈夫かなぁ。そんなことを言っていた。

女性の本業がこのお店なのか、アパレルの副業でやっているのかはもはや確かめようがないけど、飲み歩いているような感じはしなかった。闇バイトなのだろうか。自社の服を買わなくてはいけなくて貯金が貯まらないと言っていたところに、アパレル店員としてのリアルさはあったけど、ここでお店のマニュアル感が出てしまった。

「ハイアンドロー知ってる?」

ルールはなんとなく想像つく。けどやったことありますか?トランプで遊ぶときに思いつきます?パリピ飲みのなかでは、ハイアンドローやチンチロで負けた人がイッキするという文化があるそうですが、その女性には見た目と仕事があっていませんでした。

ルールはかんたん。前の数字より高いか低いかを予想して、トランプを1枚めくる。外したほうがイッキする。女性が慣れた手つきでトランプを混ぜ始める。さあ闇のゲームがはじまります。

さっそく外してしまった。しばらくは大丈夫だろう。そそがれた透明のなにかを飲んでみる。

わたしはレストランでドリンク場を任されていたことがあって、肥えてはいないけど、なにを飲んでいるかとある程度の度数くらいはわかる。あきらかに限界までうすめた梅酒だった。そもそも透明なのです。透明のブランデーってグラッパですか?

ここでわたしの頭が悪い方に回転し始める。嘘のドリンクを出す上に、水で薄めるのか。飲み放題用とは言えひどすぎる。

しばらくして店員に尋ねる。「何分に入ってますか?」ゲームで時間を忘れさせ、どんどんチャージをさせていく竜宮城スタイルだと警戒したわたしは先手を打つ。

「ラストオーダーはお伺いするので、勝手にチャージされるとかはないです。」では、はやく1時間経ってくれ。その思いでいっぱいだった。

途中なぜか1度だけババ抜きをしましたが、罰ゲームの効率が悪い。今風に言えばタイパが悪い。女性はすぐにハイアンドローに戻しました。ババ抜きをしたら、なぜか1組そろわないトランプでした。

お酒にはほとんどアルコールが入っていないので、お酒に強くないわたしにも優しく、ハイペースですいすいと飲めていく。

さて、お気づきの方もいると思うけど、これが”飲み放題外”のドリンクだったのです。

ATMって便利だわい

3回ほどピッチャーをお替りしただろうか。店員が心配そうな顔で伝票を持ってくる。「飲み放題以外のドリンクを飲まれていてかなり高額になっちゃってます。」
伝票には303,400の数字。やられた。完全にやられた。

そういうことかぁ、、、と大きな声でつぶやき、ここでせめてもの抵抗を試みる。

「このショット、なん度ですか?」
「10%です。」

この嘘もすぐ分かる。ショットで50杯近くも飲んでいたら、テキーラ換算なら12,3杯は飲んでいる。とっさの嘘かマニュアルかはわからないが。さらに尋ねる。

「ショットと書いてあって水で薄めたものを提供するのは、おかしいですよね。ふつうボトルから注いだものをショットと言いますけど。プロとして働いていたことがあるのでわかりますが。」

この”プロ”というワードに相手がひっかかったらしい。店員はキレだした。

「おそらくこういうお店来たことないですよね!!”歌舞伎町”なら普通の値段ですが?度数の低いものをショットと言ってはいけないとどこで決まっているんですか?メニューの説明もして、飲み放題以外のものを女性が頼まれて、出てきたものを飲んで楽しまれましたよね!このままだと無銭飲食になりますよ?”プロ”としてやっていたんですよね?」

わたしは飲食店の元プロだったが、相手はぼったくりのプロだったのだ。しかも現役だ。敵うはずもない。

そして、わたしは自分が歌舞伎町にいることにはじめて気がついた。歌舞伎町以外の新宿に来るうちに、歌舞伎町の結界を意識しなくなっていた。

女性は、「ごめん、職場に財布忘れちゃった。。」と芝居を打つ。あの、いらん。

「とりあえず持ってないと思うんで、ATM行きましょう。まずは今持ってる分を”全部”出してください。」

わたしは5000円札を出す。

「400円とかあります?」

そこは普通のやりとりなんかい。わたしもこの時点ではアドレナリンが出ていたので、「あ、”全部”でしたもんね。すいません。」と財布をひっくり返し、小銭をぶちまける。

あきらかに不快そうだったが、暴力沙汰にしてしまっては店側が不利になるからだろう。ATMで払うときに端数だけ処理したいんで、と丁寧に説明してくれた。なんだったら、殴られていたほうが被害は少なかったかもしれない。相手もプロなのだ。

店にいた別の男、金髪ロン毛でキャップを前後ろにかぶった男が登場し、ふたり体制で店前のコンビニへ同行させられる。これはまずい。わたしはできるだけバレないように、普段使いのカードを財布から出し、上着のポケットに隠した。

コンビニに着き、金髪ロン毛は店の外で待ち、下っ端店員とATMに向かった。カードを入れるように要求される。残高の全くないゆうちょ銀行の画面をみて「給料日前だった…」と白白しく嘘を付くわたしに、かばんの中を見せるよう言う店員。ポケットに移したところは見ていないようだった。

「ふざけるな。残高600円で飲みに来たのか。」
「カード使えると思ったんで…」
「とりあえず店の外で話し合いましょう。」

ここで上着のポケットよりは見つからないだろうと、ズボンの後ろポケットに移し替える。ここが見られたのか、女が気づいていて金髪に言ったのか、金髪に「カード移したのバレてんだよ。」と告げられる。下っ端に肩をつかまれた。

さすがに身の危険を感じ、「助けてください!」と店内に助けを求めた。
しかしここは新宿歌舞伎町。こんなことは日常茶飯事なのだろう。だれも見向きもしない。

店の男も、慣れているのだろう。肩をつかんだ手を離し「コンビニに迷惑になっちゃうんで。外で話しましょう。」

なにをされるかわからなかったわたしは、ここで110番通報をする。

違法ではないんかい

「事件ですか、事故ですか。」

事件といえば事件である。簡単に顛末を話した。

「暴力はふるわれていませんか。」

肩を掴まれたところで危険を感じてしまったので、暴力は未然に防いでいた。

「どちらのコンビニにいますか。」

近所のコンビニだって、店名を意識しないだろう。とっさに店員にここが何店か聞いて、電話口に伝える。すぐに向かってくれるそうだ。

「すいません、ぼったくりの被害に遭ってしまって、警察が来るまで待たせてもらっていいですか。」
コンビニ店員に尋ねる。「はぁ。」というような、イェスでもノーでもない返事。

なかなか警察が来ない。外で警察が帰るように、バーの男たちが仕向けたのかもしれない。もう一度110番する。

「○○さんですよね。店の中で待ってるんですね。今向かってます。」

コンビニの中になんども見回りに来る金髪に怯えながら待っていると、警官が到着した。わたしは耳を疑った。

「コンビニに迷惑になっちゃうんで。外で話しましょう。」

 バーの男と全く同じセリフだ。警官の格好をした一味なのか?そんなことまで考えた。お店のひとに了承してもらってるんで、と言うと、そうなの?とコンビニ店員に尋ねる。またイェスでもノーでもない返事。

同じ縄張りで、法律すれすれのやり取りを中立で仕切っているのだから、失礼ながら一味といえば一味だし、できることとできないことがあるのだろう。

話してみて、とラフに聞かれて、やはりここでは日常茶飯事なのだということと、これもお決まりのように暴力を振るわれていないかを確認された。

「話し合うしかないんですよ。私たちが見てるんで。」

外でもうひとり警官が待っていた。お弁当売り場から自動ドアまで歩く間に悟ったわたしは、こう告げました。「あの、よくわかりました。払います。」金髪と女性はすでに立ち去っていた。

商品の契約について決められているのは民法なのだ。刑法に違反していないことにここで気がついた。「払えるの?」誰が言ったか、言ってないかおぼえていない。いや、というか口座にそんなにお金は入っていなかった。「借りるんで、待っててください。」

長丁場になると思っていたのだろう。急展開に、バーの男も警官も付いてこれてなかった。事態の飲み込みの良さがすべて裏目に出た小一時間だった。こうなるだろうと勝手に予測して、まんまと罠にかかっていた間抜けな男です。払わないと帰れないことを悟って、とっとと帰って自分の愚かさを忘れたい思いでいっぱいだったのだと思います。

「今手続きしましたんで。」と伝えると「待ちます。」という下っ端店員は、数分も経たないうちに苛立ち「まだ?」と急かします。

早すぎる問いに「え。待つって言ってから何分経ってます?」とシンプルに疑問を投げかけるとふたたび男がキレだします。

「なんで上からなんだよ!?お前が無銭飲食してるんだろ!下から来いよ!」

本当にがっかりします。こんなバカにだまされていたと。バカがバカにだま
されている地獄の現場だと。

「わんわん赤ちゃんみたいに泣きわめいて!あんた何歳?警察が来たら態度変えてんじゃねぇよ!」

男をたしなめる警察。負けるが勝ちとは思えない状況でしたが、男のそれも、勝っていても負けているような遠吠えでした。Web口座を繰り返し更新して、残高が増えた瞬間をめざとく見つけた男は、じゃあ引き出しに行きましょう。とATMへ向かいます。

警官が暗証番号を見ないようにと男に注意し、わかってますよというように、そっぽを向く。「1回に20万円しか引き出せないんで。」と指示され、誤操作して2万円と入力してしまったところもめざとく「2万円だろうが。」とツッコまれる。その反応速度、何かほかに活きるといいなと心底思った。

20万円と9万8千円を、丁寧に数えて懐に納める男。ATMを疑う男と、女性を疑わなかったわたし。

思いつき、行動しなかったことにここまでの不利益が生まれることを、身をもって知った日だった。

仲良くなる前の女性と、ぶっつけ本番で話して人見知りの場慣れをしようと行動を起こした日でもあった。不器用だ。

笑ゥせぇるすまんかい

昔から藤子不二雄Aの笑ゥせぇるすまんが大好きです。

平凡な人生を送るその回の主人公(おおくは男)の前に、喪黒福造という怪しい男が現れて、刺激的な日常を用意する代わりに、ひとつだけ約束を守るように忠告するが、男たちは欲望に負けて約束を破り、その代償に大金を払わされたり、家庭が崩壊したり、死んだり、廃人になるブラックコメディ作品です。

わたしは、疲労が出やすい症状で病院に通っていますが、お酒は治りが遅くなるから絶対禁止だと言われています。自分の健康を測るバロメータとしてときどきお酒を飲みますが、好きな作品のまんま同じような体験をして、笑けています。

崩壊する家庭もないし、一生を棒に振る金額でもないし、ましてや無傷で帰ってこれたので、せいぜいこれを笑い話にして生きていこうと思います。
そうそう、タイトルのインド旅行って話ですが、このあとにコンビニから出てきたお兄さんが話しかけてきたことから、わたしは救われるのです。

お兄さんそっち側じゃないんかい

「やられた?」

下っ端店員が立ち去り、警官ふたりと話していた私に、突然ひとりの男が話しかけてきました。わりといかつい格好をした男で、当然警戒しました。

「なにでやられた?マッチングアプリ?」この街で生活していたらいやでも事情通になるのだろうけど、警官同伴でATMにいるのを見たから、ぼったくりだなと思って、声かけてやろうって、と。

お兄さんは昔話をはじめました。
「おれも学生の頃ぼったくりに遭ったんだよ。風俗店で1万円でって言われて。女の子を呼ぶのにもう1万円かかるって来たのがぜんぜん違うババアで。ここからなにかするのはプラス2万だって言われて。」

こういうような話をわたしと警官に向けて語ります。夜のお店の相場はわからないので、うろ覚えの話です。
「最後はババアが同情して、手でしてくれるって言うんですよ!」
警官もわたしも笑っています。

「お兄さんそっち側のひとでしょ?」と阿漕な商売をしていると冗談半分で疑う警官に、
「ちがいますよ。バイヤーです。」とお兄さん。「バイヤーってそういう??」と無料案内所かなんかのひとかと思いわたしが聞くと、
「ちがうよ!服だよ、服。」

和やかなムードになり、お兄さんがわたしをイジりはじめます。

「え?デートでしょ?なにその服?ダサすぎるでしょ!ねぇそう思いますよね?」
にやけて「いやいや…それは人それぞれだから」と答える警官。お兄さんのディスは止まらない。

「マッチングアプリなにやってたの?With?ペアーズ?え、Tinder?ぜったいTinder顔じゃないでしょ!ねぇ?」
「ぜったい童貞でしょ?嘘だ!おれの友達の童貞のやつもみんな嘘つくんだよ!」

「最悪!なんでそんなこと言われなきゃいけないんですか!」と笑うしかないわたし。

しょうもない顛末に付き合わせてしまった警官に申し訳なく「すいません、帰れないですよね。」と気遣うも、「いや帰ってもいいんだけど、なんか面白かったから。」と立ち話も終わり、警官と別れる。

お兄さんにお礼を言うわたし。
「そうだろ?このまま帰ってたら帰りの電車の中で、落ち込むしかなかっただろ。何線で帰るの?」

駅まで送っていってもらう間にいろいろと話しをした。

人生観なんてどこでも変わるんかい

「さっきは色々言っちゃったけどさ、ぼったくられたときは数ヶ月落ち込んだけど、今はその話して警官から笑いも取れた。」
「周りにぼったくりに遭ったひといる?いない?じゃあ、お前は頭一つ飛び抜ける経験したんだよ。」
「辛いと思うけど、同じようなことするようにはなるなよ。」
「ぼったくりに遭ったら、ぼったくりに遭ったひとの気持ちがわかるようになるんだよ。」
「おれもぼったくりに遭った時は学生だったし数万円は大金だったけど、今ははした金だって思えるくらいにはなったよ。お前もがんばれよ。」

当たり前のような話なんだけど、わたしはとても救われた。当たり前のことを当たり前のように言えて、当たり前に励ます、ということがどれだけ難しいことか。

ここまで読めばわかる通り、自分は言葉を頭の中でこねくり回しすぎる。ああ言ってはどうか。こう言い換えたらどうか。でもそれが相手に届いているかなんてわからないのです。がんばって変化球投げたのにボールかもしれないのです。お兄さんの直球ストレートはわたしの胸を打ちました。

「自分も将来、同じような人を見かけたら励ますために声かけます。」
お兄さんとわたしは、固く握手をして、軽くハグをして別れた。

「あと、ファッションは研究しろよ。」

最寄り駅についた頃には、すでに落ち込みより高揚が勝っていた。自分ってこんなに間抜けなんだ!バカだなぁ!笑いながら夜道で腿を叩いた。

人目を気にしたり、いいことを言おうとしたり、触れるものからなにかわかろうとしていた自分は一体何だったんだ。

異性に嘘をつかず、虚勢を張らず、ありのままを受け入れてほしかった自分は何だったんだ。こんなに間抜けだぞ。自分が愚かなことは自覚していたけど、ポップに紹介できるいいエピソードができました。こんなことからもなにかを学ぼうとする自分の貪欲さと貧乏臭さも。人に、少しだけお腹を見せやすくなったような気がします。せめて愛されるバカになろう。

お金について考える。自分は月2~3万円のローンを組んだマンションに住んでいます。趣味はほとんどゼロ円でできること。映画観たり音楽聴いたり、ラジオで笑ったり。お酒も外で飲むより、家が好き。最近は自炊が楽しい。たまにプロジェクターとか、コレクターズトイとか高いものを買う。

それでも転職するときは年収が一番だし、自分の市場価値は知りたいし、自分にとってお金は必要のないモチベーションだった。

今回30万円を一夜にして失って、しかもよくないところに流れるであろうお金で、わたし自身は愚かな自分への代償と思って払えば済むことなのでそこまで痛手に思ってないけど、30万円でなにができたかなって考えます。

友達に67回くらいご飯おごれたな。13回くらい女性にいいカッコできたな。色々できるな。どこまで旅行できたかな。世界を観たら人生観変わってたかな。でも人生観少し変わったな。

ま、インドに旅行したみたいなもんかな!

お兄さんありがとう。

疲れてしまったので、読み返す気になりません。加筆したりした部分が前後とつながっていない部分も多々あるかと思います。最後まで読んでくれてありがとうございます。

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